46 / 98
43
しおりを挟む
「母上、もう入っていい?」
「駄目よ今いいところなんだから。もう少し待って」
「お兄ちゃんも結婚するって言ったよ。もう扉を開けていいでしょ?」
「ねえ、早くぅ~」
「こら待ちなさいって!」
ガチャ
入って来たのはやんちゃ盛りの弟達、8歳のナリー、7歳のダリー、6歳のアリーだ。
「「「おめでとう!」」」
「結婚してもミカエル兄ちゃんはずっとここにいるんだろ?」
「ここに住むなら、また一緒にお風呂に入れるね」
「お兄ちゃん、僕が眠るまでまたお本を読んでくれる?」
「駄目だ。お前達は俺がいない間ずっとミカエルと一緒だっただろう。次は俺がミカエルを独り占めする番だ」
「「「えーーー!」」」
「そんなのズルいよ」
「じゃあ。俺が一緒に風呂に入って、眠るまで難しい本を読んでやろう」
「「「っぐ、だったら諦める」」」
義理の弟たちはワイアットのことを尊敬し慕っているが、歳の近いミカエルの方が話しやすいのだろう。それに半分しか血がつながっていないとはいえ、兄弟だけに好みが似ているのかもしれない。
6歳のアリーはミカエルがいるとベッタリだ。引き離すと泣き出すが涙が出ていないことには気付いている。
そんな光景をアウアー卿とベラは温かく見守っていた。
「廊下を歩いていたら私の名前が聞こえた気がして、扉の前にいたらみんなが集まって来たのよ」
ベラはおどけたように、肩をすくめるのだ。
***
アウアー卿が初めてミカエルを見た時あまりの可愛らしさに、堅物の息子が女の子を連れて帰ってきたと思った。その夜息子からミカエルは男だと聞かされたが、それはそれでミカエルの可愛らしさに感心したのだ。
(うちの家系はみんなガタイがいいからな)
しかし、ミカエルは一見溶け込んでいるように見えて家族を警戒していた。それは虐待された動物がけっして人間に近づかないのと似ている気がした。アウアー卿が元騎士として過去に様々な人間を見てきたからこそ気づいたのだ。
アウアー卿でなければ、ミカエルの巧みな話術と可愛らしい外見に騙されていただろう。そのような環境に育った人間は社会に上手く溶け込めず、孤立することも少なくはない。
アウアー卿はミカエルを不安がらせないようにあえて距離を置いたが、この弟トリオは親の気遣いも理解せず突進して行くではないか。アウアー卿は毎日がハラハラしっぱなしだった。
今ではそれが良かったと思う。一緒に生活を続けるうちに私の家族がミカエルを傷つけないと理解したのだろう。少しづつ家族に打ち明けようと努力しているのが分かった。
そして息子がミリューから戻るとミカエルへの過度な愛情に本気で嫌がっているのではないかと心配になるほどだった。毎日屋敷のどこにいても平気でミカエルを抱き締める姿に慣れはしたが、親の私でも引くほどの溺愛ぶりだ。しかし、息子の行動は『恐くない』『お前を傷つけない』とミカエルに教え込んでいるようにも見えた。
ミカエル自身は気付いていないかもしれないが、息子に愛され少しづつ警戒心が薄れた彼の表情はとても穏やかだった。
「ベラが実家に帰った話をしたことを謝らなくては」
「いいのよ。あの時は主人がうわの空で話を聞いていないから、浮気でもしているのかと疑ったのよ」
「お前・・・私が真剣に悩んでいたのに、うわの空とはなんだ」
「貴方もワイアットも言葉が足らなすぎるのよ。でも、ミカエルちゃん安心してね。このふたりは浮気ができるタイプじゃないから」
「ふっふっふ。僕もそう思います」
「なんだ、ワイアットはもう尻に敷かれているのか?」
「そうです。私はミカエルの尻の下で十分満足していますよ」
「そうか、ふたりとも幸せにな」
一度は結婚を決めたと報告を受けたが、ミカエルの返事はいつも曖昧だった。
(今のふたりを見れば、もう大丈夫だろう)
アウアー卿は心の底から息子の幸せを喜ぶのだった。
***
「今日は一緒に寝てもいいだろ?」
「いいけど、キスだけだぞ。それ以上はまだ許していないからな」
「ああ、分かっている」
今日はワイアットに誘われて初めて内扉を使ってワイアットの寝室に入った。ミリューからの移動中に同じベッドに寝たこともあったが、ここまで密着して寝たことはない。
くすぐったい気持ちに戸惑うが、ワイアットに手を引かれベッドに入った。ミカエルは背中に感じるワイアットの体温に幸せが何か分かった気がした。
この時のふたりは幸せを噛み締めていたが、まさかシェドへの移住者初として国を挙げての盛大な結婚式になるとは想像もしていなかった。静かに夜は更けていったが嵐の前の静けさというやつである。
「駄目よ今いいところなんだから。もう少し待って」
「お兄ちゃんも結婚するって言ったよ。もう扉を開けていいでしょ?」
「ねえ、早くぅ~」
「こら待ちなさいって!」
ガチャ
入って来たのはやんちゃ盛りの弟達、8歳のナリー、7歳のダリー、6歳のアリーだ。
「「「おめでとう!」」」
「結婚してもミカエル兄ちゃんはずっとここにいるんだろ?」
「ここに住むなら、また一緒にお風呂に入れるね」
「お兄ちゃん、僕が眠るまでまたお本を読んでくれる?」
「駄目だ。お前達は俺がいない間ずっとミカエルと一緒だっただろう。次は俺がミカエルを独り占めする番だ」
「「「えーーー!」」」
「そんなのズルいよ」
「じゃあ。俺が一緒に風呂に入って、眠るまで難しい本を読んでやろう」
「「「っぐ、だったら諦める」」」
義理の弟たちはワイアットのことを尊敬し慕っているが、歳の近いミカエルの方が話しやすいのだろう。それに半分しか血がつながっていないとはいえ、兄弟だけに好みが似ているのかもしれない。
6歳のアリーはミカエルがいるとベッタリだ。引き離すと泣き出すが涙が出ていないことには気付いている。
そんな光景をアウアー卿とベラは温かく見守っていた。
「廊下を歩いていたら私の名前が聞こえた気がして、扉の前にいたらみんなが集まって来たのよ」
ベラはおどけたように、肩をすくめるのだ。
***
アウアー卿が初めてミカエルを見た時あまりの可愛らしさに、堅物の息子が女の子を連れて帰ってきたと思った。その夜息子からミカエルは男だと聞かされたが、それはそれでミカエルの可愛らしさに感心したのだ。
(うちの家系はみんなガタイがいいからな)
しかし、ミカエルは一見溶け込んでいるように見えて家族を警戒していた。それは虐待された動物がけっして人間に近づかないのと似ている気がした。アウアー卿が元騎士として過去に様々な人間を見てきたからこそ気づいたのだ。
アウアー卿でなければ、ミカエルの巧みな話術と可愛らしい外見に騙されていただろう。そのような環境に育った人間は社会に上手く溶け込めず、孤立することも少なくはない。
アウアー卿はミカエルを不安がらせないようにあえて距離を置いたが、この弟トリオは親の気遣いも理解せず突進して行くではないか。アウアー卿は毎日がハラハラしっぱなしだった。
今ではそれが良かったと思う。一緒に生活を続けるうちに私の家族がミカエルを傷つけないと理解したのだろう。少しづつ家族に打ち明けようと努力しているのが分かった。
そして息子がミリューから戻るとミカエルへの過度な愛情に本気で嫌がっているのではないかと心配になるほどだった。毎日屋敷のどこにいても平気でミカエルを抱き締める姿に慣れはしたが、親の私でも引くほどの溺愛ぶりだ。しかし、息子の行動は『恐くない』『お前を傷つけない』とミカエルに教え込んでいるようにも見えた。
ミカエル自身は気付いていないかもしれないが、息子に愛され少しづつ警戒心が薄れた彼の表情はとても穏やかだった。
「ベラが実家に帰った話をしたことを謝らなくては」
「いいのよ。あの時は主人がうわの空で話を聞いていないから、浮気でもしているのかと疑ったのよ」
「お前・・・私が真剣に悩んでいたのに、うわの空とはなんだ」
「貴方もワイアットも言葉が足らなすぎるのよ。でも、ミカエルちゃん安心してね。このふたりは浮気ができるタイプじゃないから」
「ふっふっふ。僕もそう思います」
「なんだ、ワイアットはもう尻に敷かれているのか?」
「そうです。私はミカエルの尻の下で十分満足していますよ」
「そうか、ふたりとも幸せにな」
一度は結婚を決めたと報告を受けたが、ミカエルの返事はいつも曖昧だった。
(今のふたりを見れば、もう大丈夫だろう)
アウアー卿は心の底から息子の幸せを喜ぶのだった。
***
「今日は一緒に寝てもいいだろ?」
「いいけど、キスだけだぞ。それ以上はまだ許していないからな」
「ああ、分かっている」
今日はワイアットに誘われて初めて内扉を使ってワイアットの寝室に入った。ミリューからの移動中に同じベッドに寝たこともあったが、ここまで密着して寝たことはない。
くすぐったい気持ちに戸惑うが、ワイアットに手を引かれベッドに入った。ミカエルは背中に感じるワイアットの体温に幸せが何か分かった気がした。
この時のふたりは幸せを噛み締めていたが、まさかシェドへの移住者初として国を挙げての盛大な結婚式になるとは想像もしていなかった。静かに夜は更けていったが嵐の前の静けさというやつである。
0
あなたにおすすめの小説
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~
ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」
その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。
わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。
そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。
陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。
この物語は、その五年後のこと。
※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる