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「では次は、私の婚約者に事情を聞いてまいります。何か知っているかもしれません」
カーターはマクルスを見て急に不安になったのだ。カーターも卒業パーティーでは、婚約者をエスコートしていなかった。王子にそう告げると急いで婚約者の屋敷に向かう。
婚約者の屋敷に着くと、いつも通りに客間に通された。
「はっはっは、俺は間抜けなマクルスと違うようだな」
カーターの婚約者はマイカと言った。マイカは俺に惚れている。男はこうでないといけない。
男は常に強く、女は俺の指示に従っていれば幸せなのだ。
上機嫌だったのも3時間前。
「まだ、マイカは来ないのか!」
「先ぶれもなく急にお越しですので、準備に時間がかかっています。もうしばらくお待ちください」
何度もそう言われ5時間が経った。もうお茶の飲み過ぎでお腹が張っている気がする。
***
「お待たせしました・・・」
やっと部屋に来たマイカの姿に安堵しながらも、5時間も待たされたことに怒りが勝った。カーターはソファーから立ち上がるとマイカに怒鳴りつけていた。
「マイカ!婚約者をここまで待たせるとはどういうことだ」
マイカは一度は大きく目を見開いたが、すぐにカーターを睨み付けた。こんな目を向けられたことは初めてだ。
「貴方はもう婚約者ではありません」
「婚約者ではないだと・・・?」
「聞いてはいらっしゃらないの?貴方は廃爵されて今は平民の身分です」
「お前、何を言っているんだ。そんなはずはない」
カーターは昨晩屋敷に戻ると父親から「お前は何を考えている。スザン王子の側近候補であることは分かるが、側近ならなぜレイシャル様との婚約破棄を止めなかったのだ。オーロラ商会に騎士団がどれほどお世話になっているのか理解していなかったというのか」と怒鳴られた。
レイシャルがいかに酷い女性であるか訴えるが、父上は「話にならん。こんな馬鹿な奴は私の息子ではない。もう帰って来るな」と家から追い出されたのだ。
それでもカーターは、どうせお灸をすえるために言っただけだろうと本気にはしていなかった。
「まさか。そんな馬鹿な・・・」
「今朝がた貴方のお父様から『息子は廃爵になったため婚約は白紙に戻して欲しい』と手紙を頂きました。慰謝料も全額お支払いいただけるそうなので、こちらとしても喜んで承諾しました」
慰謝料を支払うという事は、カーターに非があると父上が認めたことになる。
「俺に惚れているから、俺の言葉に従っている・・・でしたか?私は貴方と婚約をしてから、一度も好意を持ったことはありません」
ぽかんとした顔が面白かったのか彼女がクスクス笑い出した。
「私が意見を言わないのは、カーター様が癇癪持ちで煩わしいからです」
リリアンたちと行ったカフェで話したことをなぜマイカが知っているのか。
「俺に惚れているのではなかったのか?」
「そんなことを私が一度でも言ったことがありますか」
「それは・・・」
カーターが必死に過去の会話を思いだすが、そのような言葉は1度も聞いていない。どうしてそう思ったのか・・・マイカが俺に口答えをしないことに気分を良くし、俺に惚れていると勝手に解釈していたのだ。
「私の好きな花や詩人を知っていますか?」
今までは、彼女が何か言おうとすると『お前は私の言うことを聞いていればいいんだ』と遮った。
「私の愛犬がいないことに疑問を感じましたか?」
マイカが悲しそうな表情をしていても興味もなかった。
「・・・・・」
「私が卒業パーティーに行っていないと気づいていましたか?」
マイカはエスコートがなく、卒業パーティーに行けなかった。。俺はマイカが来ていないことにすら気づいていなかった。
(俺はなんということを・・・)
3年前から婚約者だった彼女のことを何も知らないという事実に自分自身が驚いた。
***
カーターは、幼い頃から父上の背中を見て騎士になると決めていた。3歳年上の兄と一緒に毎朝練習用の剣を使って素振りや運動をかかさなかった。
兄は昔から剣術だけでなく学問も優秀で、父上は平等に可愛がってくれたが兄への期待を嫌なほど感じていた。
この国の貴族の子息は8歳から学園に入学する。この頃から体格にも恵まれ、8歳にして鍛えられた肉体は、同級生から羨望の目で見られた。スザン王子に認められたのもこの頃だ。
そして、3年前に婚約者ができた。親が決めた婚約者だけには自分をさらけ出せた。結婚してやるのだから多少のことは我慢させればいい。日頃のうっぷんをマイカで晴らす。怒鳴りつけるとマイカは怯え、何かに耐えるように顔を歪めるのだ。
いつの間にか、マイカのその表情が性的興奮を得る手段になっていた。
王子のそばにいるだけで、一目置かれる存在になれた。誰もが自分に従う。今まで味わったことのない優越感に初めて満足した。カーターは兄と同じ騎士になるより、側近として王子と一緒にいる方が楽に生きられると思うようになっていた。
「お前は俺の言うとおりに生きていればいいのだ。何故歯向かう」
マイカをいつものように責めるが、マイカの怯える姿はそこにはなかった。
「なにを偉そうに。ご立派な貴方が平民になってどう生活していくのか楽しみですわ」
「俺は王子の覚えもいい。どうにかなる」
「王子がどうであれ、陛下が認めたことです」
「陛下が・・・」
カーターのなかでは次男でいずれ家を出る身だが、マイカと結婚すれば婿として侯爵の位が持てる。そのこともカーターの横柄な態度に拍車をかけていた。
「ところで今の質問に答えられるのですか」
「・・・・・・答え?」
マイカは大きなため息をつくと、執事に『カーター様がお帰りです』と伝えた。
「もう、お帰り下さい。平民でも必死に努力をすれば騎士になれると聞いたことがあります。貴方がそのような努力ができればですが・・・」
カーターのプライドは引き裂かれ、まともに立つこともできなかったが執事に腕を掴まれ屋敷から追い出された。当中に会った侍女たちは、俺を見てクスクスと笑っていた。
自分の計画は順風満帆だったはずだ。
どうしてこうなった。
「王子やシャルルに相談しなくては・・・」
カーターの思考がまた楽な方へと流されていくが、そのことにカーター自身気づいてはいなかった。
カーターはマクルスを見て急に不安になったのだ。カーターも卒業パーティーでは、婚約者をエスコートしていなかった。王子にそう告げると急いで婚約者の屋敷に向かう。
婚約者の屋敷に着くと、いつも通りに客間に通された。
「はっはっは、俺は間抜けなマクルスと違うようだな」
カーターの婚約者はマイカと言った。マイカは俺に惚れている。男はこうでないといけない。
男は常に強く、女は俺の指示に従っていれば幸せなのだ。
上機嫌だったのも3時間前。
「まだ、マイカは来ないのか!」
「先ぶれもなく急にお越しですので、準備に時間がかかっています。もうしばらくお待ちください」
何度もそう言われ5時間が経った。もうお茶の飲み過ぎでお腹が張っている気がする。
***
「お待たせしました・・・」
やっと部屋に来たマイカの姿に安堵しながらも、5時間も待たされたことに怒りが勝った。カーターはソファーから立ち上がるとマイカに怒鳴りつけていた。
「マイカ!婚約者をここまで待たせるとはどういうことだ」
マイカは一度は大きく目を見開いたが、すぐにカーターを睨み付けた。こんな目を向けられたことは初めてだ。
「貴方はもう婚約者ではありません」
「婚約者ではないだと・・・?」
「聞いてはいらっしゃらないの?貴方は廃爵されて今は平民の身分です」
「お前、何を言っているんだ。そんなはずはない」
カーターは昨晩屋敷に戻ると父親から「お前は何を考えている。スザン王子の側近候補であることは分かるが、側近ならなぜレイシャル様との婚約破棄を止めなかったのだ。オーロラ商会に騎士団がどれほどお世話になっているのか理解していなかったというのか」と怒鳴られた。
レイシャルがいかに酷い女性であるか訴えるが、父上は「話にならん。こんな馬鹿な奴は私の息子ではない。もう帰って来るな」と家から追い出されたのだ。
それでもカーターは、どうせお灸をすえるために言っただけだろうと本気にはしていなかった。
「まさか。そんな馬鹿な・・・」
「今朝がた貴方のお父様から『息子は廃爵になったため婚約は白紙に戻して欲しい』と手紙を頂きました。慰謝料も全額お支払いいただけるそうなので、こちらとしても喜んで承諾しました」
慰謝料を支払うという事は、カーターに非があると父上が認めたことになる。
「俺に惚れているから、俺の言葉に従っている・・・でしたか?私は貴方と婚約をしてから、一度も好意を持ったことはありません」
ぽかんとした顔が面白かったのか彼女がクスクス笑い出した。
「私が意見を言わないのは、カーター様が癇癪持ちで煩わしいからです」
リリアンたちと行ったカフェで話したことをなぜマイカが知っているのか。
「俺に惚れているのではなかったのか?」
「そんなことを私が一度でも言ったことがありますか」
「それは・・・」
カーターが必死に過去の会話を思いだすが、そのような言葉は1度も聞いていない。どうしてそう思ったのか・・・マイカが俺に口答えをしないことに気分を良くし、俺に惚れていると勝手に解釈していたのだ。
「私の好きな花や詩人を知っていますか?」
今までは、彼女が何か言おうとすると『お前は私の言うことを聞いていればいいんだ』と遮った。
「私の愛犬がいないことに疑問を感じましたか?」
マイカが悲しそうな表情をしていても興味もなかった。
「・・・・・」
「私が卒業パーティーに行っていないと気づいていましたか?」
マイカはエスコートがなく、卒業パーティーに行けなかった。。俺はマイカが来ていないことにすら気づいていなかった。
(俺はなんということを・・・)
3年前から婚約者だった彼女のことを何も知らないという事実に自分自身が驚いた。
***
カーターは、幼い頃から父上の背中を見て騎士になると決めていた。3歳年上の兄と一緒に毎朝練習用の剣を使って素振りや運動をかかさなかった。
兄は昔から剣術だけでなく学問も優秀で、父上は平等に可愛がってくれたが兄への期待を嫌なほど感じていた。
この国の貴族の子息は8歳から学園に入学する。この頃から体格にも恵まれ、8歳にして鍛えられた肉体は、同級生から羨望の目で見られた。スザン王子に認められたのもこの頃だ。
そして、3年前に婚約者ができた。親が決めた婚約者だけには自分をさらけ出せた。結婚してやるのだから多少のことは我慢させればいい。日頃のうっぷんをマイカで晴らす。怒鳴りつけるとマイカは怯え、何かに耐えるように顔を歪めるのだ。
いつの間にか、マイカのその表情が性的興奮を得る手段になっていた。
王子のそばにいるだけで、一目置かれる存在になれた。誰もが自分に従う。今まで味わったことのない優越感に初めて満足した。カーターは兄と同じ騎士になるより、側近として王子と一緒にいる方が楽に生きられると思うようになっていた。
「お前は俺の言うとおりに生きていればいいのだ。何故歯向かう」
マイカをいつものように責めるが、マイカの怯える姿はそこにはなかった。
「なにを偉そうに。ご立派な貴方が平民になってどう生活していくのか楽しみですわ」
「俺は王子の覚えもいい。どうにかなる」
「王子がどうであれ、陛下が認めたことです」
「陛下が・・・」
カーターのなかでは次男でいずれ家を出る身だが、マイカと結婚すれば婿として侯爵の位が持てる。そのこともカーターの横柄な態度に拍車をかけていた。
「ところで今の質問に答えられるのですか」
「・・・・・・答え?」
マイカは大きなため息をつくと、執事に『カーター様がお帰りです』と伝えた。
「もう、お帰り下さい。平民でも必死に努力をすれば騎士になれると聞いたことがあります。貴方がそのような努力ができればですが・・・」
カーターのプライドは引き裂かれ、まともに立つこともできなかったが執事に腕を掴まれ屋敷から追い出された。当中に会った侍女たちは、俺を見てクスクスと笑っていた。
自分の計画は順風満帆だったはずだ。
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