44 / 75
6-7 石の意志
しおりを挟む
「もういいよ、ケイト。気にするな」
タイシとケイトが泣きながら抱き合うのを、サクマは悲しそうに見つめていた。
「まさかきみたちまで、バッコが関わっていたとはな」
「え……?」
ルドンがハッキリと口にした名前に、サクマの背筋にゾワッとしたものが走る。
トウヤを神隠しし、闇オークションに出品しようとたくらむ鬼のバイヤー・バッコ。
「ルドン。このふたりがこんなことになったのも、バッコのしわざなの……?」
「やつは例の公園の石を利用して自動的に魂をたくさん回収し、闇オークションに出品しようとしていたんだ」
「そんな……!」
バッコのせいで、また魂にされてしまった人を目の当たりにして、サクマは胸が締め付けられるようだった。
「それじゃあ、あの石はやっぱり普通の石じゃなかったんだね」
「恐らく、バッコが用意した、〝魂のゆりかご〟のひとつだろう」
「その通りだよ、ルドン」
突然、朗らかなトーンの声が天井から降ってきたので、その場の全員が反射的に上を向く。
「いやはや、俺としたことが。まさか、魂のゆりかごが満タンで、せっかくの魂を取りこぼしちゃうとはね」
「バッコ……!」
「ふふ。でもちゃあんと、そこのふたつの魂を回収しに来たよ☆」
見上げると天井から、全身真っ黒の男がコウモリのようにぶら下がっている。
その男の頭からは、ヤギのようなグルグルとしたツノが二本生えている。
ニコニコと笑顔を浮かべながら、バッコは四人を見下ろしていた。
「まったく敏腕バイヤーなのに、失態失態。定期的にゆりかごの中身はチェックしていないといけないねえ」
「バッコ。いつからそこにいた」
ルドンがパチンと指を鳴らす。
頭のツノが伸び、目つきが鋭くなっていく。
黒い爪が刃物のように尖っていく。
瞬間——ドンッという鈍い音が店内に響き渡る。
サクマが気づいた時には、ルドンの爪がバッコの上等そうなスーツの肩口に食い込んでいた。
バッコは天井に縫いつけられ、身動きが取れなくなっている。
「バッコ、この間の人間の魂はどうした。ポッドキャストとかいうので、たぶらかしたトウヤって子の魂だよ」
「〝魂のゆりかご〟にいれて大切に保管しているよ。大事な商売道具だからね」
聞きなれない単語に目を丸くするサクマ。
「なんなの、その魂のゆりかごっていうのは」
「鬼があらゆる魂を保管するために使う穴のことだよ」
ルドンがバッコを睨みつけつつ、答えた。
「神通力を使って、空間に穴を空ける。そこに、魂を保管すんのさ。それを鬼は魂のゆりかごと呼ぶんだ」
「じゃあ、あの石にも穴が空けられていたの?」
「石は、確かにあの公園の都市伝説だったみたいだが……バッコはそれを利用しようとしたんだろう。強制的に穴を空けられたんだ」
バッコが「はあ~」と大げさにため息をつく。
「そもそも、ルドン。きみって、商売の仕方が本当に下手だよね」
「あ? なんだよ、急に」
「非効率的っていうかさ! 恐怖を手に入れたいんなら、魂ごと手に入れたほうが早いじゃん。なのに、いちいちこんな店まで作って人間と取引をするなんて。どうして? もっと現実的に商売をすべきだよ」
「そんなの、俺の勝手だろうが」
「あらら。商売人としては俺のほうが先輩なんだから、ありがたいアドバイスだと思うんだけどなあ。あ! それより早く回収しないと! せっかくの魂が浄化しちゃうね」
バッコが、ピュウと口笛を吹く。
すると店内にどろどろっと、大きな蜘蛛の巣が現れた。
タイシとケイトが泣きながら抱き合うのを、サクマは悲しそうに見つめていた。
「まさかきみたちまで、バッコが関わっていたとはな」
「え……?」
ルドンがハッキリと口にした名前に、サクマの背筋にゾワッとしたものが走る。
トウヤを神隠しし、闇オークションに出品しようとたくらむ鬼のバイヤー・バッコ。
「ルドン。このふたりがこんなことになったのも、バッコのしわざなの……?」
「やつは例の公園の石を利用して自動的に魂をたくさん回収し、闇オークションに出品しようとしていたんだ」
「そんな……!」
バッコのせいで、また魂にされてしまった人を目の当たりにして、サクマは胸が締め付けられるようだった。
「それじゃあ、あの石はやっぱり普通の石じゃなかったんだね」
「恐らく、バッコが用意した、〝魂のゆりかご〟のひとつだろう」
「その通りだよ、ルドン」
突然、朗らかなトーンの声が天井から降ってきたので、その場の全員が反射的に上を向く。
「いやはや、俺としたことが。まさか、魂のゆりかごが満タンで、せっかくの魂を取りこぼしちゃうとはね」
「バッコ……!」
「ふふ。でもちゃあんと、そこのふたつの魂を回収しに来たよ☆」
見上げると天井から、全身真っ黒の男がコウモリのようにぶら下がっている。
その男の頭からは、ヤギのようなグルグルとしたツノが二本生えている。
ニコニコと笑顔を浮かべながら、バッコは四人を見下ろしていた。
「まったく敏腕バイヤーなのに、失態失態。定期的にゆりかごの中身はチェックしていないといけないねえ」
「バッコ。いつからそこにいた」
ルドンがパチンと指を鳴らす。
頭のツノが伸び、目つきが鋭くなっていく。
黒い爪が刃物のように尖っていく。
瞬間——ドンッという鈍い音が店内に響き渡る。
サクマが気づいた時には、ルドンの爪がバッコの上等そうなスーツの肩口に食い込んでいた。
バッコは天井に縫いつけられ、身動きが取れなくなっている。
「バッコ、この間の人間の魂はどうした。ポッドキャストとかいうので、たぶらかしたトウヤって子の魂だよ」
「〝魂のゆりかご〟にいれて大切に保管しているよ。大事な商売道具だからね」
聞きなれない単語に目を丸くするサクマ。
「なんなの、その魂のゆりかごっていうのは」
「鬼があらゆる魂を保管するために使う穴のことだよ」
ルドンがバッコを睨みつけつつ、答えた。
「神通力を使って、空間に穴を空ける。そこに、魂を保管すんのさ。それを鬼は魂のゆりかごと呼ぶんだ」
「じゃあ、あの石にも穴が空けられていたの?」
「石は、確かにあの公園の都市伝説だったみたいだが……バッコはそれを利用しようとしたんだろう。強制的に穴を空けられたんだ」
バッコが「はあ~」と大げさにため息をつく。
「そもそも、ルドン。きみって、商売の仕方が本当に下手だよね」
「あ? なんだよ、急に」
「非効率的っていうかさ! 恐怖を手に入れたいんなら、魂ごと手に入れたほうが早いじゃん。なのに、いちいちこんな店まで作って人間と取引をするなんて。どうして? もっと現実的に商売をすべきだよ」
「そんなの、俺の勝手だろうが」
「あらら。商売人としては俺のほうが先輩なんだから、ありがたいアドバイスだと思うんだけどなあ。あ! それより早く回収しないと! せっかくの魂が浄化しちゃうね」
バッコが、ピュウと口笛を吹く。
すると店内にどろどろっと、大きな蜘蛛の巣が現れた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
真夜中の訪問者
星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。
※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。
FLY ME TO THE MOON
如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
おシタイしております
橘 金春
ホラー
20××年の8月7日、S県のK駅交番前に男性の生首が遺棄される事件が発生した。
その事件を皮切りに、凶悪犯を標的にした生首遺棄事件が連続して発生。
捜査線上に浮かんだ犯人像は、あまりにも非現実的な存在だった。
見つからない犯人、謎の怪奇現象に難航する捜査。
だが刑事の十束(とつか)の前に二人の少女が現れたことから、事態は一変する。
十束と少女達は模倣犯を捕らえるため、共に協力することになったが、少女達に残された時間には限りがあり――。
「もしも間に合わないときは、私を殺してくださいね」
十束と少女達は模倣犯を捕らえることができるのか。
そして、十束は少女との約束を守れるのか。
さえないアラフォー刑事 十束(とつか)と訳あり美少女達とのボーイ(?)・ミーツ・ガール物語。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
岬ノ村の因習
めにははを
ホラー
某県某所。
山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。
村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。
それは終わらない惨劇の始まりとなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる