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第一章 恐怖のメゾンへようこそ!  

三 れいせいなお客さま

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 メゾン・ド・ストレンジがオープンして、数日がたった。
 ホノカは「メゾン・ド・ストレンジは、コワすぎる!」という、うわさをしっかりと広めてくれたようだ。
おかげで、「そんなに怖いなら、行って確かめよう」と思ったお客さまが、たくさん来てくれたのだ。
 今もエントランスには、順番待ちをしているお客さまの列がならんでいる。
「これ以上、お客さまをお待たせするのは申し訳ない」
 キュウビはすぐさまVRゴーグルを追加で四つ、用意した。
「これで、五人同時にアトラクションへ案内できるようになる。だいぶ、順番待ちの列が解消するだろう」
 一気に、列が進んでいくようになり、子規は顔をほころばせた。
「すごいよ、キュウビ。さすが、メゾン・ド・マスター!」
「いやいや。ここまで盛況になるとは思わなかった。人間がホラーに飢えているようで、我々としては願ったりかなったりだよ」
 すると、「うーん」と子規がアゴに手を当てる。
「どうしたの、子規くん」
「あんなに大人しそうな人たちも、ホラーを求めてるんだね」
「ほう。どの人のこと?」
「あの、中学生くらいの男女のふたりだよ。友達が恋人同士かわからないけれど。今、ゴーグルをつけているでしょ」
 子規が、手のひらを向けた先には、ロングヘアの女性がいた。
「ああ。女性のほうはリナさん。男性のほうはナオトさんといったかな。カップルらしいよ。デートといったら、オバケ屋敷だ。テッパンじゃないか」
「ええ~っ。怖すぎちゃったらデートが盛り下がっちゃわないかな。もしそうなってしまったら、ぼく責任を感じちゃうよ」
 不安そうにすると、キュウビが腹を抱えて、笑いだした。
 子規はムッとして、キュウビを見上げる。
「なんで笑うんだよ」
「きみはオバケ屋敷プロデューサーなのに、実におかしなことをいうんだなあ」
「どういうこと?」
「ホラーを体験して、恐怖を感じたり泣かれたりしたんだとしたら、万々歳じゃないか! 喜ぶべきことだろう、それは」
「……そ、そうかな」
「もちろんだよ。逆に彼女がゴーグルを外した瞬間〝ああ、面白かった〟といったとする。その時も、プロデューサーとして喜ぶべきだ。ついでに〝次は、恐怖で泣くほどに、怖かったといわせてやろう〟と思うくらいはしてもいいだろうね」
 キュウビは「フフン」と鼻を鳴らして、シッポをゆらす。
「さて。ふたりが選んだタイトルはなんだっただろうね。満足してほほえむか、恐怖で泣き叫ぶか、見ものじゃないか」

【見えてるあの子】

 リナには、霊感があった。
 ナオトが保育園の頃。園庭で何かに追いかけられることがたびたびあったとかで、恐怖でわんわん泣くリナに保育士の人が困り果てたという。
 さんざん泣いたあと、リナはナオトに決まってこういうのだ。
「ナオトくん。もしナオトくんのところにも怖いものが来たら、リナがぜったい守ってあげるからね」
 あれだけ泣いていた女の子が、こんなに強いことをいうなんて、とナオトは驚いた。
 同時に、そんなに恐ろしいものを見ているかと、何もできない自分がもどかしかった。
しかし、その恐ろしいものが見えないナオトは、ただうなずくしかなかった。

 リナは、中学校に上がってからもナオトには見えない何かを見ているようだった。
ナオトとは、変わらず一緒に遊んでいる。
普通は、自然と女子とつるむようになっていくのだが、リナは違った。
 理由を聞くと、
「女子といるより、いろいろわかってくれてるナオトといたほうが、楽だから」
 と、笑った。
 特に〝何を見ている〟と報告をうけるわけでもないが、リナといると毎日がちょっとだけ不思議で楽しい気がするな、とナオトは思っていた。
「学校ってね、〝出やすい〟んだ」
 リナは、いつもそういっていた。
「七不思議のせいだとか、学校を舞台にした怪談映画が人気でそう思いこんでいるとかじゃなく、ね。単純によくわからないものが集まりやすいスポットなの。幽霊はにぎやかな場所に集まりやすいんだ。あと、子どもの魂が大好きなの、ああいうものたちって」
 気づくと、リナはその手のことにくわしくなっていた。



 校外学習で、とある博物館に出かけた日のことだった。
 さまざまな展示物をナオトは、ぼうっと見つめる。
こういうものは正直、何が面白いのかわからないので、ただ流し見るだけだ。
 リナはナオトの後ろを静かに着いてくる。面白そうでも、つまらなそうでもない。
 ただ体をちぢこませ、そうっと歩く。何かにおびえているようにも見えた。
「リナ。何か、見えるの」
「ううん。平気」
「でも、ようすがおかしくない?」
「……大丈夫。ごめんね。早く、行こう。ハニワなんて、興味ないもん」
 縄文土器だか、弥生土器だかが並ぶ展示ケースに、変なハニワも紛れこんでいる。
それをリナは横目に見ながら、ナオトの背を押した。
「本当に、平気なの」
「うん。ああ、でもナオトが見たい展示があったら見ればいいんだからね」
「土器やハニワには興味ないけど、面白そうなものが展示してあったら見てみるよ」
 リナは「ちゃんと勉強しないとだもんね」と笑う。
 しかし、展示ケースのほうは、チラッと目線を送るくらいだった。
 やはり、何か見えているらしいが気を使わせないようにガマンしているんだろう。
 何が見えているのか。それは、見えるリナにしかわからない。
 ナオトはなんといったらいいのかわからず、うなずくことしかできなかった。

 一階の企画展示を見終えたナオトとリナは、二階の常設展示に向かうことにした。
 そこには、古い時代の医療道具がケースに寂し気に展示されていた。
そばには、昔の手術台も置かれている。色あせ、今にも壊れそうに見える。
「今の医療道具とは、ずいぶん感じが違うんだなあ」
 しかし、そのケースの前に立ったとたん、リナのようすがいちだんとおかしくなった。
「ごめん、ここダメだ」
 リナの声は、震えていた。ケースから目を逸らしている。
「どうした?」
「ここ、ムリ。鳥肌がヤバい」
 リナの腕を見ると、ザラッとした鳥肌が浮かび上がっていた。
 特に寒くもない、展示室。空調で、室温は適温に保たれているはずなのに。
 リナはナオトの手を引き、その場から逃げるように走り出す。
 しばらく二階の廊下を走り続け、トイレの前でようやくリナが足を止めた。
 呼吸を整えながら、ナオトがいった。
「リナ。大丈夫?」
「あのショーケースの前に立ったら、むせ返るような〝念〟が覆いかぶさってきて……」
「念、って?」
「〝怖い〟とか、〝痛い〟とか、あと……〝生きたい〟とか……そういうやつ」
「それって、まさか……古い医療道具だからってこと?」
「うん。使われていたころの人々の念が、まだ残ってるみたい。あの道具たちに」
 そこまで聞いて、ナオトはようやく理解した。
 リナが、博物館に来てから元気がなかったわけを。
「だから、展示ケースをなるべく見ないようにしていたのか」
「結局、気を遣わせちゃったね。ごめん。私、できるだけ博物館とか美術館とかには行かないようにしているんだ。見えやすいから、そういう場所って」
 何も見えない自分では、どれだけかかっても本当のリナの苦労を理解してあげることはできないんだろう。
 それと同時に、この世には自分では一生見ることのできない世界が確実にあるんだということをナオトは改めて思い知った。

 今日は、ナオトの家に集まって、パソコンでお気に入りのチャンネルを鑑賞することにした。
 リナが再生し始めたのは、ホラーチャンネルの動画。
 日ごろから怖いものを腐るほど見ているクセに、リナはこういうものが大好きだった。
「こんなん見て、大丈夫なのか」
「判定してるんだよ」
 リナは「ふふ」と笑う。
「ニセモノばっかりなんだもん。うんざりしちゃう」
「どうやって判定するんだよ」
 すると、リナは検索スペースに『ホラー動画』と打ちこむ。
「見てて」
すると、検索結果にズラリとおどろおどろしいサムネイル画像が並んだ。
「ほら、全然鳥肌立たないもん。これはニセモノ」
「ウソ発見器みたいだな」
 次々と動画を再生していくリナ。鳥肌はいっこうに立たないようだ。
 『巷にあふれるホラー動画は、ほとんどがニセモノ』ということが証明された。
 多少がっかりしながらも、ナオトはホッとしていた。
そうやすやすと、本物のホラー動画があっては困る。
 見えない人間にとっては、めったに出会わないからこそ怖いのだ。
「えっ」
 その時、動画を再生するリナの手が止まる。
「どうかした」
 話しかけても、リナの反応がない。
 カーソルは、とある動画のサムネイルの上で止まっている。
 リナはそれをジッと見つめ、カタカタと震え出した。
「やばい。やばいやばいやばい! これ、マジでダメだ」
 リナの腕に、ざらざらとした鳥肌が立っている。
うろこのように逆立ち、リナの腕全体に広がっている。
ナオトはリナからマウスを取ると、そのチャンネル内に移動した。
 するすると、動画一覧をスクロールしていく。
「このチャンネル、ホラーばっかりだな。十分程度のは、都市伝説の紹介とかか。三十分くらいのは……なんだこれ。実際に恐怖体験してる人の動画っ? こんなのどうやって撮ってるんだよ」
 落ち着いた様子のナオトとは対照的に、リナはうつむき上目遣いで画面を見ていた。
 気分がすぐれないようすのリナに、ナオトは冗談めかしていった。
「どんな内容なのか、確かめてみるか」
「えっ……」
「本物なんだろ? リナが普段どんなものを見ているのか俺も見てみたい」
「ナオトが私に気を使っていってくれてるのはわかる。でも……」
「リナばっかり怖いものを見てるなんて、不公平だろ。俺も見たい」
「ん……ありがとう、ナオト」
 リナの顔は真っ白で、生気がなかった。
「この動画は短いな。五分くらいで終わりそうだし、これを見てみよう」
 タイトルは【見えてるあの子】。
ナオトはリナと顔を見合わせると、再生ボタンを押した。

 黒い背景に『見えてるあの子』というタイトルが浮かび上がる。
 そして、素っ気ないフォントのテロップが次々に表示されていく。
【当チャンネルへようこそ。これからお届けするのは、とある家族のお話しです。突然、平和な家族の日常に、恐怖が襲い掛かります。それはどのような恐怖なのか。どうぞ、あなたの目で見届けてください】
 すると画面は一転、見たことのないアパートの一室へと変わった。
 そこには見知らぬ家族が三人、小さな部屋で楽しそうに食事をしていた。
【こちらは、このアパートに暮らし始めて、三年目の××さん宅です。この間、お子さんが生まれたばかり。これがいつもの風景、いつもの日常。それがこの後、一転します】
 フルテロップに合わせて、動画が進行していく。名前の部分は、規制音が入っていた。
画面の中の父親が、カチャと箸を置く。
「このアパート、そろそろ出ないか?」
「え? いきなりどうしたの」
 母親は食事をする手を止め、不思議そうに目を丸くする。
「いや……この部屋キレイだけどさ。駅も近くないし不便だろ。いつまでもバスで移動じゃ、大変じゃん。車は俺が仕事で乗って行っちゃうし」
「まあ、ね。アパートの前の広い道路、この子と散歩するにはちょっと危ないもんね。この間、アパートの前の駐車場にスピードを出しすぎた車が突っこんできた時は焦ったよ。隣の家の塀にぶつかっちゃって、警察来てたし」
 息をつく母親。
「じゃあ、出るってことで……いいんだな」
「うん、わかった」
 夫婦の意見が合ったところで、とんとん拍子に準備は整えられていき、あっという間にアパートを出ることとなった。
 そして時は進み、別のアパートに移り住んで、四年が経った夏ごろ。
 夫婦は、心霊番組を見ていた。先月で五歳になった子どもは、寝室で寝ているようだ。
 新調したばかりらしいアンティークのソファに座り、夫婦は番組に何やかんやと難癖をつけながら、楽しく鑑賞している。
 その時ふと、何気なしに父親がいった。
「ねえ。あのアパート、覚えてる?」
「美術館の近くだった、あのアパートのこと?」
 うなずく父親の目は、心霊番組が流れている画面に向いたままだ。
 母親は不審そうな目で、父親を見上げた。
「どうかした。まさか怖い話でもするつもり?」
「ああ、うん。なんとなく思い出したから」
「何なの」
 母親は、フキゲンに眉をひそめた。
すると、父親はいいにくそうにしながらも、ハッキリとした口調で告げた。
「あのアパートさ、夜中の三時ごろになると、ラップ音あったんだよ。夜になると、いつもトイレの前の廊下に影みたいなのが立ってたし」
 ラップ音。それは、鳴るはずのない状況の場所で不可解な物音が発生するという、心霊現象のひとつだ。
「あとさ、俺たちの隣の家の住人。サラリーマンが一人で住んでたよな。いつも夜になるとうるさく音たてたりしてただろ。あれな、〝見えてた〟んだと思う。追い払おうとしてたんだ。〝見えるはずのないもの〟を」
 母親は当然、唖然としていた。そんな話、聞きたくなかったとでもいわんばかりに。
「あんまり、マジな話しないでよ。寝れなくなる」
「ああ、だよな。でもさ」
「何。まだ、あるの」
「たぶん、アイツ……見えてるんだよ」
 それは今年で五歳になる、娘の話だと母親はすぐに察した。
その背筋に、ゾッと寒いものが走る。
「今日も俺と二人で公園に行っただろ。砂場で遊んでるとき、アイツ、ベンチとかブランコを指差すんだよ。〝あれ、あれ〟ってさ。まあ確かにそこには、黒い影が……」
「待って……あなた、霊が見えるの?」
「ああ」
「今まで、そんな話」
「だって、いったら怖がるだろ。この家、〝いるよ〟なんて」
「しかも、あの子も霊が見えるっていうの?」
「ああ」
「そんな……!」
 寝室に行き、幼い我が子の寝顔を見つめる、母親。
「この子がこれから、恐ろしいものを見ながら生きていかなきゃならないかも知れないなんて……そんなの、可哀想よ!」
 動画はそこで終わってしまった。
 五分程度の動画だったが、再生数はすでに三万を超えている。
「しかし、すごいクオリティの動画だな。演出なんだろうけど。どこかの劇団の役者でも雇ってるのか……?」
「なっ、なんなの……? なんなのよ、これ」
 リナの声が震えている。
ナオトは慌ててリナの肩に手を置き、顔を覗きこむ。
 リナの顔は真っ青になり緊張でか、身体中びっしょりと汗ばんでいる。
「リナ。どうしたんだ。この動画が何なんだよ」
「……これ、私のことだ」
「えっ……?」
「この動画の両親は私の両親。この家は小さい頃に住んでいたアパート。この子どもは、私!」
 顔を真っ青にさせているリナの腕には、恐ろしいほどに浮き上がった鳥肌が立っている。
「どうして私の小さいころのことが動画にされて、このチャンネルに上がっているの?」
「リナ。落ち着け。偶然だろ」
「自分の親を見間違えるなんてありえないでしょ。このアパートだって、小さいころのアルバムで見たまんま。間違いないよ」
 リナの言葉に、ナオトはぐっと言葉を飲みこんだ。
(そんなバカなこと、本当にあるのかよ。このチャンネル……一体、なんなんだ)
 ナオトは動画のコメント欄を読んでいく。
 ——今回も、怖かったです!
 ——本物の恐怖、鳥肌が立ちました!
 ——ガチすぎてヤバいです!
 ありきたりなコメント欄の中に、奇妙なものが流れてきた。
 ——このご家庭の娘さんというのはもしや〝リナ〟さんのことですか? だとすれば、すぐにこの動画を削除してください。プライバシーの侵害ですよ。
 『kamiya1002』というアカウントからの書きこみだった。
「この人、どうしてリナのことだって……」
「カミヤ……もしかして、神谷先生? 〝1002〟は、十月二日。先生の誕生日だ」
「それって保育園の年長の時に担任だった、神谷先生か」
 神谷先生は、いつもリナのことを心配していた。
「私の見ているもののことを否定せずにいてくれた、唯一の先生。他の先生たちは〝そんなものはいないから大丈夫だよ〟っていっていたのに、神谷先生だけは〝こわかったね〟って慰めてくれたんだ」
 リナの目尻には、薄らと涙がにじんでいた。
 この動画を見て、当時のことを思い出したらしい。
「リナ。神谷先生に、返信したらどうだ」
「うん……」
 ナオトの提案に、リナはうなずいた。
 コメントの返信欄に、メッセージを打ちこんでいく。
 ——@kamiya1002
 先生、お久しぶりです。お元気でしたか。
私のほうは相変わらずです。今でも、怖いものは見えています。
 先生が私にいってくださったことは、私の宝物です。
私が怖いものを見て泣いていた時、「こわかったね。どんなものが見えたの? 教えてくれる?」といってくださいました。
 私は「姿が薄暗くて、ざらざらしていてね、お砂のようだった。私のことをジッと見てきたの」と答えました。
 すると、先生は「こわかったね」と、私のことをぎゅっとしてくれました。
 怖いものがいつまで見えるのかは、私にもわかりませんが、今でもこうして心配してくださったこと、本当に嬉しいです。本当に本当に、ありがとうございました。
 リナより——
 瞬間、リナがしたコメントに返信がついた。神谷先生からではない。
 〝管理人〟という人物からの書きこみだった。
 ――コメント、ありがとうございます。
 リナとナオトは顔を見合わせた。
「誰だ、こいつ……」
 ナオトがつぶやくと、それが聞こえたのではというタイミングでまた返信がつく。
 ――見えてるんでしょう。あなたには。
「えっ」
 リナの声は震えていた。
 ――あなたが今見ている画面、よく目を凝らして見てみてください。
 ナオトが見てみても、ただのコメント欄しか映っていない画面。
 しかし、リナが目を凝らしてよくよく見てみると――そこには天井からぶら下がった無数の人影がゆらゆらと揺れていた。
 リナの甲高い悲鳴が、響き渡った。
「な……っ! 何なの、これ――ッッ!」
「リナ? おい、大丈夫かよ、リナ!」
 見えていないナオトは、リナの肩を何度も揺さぶる。
 それしか、彼に出来ることはなかったのだ。

【見えてるあの子  おわり】

「はあ……はあ……」
 汗だくになりながら、ゴーグルを外すリナとナオトに、キュウビが近づき会釈をした。
「お疲れさまでございました。楽しんでいただけましたか?」
「怖かったです。とても……」
 冷静に答えるナオト。
 そして、隣で真っ白な顔をしてうわの空でいるリナは、何も答えてくれない。
キュウビは心のなかでションボリした。
 もっと恐怖に震えてくれると思っていたのに。
 これでは、子規になんと伝えればいいのかわからない。
 キュウビは、もっとツッコんだことを聞いてみたくなった。
「どういうところが、怖かったですか? 当館はオープンしたてなので、今後のためにお聞かせいただけると、ありがたいのですが……」
「そうですね。全体的に怖かったです。でも……」
 ナオトは腕を組み、真剣に考えはじめた。
「リナは最後、何を見たんですか? たぶん、アトラクション内では、ストーリー通りにリナには見えていて、俺には何も見えてなかったので……。そこが残念でしたね。お話自体は、とても面白かったと思いますよ」
 ニッコリとほほ笑んだナオトは、VRゴーグルをキュウビに手渡すと、ふらふらのリナを連れてさっさと帰ってしまった。
 キュウビは横髪を耳にかけながら、「うーん」とうなる。
「まさか、本当に〝面白かった〟といわれてしまうとは。これは……穏やかじゃないな」
 犬歯を光らせ、キュウビは目の奥に真っ赤な炎を燃やすのだった。



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