婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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「なんだか疲れたわ」

王宮の一部屋を借りて、書類を確認していたレイシャルが呟いた。

「寝てないのか?」

小さな声だったが、ミカエルには聞こえたようだ。

「寝てはいるけど、熟睡できない?」

ウエンと一緒に寝るのには慣れてきたが、やっぱり緊張することには変わらない。

「そうなのか俺もだ・・・」

ミカエルも隣の部屋にワイアットが居ると思うと、落ち着かない夜を過ごしていた。完全に寝不足なふたりだ。

「ミカエル、眼が腫れているわ。泣いたの?」

「泣いてねえよ!」

「でも、なんだか辛そうね」

「・・・・・」

「良かったら私が聞こうか?」

「・・・・いや、一番役に立たない気がする」

「なんですって?」

最近ミカエルが無口なのだ。一緒にいても上の空だし、ワイアット様と一緒にいても会話が少ない気がする。ウエンはウエンで、あれだけ熟睡しているのに目に熊ができている。みんな、ここ最近の疲れが出始めたのかもしれない。

「オーロラ商会に健康促進剤でも取りに行った方がいいかしら」

「そんな物聞いたこともないが・・・」

「そうだったっけ?じゃあ作る」

「これ以上元気になったら、お辛いのはウエン王子の方では?」

「うお!また貴様、俺の後ろに」

「ですから、修行が足らないと」

いつものやり取りにほっとするが、今日に限ってキースのまとう雰囲気が違う。

「レイシャル様に会いたいと、ミリュー王国からリリアン嬢がお越しです」

「リリアンが?何故のお前名前を・・・」

ミカエルの髪が一瞬逆立ったように見えた。

「彼女をこちらにお呼びしても?」

「ええ、リリアンて・・・・あのリリアン?」

***

部屋に通されたリリアンは、髪の毛を後ろに結び質素なワンピースを着ていた。

卒業パーティーのドレスも可愛かったが、今のリリアンの方がよっぽど印象がいい。そして、リリアンの後ろには品のあるご年配の夫婦が立っていた。

すぐにウエンとワイアット様も部屋に入ってきたが、キースが呼んだのだろうか。

(彼女・・・てっきりスザン王子と優雅な毎日を送っていると思っていたのに)

物語のリリアンも虎視眈々と王妃の座を狙い、悪役令嬢だった私を陥れた。今回も状況は違うが、結果的に彼女が原因で私は婚約破棄になっている。

リリアンは婚約者を奪った非常識な女性だ。腹を立てるべきかもしれないが、そう思えないのは彼女から悪意を感じられないからだ。それに彼女の存在がなければ、私はスザン王子と結婚していただろう。

幸か不幸か彼女のお蔭で移住を叶えたことを考えると、むしろお礼を言いたいぐらいだ。それにしても何故ここにいるのだろう。

「はじめまして。私はオッド公爵令嬢のレイシャルです」

「はじめまして。私はカミュール男爵令嬢のリリアンです。そこにいるのは私の義理の両親でもあるカミュール男爵と夫人のハンナです」

「はじめてお目にかかります・・・」

カミュール男爵と夫人は、どこか懐かしそうに私を見つめていた。

何を話していいか分からず、僅かな沈黙があったがミカエルがとんでもないことを言い出した。

「どうせバレると思うから先に言っておくが、リリアンは俺の妹だ」

「え?」

ミカエルの突然の告白に驚いたが、周りを見ると知らなかったのは私ひとりのようだった。

「レイシャル、一度座ろう」

ウエンが気遣うように椅子をすすめると、タイミング良く侍女たちがお茶の準備を始めた。

ワイアット様は瞬きもせずリリアンを見つめているし、それを見ているミカエルは少し落ち着かない様子だ。カミュール男爵夫人は私に微笑みかけ、キースは何食わぬ顔でお茶を飲んでいる。

いったい何が始まると言うのか。

私はリリアンとミカエルを交互に見つめているが、確かにふたりはよく似ていた。
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