婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

haaaaaaaaa

文字の大きさ
20 / 98

19

しおりを挟む

最初は木材が主だった輸送も建物の骨格ができ始めると、建物に必要なレンガや窓や屋根の建材が輸送されるようになった。移住してきた人の中には多くの大工や職人も含まれていた。食べて行けなくなった職人を雇い保護してきたのもオーロラ商会だ。今では食品や生活用品、衣服や医療品まであらゆるものが港に届く。

陛下は新しい街の名前を『シノン』と名付けた。シノンはレイシャルの母親の名前だ。

何もなかった平野には、いつくかの広場・市場・学校・病院などが急ピッチで建築が進んでいる。この町を象徴する中央広場にはオーロラ商会のシンボルでもある白ユリを持った少女の像が完成した。その像が見つめるのはオーロラ商会の新たな事務所だ。

移住した人々の家もすでに完成したが、海も望めるこの場所には真っ白な壁の家がいくつも建ち並んでいる。目にも鮮やかな青い屋根が特徴だ。その建物はシェドの景色に良く馴染んでいた。

シェドでもミリューでも見かけない建築方法に興味を持ったウエンは早速家の中を見学させてもらうことにした。

「ほう・・・」

入口の間口が広く解放感がある。室内も外壁と同じ白に統一され、床は一般的な石材ではなく木材で作られていた。石材だと運搬に時間がかかり、大量に輸送するのが困難だったからだという。

でも、その木の持つ暖かさがまた白い壁に合っている。どの家も6人程度を想定しているようだ。

ミリューの人々がシェドの暑い夏に順応できるよう、大きな窓は風通しがいい。そして、白い壁は熱が家に籠りにくいという。

「よく考えられているな」

この街を考案したハード男爵が嬉しそうに説明をしてくれた。

「この青い屋根も熱がこもりにくい素材で、青色にしたのはシェバの美しい海をイメージしたからです」

「海の青か・・・ああ、とてもシェドの景観に合っている」

「ありがとうございます。ミリューではうだつの上がらない設計士でしたが、レイシャル様のお蔭でこんな大きなプロジェクトを任されるなんて夢のようです」

「本当に、レイシャル様には感謝していますの」

ハート男爵夫人は、薄っすら涙を拭いて喜んでいた。ふたりば親同士が決めた政略結婚だったが、男爵家は貧しく食べるものに困ることもあったが、2歳年上の夫人は家庭教師などで家計を助けていたという。

「やっと、妻を楽にできます・・・」

まだ、24歳と若いハート男爵が夫人を労わるように肩を抱けば、夫人も夫に微笑み返した。

「この事業が終われば、貴方はミリューに戻るのか?」

「いえ、この国に骨を埋めるつもりです。まだ、両親にも話していませんが・・・」

「ああ、それは有難い。優秀な設計士がこの国に増えて嬉しいよ」

「この家でしたら、子供が沢山産まれても大丈夫そうですしね」

アンヌがまたお節介を焼きだしたようだ。アンヌの言葉に夫人がほんのり顔を赤らめた。

「旧市街にはもう行きました?ミリューにはない建物もありますから一度行ってみるべきです」

「まだ、どこにも観光していなくって・・・」

「まあ、これから貴方たちが住む国ですよ。今度私が案内しましょう」

「本当ですか?嬉しいです・・・」

アンヌと夫人が旧市街の名物は・・・今催している劇場は・・・と世間話で盛り上がっているのを横目に、私はハート男爵に外壁について説明を受けている。


「女性は逞しいですね。この国に移住することは私が決めましたが、それを聞いた妻はさっさと準備を始めて荷造りを終えました。逆に私が何を持って行くかいつまでも悩んでいると、そんなものはシェドでも売っていますよと妻に窘められましたよ・・・。妻の逞しさに頭が上がりませんよ」

「ああ、本当に女性は強いな」

今まで一切会話に入ってこなかったミカエルも「うちの妹も怒ったら怖い」と口をはさんできた。護衛たちも同じように頷いている。

オーロラ商会の事務所が建つ中央公園までメインストリートを歩くと、まだ空き家の方が多いがすでにミリューから移り住んだ家族が生活を始めていた。女性たちは移住した初日から食事を作り、日常の生活をこなしているのだ。庭には壁と同じ真っ白な洗濯物が風を受けてなびいていた。

食材を売る店や生活用品を売る店も営業を始めている。全員が移住すれば、さぞかし活気に満ちた街にになるだろう。その光景を想像しウエンは胸が熱くなるような気がした。

数年後ハート男爵はシノンの設計が評価され、建築の三大巨匠の一人として数えられようになる。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」 その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。 わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。 そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。 陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。 この物語は、その五年後のこと。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...