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「頭首、おかえりないさいませ」
「ああ、首尾はどうなっている」
「ここにアミスティお嬢様からの手紙が・・・」
キースは手紙を受け取ると自室に向かった。シェドと比べてノル王国にはまだ寒さが残る。屋敷に着いたのは夜も更けたころだったが、誰かが暖炉の火をつけてくれていたのだろう。
冷えた身体が温まるのを感じるとキースは姉のアミスティから届いた手紙の封を切った。その手紙には最近のウェスト王国の近況が書かれている。
「あの女狐め、好き放題してくれているな」
ウェスト王国の王妃は元々ドルトムント一族の分家の出だ。ドルトムント一族は本家が司令塔の役割を執り、実行部隊の分家がいる。分家はそれぞれに情報収集やスパイ活動も含め、収集した情報は本家に報告する決まりになっている。
分家は決して本家に逆らうことは許されない。もし逆らえばドルトムント一族が全力で潰しにかかるからだ。
先代が現在の王妃であるウラーラに指示をしたのは、ウェスト王国陛下にハニートラップを仕掛け情報を引き出すことだった。ウェスト王国の侍女として働きだしたウラーラを国王は余程気に入ったのだろう。ウラーラを愛人にしたのは計画通りだったが、予想外だったのはウラーラが王妃になったことだ。
当時王太子だった国王には3歳年下の婚約者がいたが、その令嬢と結婚まじかだと噂されていた。しかし、ある朝その婚約者が遺体で発見されたのだ。王妃候補だけにウェスト王国の騎士団が徹底的に調べたが、暗殺された形跡もなく自然死だと判断された。
令嬢が亡くなったことでウラーラが王妃候補として繰り上がった。その頃からウラーラからの連絡は途切れ、処分も考えられたが当時は庶民から王妃になったウラーラの人気が高く、しばらく様子を見ることになった経緯がある。
コンコン
「キース・・・リブルだ。入っていいか」
「ああ、入れ」
「帰って来たのだな。シェドはどうだった」
「ええ、現実から離れ、心穏やかな日々でしたよ」
「そうか・・・いい国だったようだな。オッド卿の娘は元気だったか?」
「ええ、あの国を離れて正解でしたね。ウエン王子に守られ本来の彼女らしさを取り戻していましたよ」
「そうか、それは良かった・・・その手紙は、もしかしてウラーラの近況報告か?」
「ええ、貴方の妹のウラーラのことが書かれています」
「そうか・・・・・」
「気になりますか?」
「いや、妹はドルトムント一族を裏切った。頭首であるお前がウラーラを殺せと判断すれば、俺はウラーラを殺すつもりだ」
「そう言ってもらえて安心しましたよ。貴方にまで裏切られたら、貴方の一族を皆殺しにしないといけませんからね。手間も省けますし頼りにしていますよ」
「分かっている。妹ひとりのせいで一族を犠牲にするわけにはいかないからな」
「・・・・・」
同じ年のリブルはウラーラが裏切ってから随分老けた。白髪交じりの頭髪を見ながら、キースはお酒の入ったグラスをリブルに渡すとリブルも何も言わずグラスを受け取る。
ドルトムント一族は子供が少ない、仕事柄親しい人を作らないからだ。キースにとってリブルもウラーラも数少ない幼馴染だった。
「何故あいつは・・・」
何かを言いかけたリブルは言葉を飲み込むと、無言でお酒を飲み干す。暖炉で弾ける火を眺めながら、旧友と無言の時間を過ごした。キースが今旧友にできることは側に寄り添う事だけだったから。
「戻って早々にお邪魔して悪かったな。シェドの酒もなかなか美味かった」
「ああ、いつでも付合う」
「ああ、首尾はどうなっている」
「ここにアミスティお嬢様からの手紙が・・・」
キースは手紙を受け取ると自室に向かった。シェドと比べてノル王国にはまだ寒さが残る。屋敷に着いたのは夜も更けたころだったが、誰かが暖炉の火をつけてくれていたのだろう。
冷えた身体が温まるのを感じるとキースは姉のアミスティから届いた手紙の封を切った。その手紙には最近のウェスト王国の近況が書かれている。
「あの女狐め、好き放題してくれているな」
ウェスト王国の王妃は元々ドルトムント一族の分家の出だ。ドルトムント一族は本家が司令塔の役割を執り、実行部隊の分家がいる。分家はそれぞれに情報収集やスパイ活動も含め、収集した情報は本家に報告する決まりになっている。
分家は決して本家に逆らうことは許されない。もし逆らえばドルトムント一族が全力で潰しにかかるからだ。
先代が現在の王妃であるウラーラに指示をしたのは、ウェスト王国陛下にハニートラップを仕掛け情報を引き出すことだった。ウェスト王国の侍女として働きだしたウラーラを国王は余程気に入ったのだろう。ウラーラを愛人にしたのは計画通りだったが、予想外だったのはウラーラが王妃になったことだ。
当時王太子だった国王には3歳年下の婚約者がいたが、その令嬢と結婚まじかだと噂されていた。しかし、ある朝その婚約者が遺体で発見されたのだ。王妃候補だけにウェスト王国の騎士団が徹底的に調べたが、暗殺された形跡もなく自然死だと判断された。
令嬢が亡くなったことでウラーラが王妃候補として繰り上がった。その頃からウラーラからの連絡は途切れ、処分も考えられたが当時は庶民から王妃になったウラーラの人気が高く、しばらく様子を見ることになった経緯がある。
コンコン
「キース・・・リブルだ。入っていいか」
「ああ、入れ」
「帰って来たのだな。シェドはどうだった」
「ええ、現実から離れ、心穏やかな日々でしたよ」
「そうか・・・いい国だったようだな。オッド卿の娘は元気だったか?」
「ええ、あの国を離れて正解でしたね。ウエン王子に守られ本来の彼女らしさを取り戻していましたよ」
「そうか、それは良かった・・・その手紙は、もしかしてウラーラの近況報告か?」
「ええ、貴方の妹のウラーラのことが書かれています」
「そうか・・・・・」
「気になりますか?」
「いや、妹はドルトムント一族を裏切った。頭首であるお前がウラーラを殺せと判断すれば、俺はウラーラを殺すつもりだ」
「そう言ってもらえて安心しましたよ。貴方にまで裏切られたら、貴方の一族を皆殺しにしないといけませんからね。手間も省けますし頼りにしていますよ」
「分かっている。妹ひとりのせいで一族を犠牲にするわけにはいかないからな」
「・・・・・」
同じ年のリブルはウラーラが裏切ってから随分老けた。白髪交じりの頭髪を見ながら、キースはお酒の入ったグラスをリブルに渡すとリブルも何も言わずグラスを受け取る。
ドルトムント一族は子供が少ない、仕事柄親しい人を作らないからだ。キースにとってリブルもウラーラも数少ない幼馴染だった。
「何故あいつは・・・」
何かを言いかけたリブルは言葉を飲み込むと、無言でお酒を飲み干す。暖炉で弾ける火を眺めながら、旧友と無言の時間を過ごした。キースが今旧友にできることは側に寄り添う事だけだったから。
「戻って早々にお邪魔して悪かったな。シェドの酒もなかなか美味かった」
「ああ、いつでも付合う」
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