婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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エスト王国に着いた早々ツッティは休む間もなくハウバウト陛下に呼び出されていた。

(私が役に立たなかったと誰かから聞いたのかしら。それにしても報告が早すぎる)

「ただいま戻りました」

「・・・・・」

(・・・?睨まれている)

執務室に入るとハウバウト陛下やマデリン王妃以外にも宰相や文官達が勢ぞろいしている。その全員から厳しい視線を受けていた。

ツッティはこの国に来てから疎まれているとは感じていたが、周りを見渡せばいつもの視線と違って怒りが籠っていた。弟妃ということだけで偉そうにしてきたツッティですら戸惑うほどだ。シェドでの失敗がそれほどまで許されないものだったのかと、ツッティは不安になってきた。

「あの・・・何か?」

「疲れているところをすまない。どうしても其方から事情が聞きたいことがある」

「はい・・・」

ハウバウト陛下が合図をすると騎士が連れてきたのはビーストとザーブルだった。

(馬鹿な!ザーブルが何故ここに・・・)

ザーブルが牢獄に入れられると情報を得て、人道上彼だけは助けようと人を雇った。彼らには十分なお金を手渡し、スラム街でほとぼりが冷るまでは監視を続けるように指示を出していたはずだ。

ザーブルを見た途端ツッティは倒れそうになったが、必死に動揺がバレないように冷静を装った。

「彼は誰です?」

「ほう・・・其方も知らぬか」

「ええ、会ったことはありません」

「ザーブル、其方が会いたがっていたツッティ妃だ」

「貴方がツッティ妃なのですか?会いたかった母上」

「ひぃ・・・来ないで!」

ツッティは思わず、駆け寄ってきたザーブルのほほを叩いたのだ。

「母上?」

「そう冷たくするとザーブルが可哀そうだろ。母親会いたさに遥々ウェスト国王からここまで来たのに」

「・・・・・」

ショックを隠せないザーブルは、涙を浮かべ固まったようにツッティを見つめる。

「ビーストとザーブルはそっくりだな。ここまで似ていると誰が見ても血がつながっているのは明らかだ」

「か、彼は兄上の子供です。似ているのは私たちが兄弟だからだと思います」

「なるほど。ウェスト国王のウラーラ元王妃が会議でザーブル王子を産んでいないと明言したことは知っているか。では彼の母親は誰だ?」

「ぐっ、それはお兄様に聞いていただかないと私では分かりません」

「ザーブルの話によれば母親は、ツッティ其方だという。それは誠か?」

「え?どういうことです母上?」

初めてザーブルの存在を知ったビーストは理解できず戸惑っているがザブールも同じだった。

「そ、それは何かの間違いです」

「そういうか。ベルはどうだ?ウェスト国王でもツッティの侍女だったはずだ」

「・・・私も何が何やら」

「ふたりともシラを切るか・・・では、産婆を呼ぶしかないな」

(産婆ですって?)

部屋に入ってきたのは白髪の年老いた老婆だった。数十年前ザブールを出産するときに王宮医者に知られる訳にもいかず下町の産婆を呼んだのだ。あれから年月が経っていたのですっかり忘れていたが、通された産婆は間違いなくあの時の産婆だった。

(不味いわ・・・こんなことがバレたら不敬罪で投獄。悪ければ死刑・・・)

「遠いところからわざわざ来てもらってすまない。あの日其方が見た者はこの部屋の中にいるか」

老婆は部屋を見渡すと迷うことなくツッティを指を刺した。

「下町のしがない産婆が王宮に呼ばれたのです。あの日のことは忘れもしません。子供を産んだのは彼女です」

「う、嘘よ!こんな年寄りの言うことを信じるのですか」

ツッティが何を言っても味方はこの部屋にはいない。周りからも息をのむ音が聞こえた。

「ウェスト国王の宰相を務めるザトル殿からも産婆を迎えに来たベルを見たという証言を得ている」

「っぐ・・・」

「ツッティに選ばせてやるウェスト国王へ戻るか、このままここにいてヘキシオの帰りを待つか」

「ツッティ様・・・」

不安そうな顔をするベルが言いたいことはすぐに理解した。ヘキシオはずっとビーストが自分の子供か疑っていた。そんな夫がツッティをかばう筈がない。ヘキシオがこの事実を知れば確実に死刑になるだろう。

「ウェスト国王に帰らせていただきます」

「では、家族であるビーストとザブールも一緒に連れて帰るのだな」

3人は話すことも許されず別々の部屋に監禁されるとこととなる。自室に連れ戻されたツッティはうな垂れるしかなかった。

***

一夜が明けツッティとベルは強制的に馬車に詰め込まれると着いたのは深い森の中。そこには山小屋が建っている以外なにもなかった。森の中で人知れず殺されるのかと震えていたが騎士は山小屋に入るようにと言う。

(ここは一体どこなの?)

押されるように山小屋に入るとウェスト元国王である兄がいた。

「兄上・・・どうしてここに?」

「ツッティ!待っていたぞ」

久しぶりに会う兄上は顔色が悪くやせ細っていたが、昔の面影が残っている。

「ザーブルだけが助けられて、私はツッティに忘れられたと思っていた・・・ツッティが来たということは助かったのか?」

元国王はこの小屋を隠れ家と思っているのか、安心しきった顔でソファに深く座りなおした。

「何を言っているの・・・そんな訳ないでしょ・・・」

「ツッティが助けに来てくれたのではないのか?」

「・・・・・」

「お前達、ここはどこだ?私をウェスト国王元国王と知っての仕業か?」

質問をしても騎士達は壁際で立っているだけで答える様子もない。その態度にツッティも一緒になって声を荒げていた。

「早く答えなさい!こんなところに連れてきて私達をどうするつもりなの」

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