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8-8 死神
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俺は死神の手を掴む。
しかし、振り解かれてしまった。
その間にも、死神はどんどん沈んでいっている。
もう、胸の辺りまで。
「ダメだよ。トウヤくん」
死神は笑った。
なんで、こんなときに笑えるんだと思った。
「さよなら。トウヤくん。魂のゆりかごからは、もう出られるようにしておいたよ」
「え……」
「自分のこと、思い出し始めてるよね」
「そう、いえば……俺、スマホを……」
「よかった。これで、少しでも正しく、魂を管理する死神の務めを……」
——ズボッ。
死神の姿が、見えなくなった。
その瞬間、俺の胸に大きな穴が空いたような気がした。
何でだ。
何でこんなことに……。
「俺のせいで、死神はこんなことになったのか? 俺のために、死神は……ダメだ。悲しすぎて、耐えられない。こんな記憶は消さなくちゃ……そうだ、あのリサイクルショップなら……スプーキーリサイクルなら……この記憶を買い取ってくれる……」
【おわり】
「トウヤ、まさか……その死神の子の記憶を消したくて、ここに来たの?」
サクマの問いに、トウヤは黙ってうなずいた。
「でも、地中のなかに引きずり込まれただけなんでしょ? なら、諦めるには早すぎるんじゃないかな。まだ助けられるかも……」
しどろもどろになりながら、サクマはルドンを見上げた。
ルドンなら、なんとかしてくれるじゃないかと思ったのだ。
しかし、ルドンの表情はあまりにも暗いものだった。
それだけで、サクマは悟ってしまった。
トウヤはもう二度と、死神と会うこと出来ないのだと言うことに。
「恐らく、バッコによって、すでに存在そのものを消されちまってるだろう」
「そんな……!」
「トウヤの記憶を買い取る。それが、問題解決の答えだ……」
忘れる。
そうすれば、何もかもリセットできる。
恐怖体験も、悲しい思い出も。
(こんな悲しい結末になるなんて……ひどすぎるよ。バッコ……本当の鬼だ!)
辛そうなトウヤの横顔に、サクマは涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
「買取金額は千円だ。悪いな、いつもは恐怖体験のみの商売だからよ。忘れたいとは言え、友達との思い出に金額のことはあまり言いたくねえもんだな」
「いいよ。リサイクルショップに来たのは俺の判断なんだからさ」
ルドンの指先がトウヤの額に入り込んでいく。
そしで、小さな虫が黒い爪に串刺しになって出てきた。
うねうねとうごめくそれを、試験管のなかに差し込みながら、ルドンは顔を上げた。
「さてさて。そこにいんだろお」
しかし、振り解かれてしまった。
その間にも、死神はどんどん沈んでいっている。
もう、胸の辺りまで。
「ダメだよ。トウヤくん」
死神は笑った。
なんで、こんなときに笑えるんだと思った。
「さよなら。トウヤくん。魂のゆりかごからは、もう出られるようにしておいたよ」
「え……」
「自分のこと、思い出し始めてるよね」
「そう、いえば……俺、スマホを……」
「よかった。これで、少しでも正しく、魂を管理する死神の務めを……」
——ズボッ。
死神の姿が、見えなくなった。
その瞬間、俺の胸に大きな穴が空いたような気がした。
何でだ。
何でこんなことに……。
「俺のせいで、死神はこんなことになったのか? 俺のために、死神は……ダメだ。悲しすぎて、耐えられない。こんな記憶は消さなくちゃ……そうだ、あのリサイクルショップなら……スプーキーリサイクルなら……この記憶を買い取ってくれる……」
【おわり】
「トウヤ、まさか……その死神の子の記憶を消したくて、ここに来たの?」
サクマの問いに、トウヤは黙ってうなずいた。
「でも、地中のなかに引きずり込まれただけなんでしょ? なら、諦めるには早すぎるんじゃないかな。まだ助けられるかも……」
しどろもどろになりながら、サクマはルドンを見上げた。
ルドンなら、なんとかしてくれるじゃないかと思ったのだ。
しかし、ルドンの表情はあまりにも暗いものだった。
それだけで、サクマは悟ってしまった。
トウヤはもう二度と、死神と会うこと出来ないのだと言うことに。
「恐らく、バッコによって、すでに存在そのものを消されちまってるだろう」
「そんな……!」
「トウヤの記憶を買い取る。それが、問題解決の答えだ……」
忘れる。
そうすれば、何もかもリセットできる。
恐怖体験も、悲しい思い出も。
(こんな悲しい結末になるなんて……ひどすぎるよ。バッコ……本当の鬼だ!)
辛そうなトウヤの横顔に、サクマは涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
「買取金額は千円だ。悪いな、いつもは恐怖体験のみの商売だからよ。忘れたいとは言え、友達との思い出に金額のことはあまり言いたくねえもんだな」
「いいよ。リサイクルショップに来たのは俺の判断なんだからさ」
ルドンの指先がトウヤの額に入り込んでいく。
そしで、小さな虫が黒い爪に串刺しになって出てきた。
うねうねとうごめくそれを、試験管のなかに差し込みながら、ルドンは顔を上げた。
「さてさて。そこにいんだろお」
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