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一番の頼みの綱であったシャルルが戻った時ブラウンの髪の毛が真っ白になっていた。この短時間に何が起こったのか。カーターはそれを見ると気を失い、まともに思考が動いているのは王子である私ひとりになった。
今は話を聞いてくれるリリアンもいない。
リリアンと知り合ったのは、王都学園で迷子になっているところを助けたことがきかっけだ。私が王子と知ると心底驚いたようすだったがその顔がとても可愛らしく、思わず今から一緒に食堂へ行こうと誘っていた。
リリアンはカミュール男爵の養女だ。自分では田舎者だから王都は良く分からないと言っていたが、その割に洗練されていてどこか影があるような憂いが庇護欲をそそる。
いつもまとわりついてくる令嬢とは違い、ドレスが欲しいと媚びることもない。街遊びに誘っても『私なんて身分が低く恐れ多いです』と言って断ってくる。そんなリリアンの素直な言動は、私にはとても新鮮で周りはいないタイプだった。
出会って1週間が経った頃ひとりで食事をするリリアンに声をかけた。
「早く食べて3階の音楽室に行かないとお姉様たちに怒られちゃう」
慌ただしく席を立つと、急いでいたのか走って食堂から出て行った。
「3階の音楽室は・・・今は使われていないはず」
「では、リリアンは!」
私たちはリリアンのピンチに急いで音楽室に向かったのだ。
「さっさと要件を言いなさい、偉そうに呼び出して」
「そうです。スザン王子に気に入られているからって生意気ね」
「本当ですわ、毎回絡んでこないでください」
「キャー、怖いですぅ~!!」
リリアンの叫び声が聞こえて、扉を開けると3人の令嬢に囲まれたリリアンがいた。
「リリアン!助けに来たぞ」
「スザン王子♡」
「お前達よってかかってリリアンに何をした」
「え?」
「今すぐ解散しなさい。貴方たちの顔を覚えましたよ」
「いや、呼び出されたのは・・・」
「言い訳をするな!」
王子たちがリリアンに駆け寄ると、涙を溜めながらも『大丈夫ですぅ~』と健気に答えるリリアンの姿に4人の気持ちがひとつになった。
「さあ、行こう・・・」
「なに?これは・・・」
「もう話しかけないでくれ。君たちとは一緒にいる価値もない」
それからだ。リリアンは心を開いてくれたのか一緒にいることを許してくれたのだ。シャルルたちもリリアンには同情的で、常に誰かがリリアンに付き添うことになった。
リリアンと一緒にいると聞き上手なのか、もっと話をしたくなる。そうして、私だけでなくシャルルやカーター、マクルスまでもが素直に心の内を話すようになった。リリアンはただ頷いているだけだが、それが心地いい。
王宮に戻れば母上から『レイシャルをもっと大切にしなさい』と言われ、『レイシャルが頑張っているのに、王子の貴方がそのような体たらくでどうするの』と攻めてくる従妹。『レイシャル様にはもう教えることがありません。後は王子だけですよ』と煩わしいことばかりを言う講師たちに心底うんざりしていたのだ。
それに王子の私より注目を浴び、生徒からも慕われているレイシャルにも苛立った。どうせ王族では当たり前の政略結婚だ。レイシャルと結婚して王妃の立場を与えればいいのだろうと考えていたが、あの日突然名案が浮かんだ。
レイシャルを側妃にすることだ。それを告げられた時のレイシャルはどうするのだろう。怒り狂うだろうか、それとも泣き叫ぶだろうか。王妃の道が約束されていたからこそ、他の令嬢と遊んでいても涼しい顔をしていたレイシャルだ。どう反応するのかが楽しみだった。
卒業パーティー当日、王族は最後に来る習わしだ。陛下が登場する前の時間を使ってレイシャルを呼びつけた。レイシャルがみんなの前でさらし者になった瞬間それは溜飲が下がる思いだった。
しかし、レイシャルは顔を歪めることもなく涼しい顔をしている。断罪されている間もリリアンに同情的な言葉を忘れない。
それにあの秘書は誰だ。秘書と常に一緒にいるなど浮気と同じではないか。もしかして浮気で攻めた方か良かったのか。
秘書がスケジュールを読み上げていたが、レイシャルはすでに王妃にでもなったつもりなのか。俺でも会ったことがない、他国の王族や教皇とまで会っていると言うではないか。それこそ国を乗っ取ろうとしている証拠だろう。
1番信じられないのは周辺国の王族がレイシャルに求婚したことだ。
男に媚を売るしかないあばずれを王族に引き込むなど、危険だとどうして分からない。
レイシャルが帰った後慌ただしく帰国の指示をする王族を見て、集まった人々も我先にと帰っていく。一緒にいたリリアンも「疲れたから帰るね」と言って迎えに来た従者と一緒に帰ってしまった。
気付いたらこの場にいるのは私と側近の4人だけだった。
今は話を聞いてくれるリリアンもいない。
リリアンと知り合ったのは、王都学園で迷子になっているところを助けたことがきかっけだ。私が王子と知ると心底驚いたようすだったがその顔がとても可愛らしく、思わず今から一緒に食堂へ行こうと誘っていた。
リリアンはカミュール男爵の養女だ。自分では田舎者だから王都は良く分からないと言っていたが、その割に洗練されていてどこか影があるような憂いが庇護欲をそそる。
いつもまとわりついてくる令嬢とは違い、ドレスが欲しいと媚びることもない。街遊びに誘っても『私なんて身分が低く恐れ多いです』と言って断ってくる。そんなリリアンの素直な言動は、私にはとても新鮮で周りはいないタイプだった。
出会って1週間が経った頃ひとりで食事をするリリアンに声をかけた。
「早く食べて3階の音楽室に行かないとお姉様たちに怒られちゃう」
慌ただしく席を立つと、急いでいたのか走って食堂から出て行った。
「3階の音楽室は・・・今は使われていないはず」
「では、リリアンは!」
私たちはリリアンのピンチに急いで音楽室に向かったのだ。
「さっさと要件を言いなさい、偉そうに呼び出して」
「そうです。スザン王子に気に入られているからって生意気ね」
「本当ですわ、毎回絡んでこないでください」
「キャー、怖いですぅ~!!」
リリアンの叫び声が聞こえて、扉を開けると3人の令嬢に囲まれたリリアンがいた。
「リリアン!助けに来たぞ」
「スザン王子♡」
「お前達よってかかってリリアンに何をした」
「え?」
「今すぐ解散しなさい。貴方たちの顔を覚えましたよ」
「いや、呼び出されたのは・・・」
「言い訳をするな!」
王子たちがリリアンに駆け寄ると、涙を溜めながらも『大丈夫ですぅ~』と健気に答えるリリアンの姿に4人の気持ちがひとつになった。
「さあ、行こう・・・」
「なに?これは・・・」
「もう話しかけないでくれ。君たちとは一緒にいる価値もない」
それからだ。リリアンは心を開いてくれたのか一緒にいることを許してくれたのだ。シャルルたちもリリアンには同情的で、常に誰かがリリアンに付き添うことになった。
リリアンと一緒にいると聞き上手なのか、もっと話をしたくなる。そうして、私だけでなくシャルルやカーター、マクルスまでもが素直に心の内を話すようになった。リリアンはただ頷いているだけだが、それが心地いい。
王宮に戻れば母上から『レイシャルをもっと大切にしなさい』と言われ、『レイシャルが頑張っているのに、王子の貴方がそのような体たらくでどうするの』と攻めてくる従妹。『レイシャル様にはもう教えることがありません。後は王子だけですよ』と煩わしいことばかりを言う講師たちに心底うんざりしていたのだ。
それに王子の私より注目を浴び、生徒からも慕われているレイシャルにも苛立った。どうせ王族では当たり前の政略結婚だ。レイシャルと結婚して王妃の立場を与えればいいのだろうと考えていたが、あの日突然名案が浮かんだ。
レイシャルを側妃にすることだ。それを告げられた時のレイシャルはどうするのだろう。怒り狂うだろうか、それとも泣き叫ぶだろうか。王妃の道が約束されていたからこそ、他の令嬢と遊んでいても涼しい顔をしていたレイシャルだ。どう反応するのかが楽しみだった。
卒業パーティー当日、王族は最後に来る習わしだ。陛下が登場する前の時間を使ってレイシャルを呼びつけた。レイシャルがみんなの前でさらし者になった瞬間それは溜飲が下がる思いだった。
しかし、レイシャルは顔を歪めることもなく涼しい顔をしている。断罪されている間もリリアンに同情的な言葉を忘れない。
それにあの秘書は誰だ。秘書と常に一緒にいるなど浮気と同じではないか。もしかして浮気で攻めた方か良かったのか。
秘書がスケジュールを読み上げていたが、レイシャルはすでに王妃にでもなったつもりなのか。俺でも会ったことがない、他国の王族や教皇とまで会っていると言うではないか。それこそ国を乗っ取ろうとしている証拠だろう。
1番信じられないのは周辺国の王族がレイシャルに求婚したことだ。
男に媚を売るしかないあばずれを王族に引き込むなど、危険だとどうして分からない。
レイシャルが帰った後慌ただしく帰国の指示をする王族を見て、集まった人々も我先にと帰っていく。一緒にいたリリアンも「疲れたから帰るね」と言って迎えに来た従者と一緒に帰ってしまった。
気付いたらこの場にいるのは私と側近の4人だけだった。
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