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9-5 闇オークション
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ルドンの手には、オークション・ハンマー……いや、裁判ハンマーが握られている。
——カーン!
闇オークションの会場に耳をつんざく、あの音が再び響いた。
元閻魔大王であるルドンの登場により、周囲の鬼たちが動揺し始める。
「ルドンさまッ? なぜ、このようなところに?」
「地獄を去られ、リサイクルショップを経営しておられると聞き及んでいましたが……」
ルドンがフンッ、と鼻を鳴らす。
「このオークション会場が、俺の店だ。誰も気づかなかったのか」
鬼たちがいよいよ大騒ぎしだす。
ルドンの長い爪が、鬼に渡った魂をすくいあげた。
鬼が慌てたようすで手を伸ばすが、それは空を切るだけだった。
青白い炎が、煌々とルドンの爪先を照らす。
「こんなところで地獄の仕事もせず、油を売っているのがバレたら、お咎めをくらうんじゃあねえのか? 誰からとは言わねえが……」
「現閻魔大王・ザザさま……!」
ルドンの一喝に、鬼たちが悲鳴をあげる。
「ルドンさま! あああ、あの! その手に持っておられるものって……!」
「まさか……現閻魔大王である、ザザさまのハンマーではッ?」
歴代の閻魔大王から代々引き継がれている、裁判ハンマー。
それを持つものこそが、閻魔大王であるという証だ。
地獄の最高裁判長、閻魔大王。
ルドンがそれを辞した今、現在ではザザという鬼が閻魔大王らしいのだが……。
「つまり、今これを俺が持っていると言うことは」
「あ、あなたさまが現閻魔大王と言うことに……!」
ひとりの鬼が引きつった声を上げた途端、その動揺はどんどん周りの鬼たちに伝染していく。
そして鬼たちは次々とルドンの前に平伏していく。
まるで波のように。
「ははは、こりゃあ愛らしい反応だ。俺が大王とわかった途端にこれか」
「どうかお見逃しください。この闇オークションは元々、あのバッコが始めたことでして」
「ああ、そうらしいな」
ルドンはチラリとバッコを見下ろす。
バッコは涼やかな笑みを浮かべていた。
「昔からきみは、バカみたいに真っすぐだよねえ」
「何が言いてえんだ」
「確かに、きみは人間に冤罪の判決を下したよ。閻魔大王としてあるまじきことだ。でもね、それできみが人間の味方をする理由がわかんないのよ」
「そういうお前は、頭のおかしな遊園地を作ろうとしているようだが」
「魂がほしいなら、それが集まる場所を作ればいい! 俺は鬼として、欲望のままに動いているだけ」
「欲望のままにねえ」
「そっ。効率を制したものこそが現代社会における勝者ってわけだよ」
二人のやりとりをサクマはぽかんと見つめていた。
「閻魔大王のルドン、かっこい~……」
隣にいた鬼がサクマを見下ろし、言った。
「人間。お前、ルドンさまの店の従業員らしいが、あのお姿を見たことがなかったのか」
「うん」
素直にそう言うサクマに、拍子抜けする鬼。
「返事はそれだけかよ。人間はユーモアがねえ。面白みがねえな~」
「ねえ。ルドンは閻魔大王なのに、バッコは随分と馴れ馴れしいと言うか……他の鬼たちみたいに頭を下げたりしないの?」
「当たり前だろ。やつはルドンさまの弟なんだからよ」
——カーン!
闇オークションの会場に耳をつんざく、あの音が再び響いた。
元閻魔大王であるルドンの登場により、周囲の鬼たちが動揺し始める。
「ルドンさまッ? なぜ、このようなところに?」
「地獄を去られ、リサイクルショップを経営しておられると聞き及んでいましたが……」
ルドンがフンッ、と鼻を鳴らす。
「このオークション会場が、俺の店だ。誰も気づかなかったのか」
鬼たちがいよいよ大騒ぎしだす。
ルドンの長い爪が、鬼に渡った魂をすくいあげた。
鬼が慌てたようすで手を伸ばすが、それは空を切るだけだった。
青白い炎が、煌々とルドンの爪先を照らす。
「こんなところで地獄の仕事もせず、油を売っているのがバレたら、お咎めをくらうんじゃあねえのか? 誰からとは言わねえが……」
「現閻魔大王・ザザさま……!」
ルドンの一喝に、鬼たちが悲鳴をあげる。
「ルドンさま! あああ、あの! その手に持っておられるものって……!」
「まさか……現閻魔大王である、ザザさまのハンマーではッ?」
歴代の閻魔大王から代々引き継がれている、裁判ハンマー。
それを持つものこそが、閻魔大王であるという証だ。
地獄の最高裁判長、閻魔大王。
ルドンがそれを辞した今、現在ではザザという鬼が閻魔大王らしいのだが……。
「つまり、今これを俺が持っていると言うことは」
「あ、あなたさまが現閻魔大王と言うことに……!」
ひとりの鬼が引きつった声を上げた途端、その動揺はどんどん周りの鬼たちに伝染していく。
そして鬼たちは次々とルドンの前に平伏していく。
まるで波のように。
「ははは、こりゃあ愛らしい反応だ。俺が大王とわかった途端にこれか」
「どうかお見逃しください。この闇オークションは元々、あのバッコが始めたことでして」
「ああ、そうらしいな」
ルドンはチラリとバッコを見下ろす。
バッコは涼やかな笑みを浮かべていた。
「昔からきみは、バカみたいに真っすぐだよねえ」
「何が言いてえんだ」
「確かに、きみは人間に冤罪の判決を下したよ。閻魔大王としてあるまじきことだ。でもね、それできみが人間の味方をする理由がわかんないのよ」
「そういうお前は、頭のおかしな遊園地を作ろうとしているようだが」
「魂がほしいなら、それが集まる場所を作ればいい! 俺は鬼として、欲望のままに動いているだけ」
「欲望のままにねえ」
「そっ。効率を制したものこそが現代社会における勝者ってわけだよ」
二人のやりとりをサクマはぽかんと見つめていた。
「閻魔大王のルドン、かっこい~……」
隣にいた鬼がサクマを見下ろし、言った。
「人間。お前、ルドンさまの店の従業員らしいが、あのお姿を見たことがなかったのか」
「うん」
素直にそう言うサクマに、拍子抜けする鬼。
「返事はそれだけかよ。人間はユーモアがねえ。面白みがねえな~」
「ねえ。ルドンは閻魔大王なのに、バッコは随分と馴れ馴れしいと言うか……他の鬼たちみたいに頭を下げたりしないの?」
「当たり前だろ。やつはルドンさまの弟なんだからよ」
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