婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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「・・・ん?」

ここ最近の雨のせいで訓練を控えているウエンだったが、いつもの習慣で朝早くに目が覚めた。しかし、下半身に違和感を感じる。不思議に思って毛布を剥ぐと、レイシャルが手がウエンの息子を握っていたのだ。

「っつーーーーー!レ、レイシャル!」

レイシャルはウエンの横ですやすやと眠っていが、性に疎いレイシャルのことだ。自分が何を握っているかは理解していないのだろう。

(ああ、こんな日が来るとは。もう少しこのままでもいいだろうか・・・)

「うぬぬ・・・駄目だ。起きなくては」

思考と行動が完全に噛み合わなくなったウエンは、理性を総動員させベッドから降りたのだ。そして、そのままトイレに駆け込んだ。過去最短記録を打ち出したウエンだった。

「ん、おはよう・・・どうしたの?朝からぐったりしているわよ」

「気にしないでくれ。朝から運動を少々な」

「そうなの。スコールの時ぐらいウエンもゆっくりしたらいいのに」

「・・・そうだな」

この時期は城で働く者もローテイションで城に泊まり込むのが通例だ。警備体制はそのままに、それ以外の持ち場は最低限の人員配置になっている。人が少ないせいか王宮では普段よりのんびりした空気が流れていた。

この時期は陛下もそわそわして落ち着きがない。ウエンもミリタもスコールベイビー(スコールの時期に妊娠した子供)だ。陛下は大好きな王妃としっぽり過ごせるのが相当楽しみなのだろう。そんな陛下を見て、ウエンも『親ながら勘弁して欲しい』と恥ずかしそうに話していた。

シェドには側室制度がない。基本的に一夫一妻制な上寝室も夫婦でひとつなのは王族としては珍しいかもしれない。ミリタは聞こえはいいけれど、シェドの男は妻への執着心が強いだけだと言っていた。そんなミリタもジジにべったりだ。

(傍から見れば、ウエンと私もこんな風に見えているのかしら?)

ふたりが朝食を食べ終わると、使者が到着したと報告を受けた。

「レイシャル、いよいよ使者とご対面だ」

「そうね」

「レイシャル様、ミリューがどう出るか分からない。俺達から離れないで欲しい」

「ええ、分かったわ。何事もなければいいのだけど」

ウエンと私、そして護衛としてワイアットとミカエルに数名の騎士。そして宰相が部屋に向かう。

「お久しぶりですね。みなさん」

「えっ?」

「はあ?」

部屋に入るとそこにいたのは、まさかのアンヌとキースがだった。アンヌは優雅に持っていたカップを置くと、みんなの顔を見て嬉しそうに微笑んだ。

「ど、どういうこと?使者ってアンヌとキースのことだったの」

「驚きました?」

「驚くに決まっているじゃない!」

そして、アンヌはみんなが固まっていてもお構いなしにきゅうきゅうと抱きしめてきた。豊満な胸で窒息しそうになるのも久しぶりで懐かしい。ただし、今回のアンヌは胸の大きさだけは昔のままなのに体付きだけはスレンダーだったが。

(Fカップ?私も本気で呼吸法を習おうかしら・・・)

そうしているうちに廊下が騒がしくなると、部屋に籠っていた陛下と王妃も駆けつけたようだ。

「アンヌが来ておるとは本当か?・・・ぶふぉ」

部屋に入って来た陛下ももれなくアンヌに抱きしめられていた。

「ところで、アンヌがどうしてミリュー王国の使者になっているのかしら?」

(流石、王妃様。よくぞ聞いてくれたわ)

「それはスザン王子の教育係を拝命されたからです」

「え?今スザン王子って聞こえたわ」

「ええ、間違いではありません。スザン王子の教育係です」

「どうして、アンヌが?」

「我儘な子には尻叩きが必要かと思いまして」

「嘘だろ、まさかスザン王子の尻をぶったのか?」

「ええ、叩きましたよ。ミリュー国王も王妃も」

「・・・・・」

「それで、スザン王子はどうなった?」

「そりゃ、いい子になりましたよ。ミリュー国王も今はいい子です。王妃はまだ矯正が必要ですが、聞き分けがない子はご実家に帰ってもらっても国政に影響はないでしょう」

アンヌは昔のままの笑顔でほほ笑んでいるが、すべて本気だから怖いのだ。

「そ、そうなのか。ところで何故ミリューの王族は結婚式に参列しないのだ?」

「一応レイシャル様の顔に泥を塗ってはいけないという配慮のようですよ。決して恨みを持っている訳ではないのでご安心ください。それにスザン王子は今経済を立て直そうと奔走していらっしゃいますから」

「あの我儘なスザン王子がですか?」

あの我儘なスザン王子がこの短期間で変わったなど信じられないと言った面持ちのレイシャルに、アンヌは自信をもって答えた。

「ええ、今のスザン王子を見ればレイシャル様も惚れ直したでしょう」

「それはどういうことだ?」

「それほどいい男になったということです。今のスザン王子を見れば令嬢も放っておかないでしょう。ウエン王子はレイシャル様のお心をしっかり掴んでおきなさいということです」

「勿論そうさせてもらう」

ウエンがアンヌの前では子供のように拗ねている。普段は家族の前以外表情を変えることのないウエンとしては珍しい光景だ。

「ふっふっふ。その調子です」

「ところでキースは何をしに帰って来た?」

キースがミカエルを意識していることに全員が気付いていたが、いつリリアンの話を切り出そうか迷っていた。

「・・・・・」

「リリアンのことを聞いたのか?」

「ああ。今更だけどリリアンに会いたい」

「会ってどうする。元気になったら、また突き放すのか?」

「・・・・・」

「お前の妻子はどうなった?」

「・・・・・」

「・・・・お前、結婚していないだろ?俺も最初は鵜呑みにしたが、結婚してみて分かった。なんていうか妻帯者の空気みたいなものがないんだよ。リリアンのために嘘をついたんだろ?」

「・・・っふ。家庭を持っている人間には見え透いた嘘だったな」

「そうか?わしは結婚しているが分からなかったぞ」

「あなたは黙ってて!」

キースが独身だったことに驚いたが、同時に王妃に怒られた陛下から“シュン”と音がした気がした。

「キース、自分の気持ちに素直になりなさい。スコールが止むのを待てないほどリリアンに会いたかったのでしょ?ドルトムント一族は貴方以外も優秀な人間は大勢いるわ。私達のことは心配しないでいいのよ」

「母上・・・。貴方が優しいと何か良からぬ魂胆があるのではないかと疑ってしまいます」

「まあ、酷いわね!そんなことないですよね?」

「・・・・・」

みんながアンヌから目を反らしていると、キースも『ほら、みなさい』とアンヌに突っ込んでいた。

「とりあえず、会う以上責任を持ってくれよな。これ以上悲しむ妹を見たくない」

「私もだ」

キースはそう言いながら席を立つと、片手にフードを持つ。

「この部屋にいる皆さんが承認です。母上が言った通り、私は今日をもってドルトムント頭首の座を降りる」

「「「おおーーー!」」」

「いいでしょう。さあ、リリアンの元に行きなさい」

「では、私はこれで失礼する」

キースが部屋を出ていくのを確認して、アンヌがお茶を一口飲むと面白そうに笑いだした。

「ふっふっふ。これでリリアンの恋煩いも治るでしょう」

「そんなことまで、ドルトムント一族は把握しているのか?」

「さあ、どうでしょう」

「それでキースには何と言ったのだ」

「薬では治らない病気だと、ちゃんと伝えましたよ」

「っふ、身に覚えがある展開だな」

「ミカエルの言い方も誤解を生むのではではないのか?これではキースが気の毒だ」

「別にいいじゃないか。キースが原因な訳だし」

「これでリリアンが上手く行くといいわね」


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