婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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「レイシャル・オッド、よく聞け。今日限りお前とは婚約破棄をする」

今日はこの国唯一の王位継承者であるスザン・スワン王子と、婚約者のレイシャル・オッド公爵令嬢の卒業パーティーだ。会場になっているこの建物もふたりの卒業パーティーに合わせて、2年前から建築が始まった。そして、ようやく完成したばかりだった。

今日のパーティーには国内外からも多くの著名人が招待されていた。

和やかに始まったパーティーでは、苦楽を共にしてきた同級生とのおしゃべりに花を咲かせ、親たちもこの日を迎えたことを誇らすそうに子供たちを眺め食事を楽しんでいる。そんな雰囲気も気にせず、王子の声で周囲の空気が一変したのだ。

驚いた人々の視線が、声の主に集まった。そこには、この国の王子と隣立つ令嬢が見えた。少女は大きな瞳に涙を浮かべ庇護欲を誘うように震えている。

目を惹くのは、ふんわりとカーブしたピンクの髪に、ウェディングドレスのような純白のドレスを着ているからだろう。場違いのような白いドレスは卒業式には似つかわしくないが、彼女の可憐な雰囲気には良く似合っている。髪の色に合わせたショッキングピンクの大きなリボンが胸元を飾っている、なんとも自己主張が強い。

そして、彼女の周りには王子の側近でもある財務官の長男シャルル・副騎士団長の次男カーター・子爵の3男であるマクルスが彼女を守るかのように立っていた。

***

「スザン王子、婚約破棄の理由をお伺いしても?」

呼ばれたレイシャルは驚くこともなく王子の前に立つと、ゆっくり人々に聞こえるように話し始めた。

「お前は理由も分からないと言うのか。お前のような女がこの国の王妃になろうなど虫唾が走る!」

「そう言われても理由を言っていただかないと覚えがないのです」

会場からの冷たい視線に一瞬たじろいだ王子だが、元々この場を選んだのはレイシャルの悪事を多くの人に知らしめるためだ。王子は気持ちを奮い立たせ話を続ける。

「お前はここにいるリリアン嬢と私の仲を疑い、嫉妬心から彼女の教科書を破り、靴をごみ箱に捨てた。それでも飽き足らず、彼女が今日のために用意したドレスを破るという嫌がらせを行ったのだ。それにリリアンが平民であることを馬鹿にした発言や周囲の人間を使った虐めは見ていられないほどだ。お前はもはや王妃となる資質がない」

「まあ、そんなことが。リリアンさんにはお気の毒だと思いますが、私が犯人だと言う証拠はあるのですか?」

「貴様はまだ知らを切るのか!証拠ならある」

王子の評判を知っている貴族達から「はあ~」というため息が聞こえる。

「スザン王子、ここは私が説明しましょう」

そういうと財務官の長男であるシャルルがレイシャルを睨み付けるように一歩前に出た。

「教科書を破いたのは3カ月前の建国祭の前日。授業が終わった後忘れ物を取りに来たリリアンは、銀髪の令嬢が教室から逃げていくのを目撃しています。次に靴が捨てられていたのはその1週間後、やはりレイシャル嬢の教室であるAクラスのごみ箱でした」

彼らの父親である副団長は息子から何も知らされていなかったのだろう。『頼むからこれ以上馬鹿なことをするな』と懇願する目になっている。

「ドレスが破られていたのは更に2カ月後。王妃様の誕生日を祝うパーティーが開催された日です。リリアンが寮に戻るとドレスが無残にも破られていたのです。そのドレスはスザン王子が贈ったものでした。そして、リリアンはパーティーを欠席せざる負えなかった。貴方はそっくりなドレスを着てパーティーに出席している。嫉妬した貴方の仕業でしょう!」

言い切ったシャルルは胸を張っているが、嫉妬と聞いて一緒に学園生活を過ごした同級生達はどこにそんな要素があったのかと頭に?マークが浮かんでいる。

「それは大変でしたね。私は犯人ではございませんが、そこまで言うスザン様は信じないでしょうね」

「釈明できるというのか?」

「はい。ワイアット、ここへ」

「・・・・」

そう言ってレイシャルの横に歩み寄ったのは、30歳ぐらいの身なりの整った男性だった。

「ワイアットは私の秘書です。ワイアット事件があった日の私のスケジュールを皆様に聞こえるように言ってください」

「かしこまりました。まず、3カ月前の建国祭の前日のスケジュールを申し上げます」

10:00~12:45 王都の警備にあたり騎士団長のアレック様と会議
12:00~13:00 王妃様と昼食
13:15~16:30 建国祭に招待されたノル王国のカルロス王太子様との会談
18:00~20:30 オッド公爵家にてノル王国バルン宰相殿下と夕食を兼ねた打合せ

「次に靴が捨てられた日ですが・・・」

10:00~12:00 孤児院への慰問
13:00~15:00 王都教会で教皇様と謁見
16:00~19:00 オーロラ商会での会合と執務

「最後に王妃の誕生日パーティーですが・・・パーティーの3日前からお見送りをした翌日まで、王妃様の計らいで王宮に泊まり込みをされています。その間各国の王族や要人の方々と、今後の貿易について打合せをしていました」

ワイアットが手帳から視線を外すと、スザン王子の顔を直視した。

「ドレスを切り裂くために寮に行くなら往復で2時間はかかります。レイシャル様にそのような時間があったとは思えません。それに、お嬢様は6カ月前にはすでに単位を修得され学園には一切登校していないのです。ですからレイシャル様一切関与していないかと」

「はあ?」

王子は一瞬たじろいだ顔で側近たちと目を合わせているが、レイシャルの活躍はこの国の人間であれば誰もが知っているのだ。そんな彼女には嫌がらせをする時間もないと容易に想像ができる。

「6カ月前から学園に来ていないだと・・・なんだそのスケジュール。各国の王族や要人と打合せ?俺は聞いていないぞ」

「王妃様からスザン様にも声をかけたと聞いています。しかし、その日の報告ではスザン様はその女性を連れてショッピングやカフェを楽しまれたとか」

「な、何を言っている。俺は生徒会長として、王都や学園にまだ慣れていない彼女の案内をしていただけだ!」

ここまで証拠を付き出されても渦中のリリアンは動揺するどころか、スザン王子に『ここで引けば貴方の威厳はなくなるわ。スザン様はこの国の王様になる人でしょ』と煽るのだ。それを聞いてスザン様の顔が益々険しくなった。

「そ、そうだな。レイシャルの嘘に俺が騙されるとでも思っているのか!」

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