婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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ワイアットはアンヌから『ミカエルは愛情を知らない子供だ。女性を扱うように大切にしてあげなさい』と注意を受けていた。

計画ではミカエルが1度帰国し、ウエン王子の手紙を届ける。そして、連絡係としてまたシェドに戻ってくる予定だ。シェド王国からは調整役としてワイアットがミリュー王国に行くことになっている。

ミカエルが戻るとワイアットが出発するまでの2日間、引継ぎと街の案内を兼ねてワイアットの屋敷に滞在することになった。

ワイアットの屋敷は比較的街の中心街に屋敷がある。屋敷には両親とまだ幼い弟が3人、そして使用人が数人いるだけだ。客人だと紹介すると母親のベラは「まあ、まあ、なんて可愛いの・・・」と目を輝かせていたし、弟たちも珍しい客人に興味津々だ。

人払いをして執務室でミカエルの報告を受けた後家族と共に夕食を食べたが、ミカエルは我が家の賑やかさに驚いていた。

その後は遊びたい盛りの弟たちの襲撃に遭いミカエルは何時間も付き合う羽目になるのだが、暗殺者のミカエルが子供の扱いが上手いとは以外だった。本人は『昔孤児院にいたこともあるから慣れている』と目を細めた。

ワイアットが散々遊んだ弟たちをベッドに寝かせて居間に戻ると、だらしなくソファーに寄り掛かるミカエルが見えた。

「お前・・・ぐったりしているな」

「ああ、疲れた・・・」

寝る直前まで弟たちと遊んでいたミカエルが、眠たそうに目を乱暴にこすっている。それを見たワイアットがミカエルを横抱きにすると、どこかに向かって歩き出したのだ。

「ばっ、何するんだ」

さっき舟をこいでいた弟たちをワイアットが荷物を抱えるように運ぶのを見ていたが、まさか自分もされるとは思ってなかった。

「眠たいのだろう。ベッドに行こう」

「っつーーーー!」

別にワイアットの言葉に深い意味はないと分かっているが、風呂上がりのワイアットの濡れた髪が妙に艶めかしい。

「自分で歩け・・・」

自室に向かうとミカエルは本当に疲れていたのだろう。途中で寝息を立て始めたミカエルを見ると口元が綻んだ。

「口さえ開かなければ、可愛いいのにな」

***

朝目が覚めてからミカエルの機嫌が悪い。今日は建設予定地になっている平野まで馬車で移動する。

「ミカエル謝っているではないか。機嫌を直せ」

ぶっすとしたミカエルがワイアットを睨んでいた。

「客人がくることを伝えていなかったので客間の準備が間に合わなかったのだ。俺はその辺で寝ればいいと思っていたが、お前が服を掴んで離さないから一緒に寝ただけで。あれだ・・・弟たちもたまにベッドに潜り込んでくるから違和感がなかったというか」

ミカエルが今朝目が覚めるとワイアットの逞しい胸が見えた。ミカエルはもしかして、やっちまったかと大いに焦ったのだ。話を聞けばなんてことはなかった。でも、自分から男のワイアットに抱き付いていたと思うと、顔から火が出そうだ。

女性を手玉に取っていた百戦錬磨のミカエルだ。女性とベッドを共にして寝ているふりはしても、本気で寝ることはない。それミカエルが、無防備にこの男に寝顔を見せていたなど信じられない。それになんとなく覚えているのは、ワイアットの体温が気持ちいいと思ったことだ。

「・・・・・もう、殺していいかな」

今までの暗殺業と違って、今回は生かすのが仕事だ。慣れないことは心底難しいと心から思った。

ワイアットはアンヌに大切にしなさいと言われ、正直どう扱っていいか分からなかった。上司のウエン王子に婚約者がいなかったので、側近のワイアットも婚約者を決めていない。女性のように大切にするとはどういうことなのか。

きっと弟たちに接するように扱えばいいのだろうと判断したワイアットだが、ベラは父上の後妻で弟たちは10歳以上年が離れている。ミカエルを7歳の弟と同等に接したのが悪かったのかと反省したワイアットは、次は何を思ったのか恋人と接するように激甘になった。

ミカエルは正直意味が分からなかったが、考えるのも邪魔臭くなったミカエルがワイアットを放置したのが悪かった。愛を囁き抱きしめても抵抗しないミカエルを見て、両親は『ふたりは付き合っている』と勘違いしたのだ。

ワイアットが不在の間もふたりは手紙でやり取りをしている。もうこれは決定ではないか?と。彼女もいなかった堅物の息子にやっと春が来たのだ。

喜んだ両親がワイアットの不在の間に、結婚の準備を始めたのはふたりも知らぬところだった。
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