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7-7 観覧車

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『もう少しだけ……そうしたら、あとは終わるだけ』
『何の話、ですか?』
『一緒に死んでほしい。〝思い出といっしょに〟』
『何? 何言ってるの、あなた』
 カエデとチサの姿が、見えなくなっていました。
 私の手から、スマホが滑り落ちていきます。
 ゴンドラ内に、冷たい落下音が響き渡りました。
 呆然としている私の視界のすみに、ぱらぱらと何かが降ってくるのが映ります。
 雨でも、鳥でも、パラシュートでもありません。
 ——人です。
 さまざまな色の服を着た、さまざまな人生を生きてきたであろう人たち。
 私は、悪夢を見ているのでしょうか。
 観覧車が、ギシギシと音を立てています。
 まるで、泣いているようだと思いました。
 なぜ、こんなことを思うのでしょう。
 今まさに、友人二人がここから飛び降りたと言うのに。
 ——ポコン、とスマホにダイレクトメッセージの通知が届きました。
『私は〝不吉〟です』
 私はそのメッセージを目にし、「え」と声をもらす。
 〝不吉〟。
 そう名乗った主から、続けざまにメッセージが届く。
『当園はこれにて閉園となります。お客さまにおかれましては、私どもの思い出のカギを拾ってくださり、大変ありがとうございました。どうか大切になさってください。時にはそれで、私どもの思い出の扉を開きにきてください。改めまして、長らくのご愛顧を賜り、誠にありがとうございました』

【おわり】

「これが、私の恐怖体験です」
「そんな恐ろしいことがあったんですか? 見たところ、SNSにもネット掲示板にも、そんな凄惨な事件は取り上げられていませんけど」
 コックリさんが勝手に調べて見せてくるので、サクマは仕方なくトウヤのスマホをスクロールする。
 検索ボックスには、【**遊園地 観覧車 事件】と入力されている。
 しかし、どのサイトにもヒットしない。
 いや、それどころか【**遊園地】という園名すら引っかからない。
 そんな遊園地自体が存在しないのだ。
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