上 下
9 / 34

水晶の迷い道 9

しおりを挟む
 翌日、お兄様と一緒に朝から工房へ向かった。ヘレンさんに場所で送ってもらい午後に迎えに来てもらうようにお願いした。
 工房ではすでに何人も作業していた、何を作っているのか見ると昨日自分の作った3D彫刻を作っていた、職人として目新しい物にチャレンジしたくなるのだろう、きっと技術の向上に繋がるから良いことだろう、
 お父様は貴族向けには商品を直接売り行く、または宝石のみを見てもらい、気に入ったものをその後から希望する宝飾品を作る。この時に持っていくのは腕のいい職人の作ったものだけだ。それ以外の物は西区にあるお店に置かれていて、一般の王都民が買いに来る、今作っているような練習で作ったものでも売れそうだったら売りに出している。今作られている物は幾つかはお兄様と一緒に学都に行きラインバース宝石店の宣伝として一役買ってくれるだろう。

「おはようございます、ロバーナさんは居られますか?」
「お嬢、おはようございます。それに坊ちゃん、お嬢が心配で帰って来たんですね、帰ってくる気はしてましたぜ」

 お兄様のシスコンぶりは周知の事実のようだ、とりあえず今日来た用件を伝えると、急ぎの仕事もないから大丈夫との事なので早速奥の部屋でお勉強を開始する、お兄様はカリワさんとミュフィーさんに3D彫刻の制作状況を聞きつつどのように作るのか聞きつつ私を褒め足り自慢してる。器用なもんだ。

「知っているとは思いやすが、一から説明させていただきます」

 教えて貰うのは
・主な宝石類や貴金属
・それれぞれの用途
・どのように扱うと割れたり傷ついたりするのか
・どのようにカットすると美しくなるか
・真贋の見分け方
等々

 元の世界にもあった、ダイヤ、トパーズ、ルビー、サファイヤ、エメラルド等々以外にもまったく知らない鉱物の名前もあった。
 特に魔石と呼ばれる分類だ、この魔石は大まかに3種類あって、一つは魔物の体内で形成されるもので、もう一つが地中の魔力の流れや溜まっている場所による作用を受けた鉱脈から出る物、そして人工的に結晶を作り出してその成長途中に魔力を練りこんでいく物が有るという。最後のはできたらやってみたいので覚えておこう。
 この世界の岩石は残念ながら細かい分類はされていない。しかし、産出する鉱物の2次鉱物は知られているようで、それが有るところにはそれの元となった鉱物が出るから鉱山の運営者や自分みたいな石好きには必要な知識だろう。けどまさか、火成岩・堆積岩・変成岩の分類すら無いとは・・・いや、確か岩石の分類が始まったのはわりと近代だったはずだから仕方がないか。
 宝石はただ美しい宝飾品として使われる以外に、魔法や魔法薬の触媒・粉末はスクロールの塗料等に使われる、魔石は魔術を組み込んで魔道具に使われたり、魔力を貯めておけるので魔力タンク等として使われるそうだ。

「勉強になりました!」
「次は実技ですぜ、と言っても二人はまだ水晶しか扱えねえでしょうから、お嬢の考えた内彫刻をやりましょうかい」
「「はい!」」

 元気に返事をして水晶を手にする、用意されたものはすでにカットされた物や水晶の形のままの物だった、なのでお兄様に渡す分をジャンジャン量産していく、この綺麗な六角柱にバラの花から茎までをモチーフにしたものなんかなかなかの出来だ、うまく花ビラを一枚一枚再現できているのでお兄様のいい人でもいればその人に渡してもらおう。お兄様にもあげないと拗ねるだろうから作らないと、何が良いだろう?私の顔なんか言われたらどうしようか・・・

「お兄様、中に掘る物で何か希望はありますか?プレゼントさせてください」
「え!プレゼントかい、うれしいな!そうだなあ、何か商売繁盛を願う物なんかが良いかな」
「商売繁盛ですか、それでしたらあれでしょうか」
「あれ?」

 日本人ならだれでも知っている招き猫である、上げている手によって金運と客入りが変わったはずだがどっちだったかな?まあ、気にせず作ろう。
 さっきから作りまくっていたおかげでだいぶ細かい調整ができるようになっていた、[カット]の薄い膜を面から立体に成るように広げ、広げた分カットの効果が薄まりカットの密度が細かい網の目のような状態になったので一回で立体に掘れる、ただ、頭の中で立体図を構成しながらじゃないと無理なのでかなり集中力がいるので、簡単な物しか作れない。

「出来ました、どうぞお兄様」
「これは、遠い異国の古い豪商が好んで置いていたという招き猫か、よく知っていたな」
「以前本で読んだことが有りまして、商売繁盛の御利益が有ると書いてあったもので」

 これは本当だ、リタの記憶に残っていた。いったい女神さまは、何人やらかしたのだろうか?今度聞いてみよう。

「ありがとうリタ、もっと大きな店にして見せるからな、そしてこのもう一つのバラのもプレゼントかい?」
「プレゼントですけど、どなたか学都でお世話に成った人に渡してください」
「そうか、あいつにでも渡すかな、確か花が好きだったはずだ」
「あら、いい人ですか?」
「はっはっはっ、そんなんじゃないさ、僕が売っている小物を作って貰っている人だよ、アーリーって名前の女の子で同じ学年でね、入学当初から仲が良いんだ」

(あー、お兄様は鈍感系の可能性が出てきたぞ、アーリーさんには入学後協力出来ることが有ればしてあげよう)

「そうでしたか、ではその人にあげてください、そしてこれらを持って行ってしっかり売ってください」
「そうするよ、ありがとう、他に作った物は売ってしまうのが惜しいくらいだ」

 この後、出来上がった内彫刻はお兄様の魔法箱マジックボックスに入れていった、いわゆるマジックバッグの一種だろう箱というが引き出し近い、形は幅と奥行きが10cm、高さが2cmほどで、引き出しの取っ手を引くと長い引き出しが出てきてさらに幾つかの小さい引き出しが横についている、それを更に引いて、横長の引き出しを引くと、少し奥行きのあるパーテーションで分けられていて鉱物用の標本箱に似ている。空間拡張の魔法が有るのだろう、拡張域は大きさ的にそんなに広くはないだろうがおそらく高価なもので、これはお父様がお兄様に入学祝にプレゼントしたものだ。
 ヘレンさんが迎えに来たのでこの日のお勉強は終わった。帰ってからヘレンさん監修のもとに軽い筋トレを開始した、少しづつ運動量を増やして行くそうだが、結構キツイ・・・明日筋肉痛に成ってないと良いんだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...