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8-9 死神

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「え?」
 反射的に身構える、サクマ。
 ルドンの視線は店内の隅っこを、ジロリと睨みつけていた。
「出て来いよ。性悪バイヤーさんよお」
 商品である、いかにも呪われてそうな三面鏡の陰にバッコがゆらり、と出てくる。
 いつからそこにいたのかは、わからない。
 サクマの視界からバッチリ見えるはずの角度なのに。
 気配もなければ、姿すら確認できていなかったのだ。
「人聞きが悪いなあ。まあ、鬼にとっては褒め言葉だよねえ」
「んなワケないだろ」
「いやあ、大事な商品を保管していた魂のゆりかごにドロボーが入ってね。さすがの敏腕バイヤーの俺も、ビックリだよ。無くなったのは、そこにいる魂さ。魂の名称は……そうそう。〝トウヤ〟とか言ったっけ」
「もう止めろ。こいつは記憶を取り戻しかけてる。後は、俺がこっちの世界に引っ張り上げてやれば、元の肉体を取りもどせるんだ」
 ルドンの言葉に、サクマは自分の心が一気に晴れていくのを感じた。
 しかし、バッコは不服そうに鼻を鳴らす。
「ふん。そんなことさせないよ、ルドン。いくらきみが、元閻魔大王でもね」
「……ええッッ?」
 目ん玉を飛び出させて驚いているサクマに、バッコは「あらら」と首を傾げた。
「ルドンってば、店の従業員に教えてあげてなかったの」
 ばつが悪そうにしているルドンに、バッコは目をキツネのように細めた。
「それじゃあ、俺がそこの従業員に教えてあげよう。ルドン、きみが冤罪の魂を誤って最下層の地獄に落としてしまったこと。落ち切るのに、およそ二千年かかると言われている、地獄史史上最悪の刑だよ!」
 カリッ、という音がした。
 見上げると、ルドンが自分の爪を噛んでいる。
 ルドンがイライラしているすがたを、サクマは初めてみた。
「やがてきみは閻魔大王を辞任。リサイクルショップを開き、未だ最下層へと落ち続けている冤罪の魂への贖罪のために、人間の恐怖体験の記憶を買い取っているってこと」
「に、二千年……」
 その途方もない数字に、サクマは声を漏らした。
 ルドンは何も言わずにただ、足元を見つめている。
 ふとサクマは、以前ルドンが「俺は強い」と言っていたことを思い出す。
 スプーキーリサイクルに、ルドンが自分で張った特別な結界。
 それはルドンが元閻魔大王だったからなのか、と納得した。
「ルドン。元閻魔大王のきみならわかるよね。あの死神への裁きのことだよ。あれは、当然の結果だろう? 死神は俺が管理するものを無断で逃がしたんだ。有罪に決まってるよねえ?」
 ルドンは黙っている。
 黙って、バッコを睨みつけている。
 ニタリ、とバッコが笑みを作った。
「さあ、今度は僕から逃げた魂を盛大に裁こうじゃないか! きみの目の前でね!」
 バッコが、ピュウと口笛を吹いた。
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