41 / 75
6-4 石の意志
しおりを挟む
「ああ、まあ。覚えはしたけど」
「じゃあ、さっそく呼びかけようぜ」
恥ずかしさから、俺はケイトの声に隠れるような小声で、その名前を口にした。
〝***さま、***さま、お目覚めください〟。
それを三回、繰り返す。
言い終わればあっけないものだった。
当然、特に何も起こらない。
それでも、ケイトは満足そうにグッと伸びをしていた。
「こんだけで願いが叶うんなら、安いもんだよな。まあ、気長に待ちますか」
「そんなに叶えたいことがあったのか」
「おー。勉強から解放されたいでーす、って願ったわ」
あまりにもくだらない願いに思わず吹き出した。
いかにも、ケイトが願いそうなことだったから。
「そんな願い、叶うのか?」
「んなもん、藁にもすがる思いだよ! こんなくだらねーことでもしねえと、やってられないんだよ!」
ワハハ、なんて笑いながら、公園の出口まで歩き出したケイトに俺も着いていく。
そうだな。
中学生になって一気に難しくなった勉強の息抜きくらいにはなったか。
なんだかんだで、ケイトの気まぐれを毎回楽しんでしまっていた。
だから、俺は小さい頃から変わらずこいつの隣にいるんだろうな。
「ほら、そろそろ帰るぞ。俺たち、まだ今日の宿題すらしてないんだから」
「う……」
「ケイト? どうした」
「何か、ふらふらする……」
「大丈夫か。何だよ、急に」
支えようとしたケイトの体がカチカチに固くなっている。
ぎょっとして、俺はつい手を引いてしまった。
何だ今の。
ケイトの皮膚が石のように冷たくなって——。
「お前、その体……どうし……ううっ……」
突然のめまいが、俺を襲う。
めまいだなんて、生まれて初めてだった。
景色がぐるぐると回っている。
ふいに触れた自分の顔が、石のように固くなっている。
気づくと、あの大きな石が手で触れられる位置にある。
「ど、どうして……石がこんなところに……」
俺たちはもう、公園の出口付近まで来ていたはずだった。
ふらふらの足でまた再び、ここまで歩いて来てしまったというのか——?
「何が、起きているんだ……」
俺とケイトは、どうなってしまうんだ――?
そこで……俺の思考は途絶えている。
【おわり】
「で、気づいたら、草笛町図書館のイチョウの木の下で、二人して倒れていたんだ。スマホを見て、日をまたいでいたことに気づいた。とんでもないことに巻き込まれたんだと思ったよ。だから、そのまま二時間待って、木から降ってきた保護者同意書を貰って来た。そして今、ここにいるってわけだ」
「記憶と一緒に、その原因のもんも買い取ってくれるんだろ。だから、〝あの石〟も一緒に買い取ってくれ!」
ケイトが言う〝あの石〟とは当然、例の公園の巨大な石のことだろう。
サクマは思わずルドンを見上げた。
「そんなデカい石、店に置けないですよ。軽自動車くらいあるんでしょ? もう、店は買い取り品でパンパンだって言うのに」
「サクマ。きみの言う通り、もう店はパンパンだ。しかし、そのでけえ石が本当に彼らの恐怖体験の原因だと言うなら、一緒に買い取らなきゃな。スプーキーリサイクルとしては。……まあ、それは〝通常買取〟の話だが」
「……どういうこと。ルドン」
「じゃあ、さっそく呼びかけようぜ」
恥ずかしさから、俺はケイトの声に隠れるような小声で、その名前を口にした。
〝***さま、***さま、お目覚めください〟。
それを三回、繰り返す。
言い終わればあっけないものだった。
当然、特に何も起こらない。
それでも、ケイトは満足そうにグッと伸びをしていた。
「こんだけで願いが叶うんなら、安いもんだよな。まあ、気長に待ちますか」
「そんなに叶えたいことがあったのか」
「おー。勉強から解放されたいでーす、って願ったわ」
あまりにもくだらない願いに思わず吹き出した。
いかにも、ケイトが願いそうなことだったから。
「そんな願い、叶うのか?」
「んなもん、藁にもすがる思いだよ! こんなくだらねーことでもしねえと、やってられないんだよ!」
ワハハ、なんて笑いながら、公園の出口まで歩き出したケイトに俺も着いていく。
そうだな。
中学生になって一気に難しくなった勉強の息抜きくらいにはなったか。
なんだかんだで、ケイトの気まぐれを毎回楽しんでしまっていた。
だから、俺は小さい頃から変わらずこいつの隣にいるんだろうな。
「ほら、そろそろ帰るぞ。俺たち、まだ今日の宿題すらしてないんだから」
「う……」
「ケイト? どうした」
「何か、ふらふらする……」
「大丈夫か。何だよ、急に」
支えようとしたケイトの体がカチカチに固くなっている。
ぎょっとして、俺はつい手を引いてしまった。
何だ今の。
ケイトの皮膚が石のように冷たくなって——。
「お前、その体……どうし……ううっ……」
突然のめまいが、俺を襲う。
めまいだなんて、生まれて初めてだった。
景色がぐるぐると回っている。
ふいに触れた自分の顔が、石のように固くなっている。
気づくと、あの大きな石が手で触れられる位置にある。
「ど、どうして……石がこんなところに……」
俺たちはもう、公園の出口付近まで来ていたはずだった。
ふらふらの足でまた再び、ここまで歩いて来てしまったというのか——?
「何が、起きているんだ……」
俺とケイトは、どうなってしまうんだ――?
そこで……俺の思考は途絶えている。
【おわり】
「で、気づいたら、草笛町図書館のイチョウの木の下で、二人して倒れていたんだ。スマホを見て、日をまたいでいたことに気づいた。とんでもないことに巻き込まれたんだと思ったよ。だから、そのまま二時間待って、木から降ってきた保護者同意書を貰って来た。そして今、ここにいるってわけだ」
「記憶と一緒に、その原因のもんも買い取ってくれるんだろ。だから、〝あの石〟も一緒に買い取ってくれ!」
ケイトが言う〝あの石〟とは当然、例の公園の巨大な石のことだろう。
サクマは思わずルドンを見上げた。
「そんなデカい石、店に置けないですよ。軽自動車くらいあるんでしょ? もう、店は買い取り品でパンパンだって言うのに」
「サクマ。きみの言う通り、もう店はパンパンだ。しかし、そのでけえ石が本当に彼らの恐怖体験の原因だと言うなら、一緒に買い取らなきゃな。スプーキーリサイクルとしては。……まあ、それは〝通常買取〟の話だが」
「……どういうこと。ルドン」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
真夜中の訪問者
星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。
※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。
FLY ME TO THE MOON
如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
おシタイしております
橘 金春
ホラー
20××年の8月7日、S県のK駅交番前に男性の生首が遺棄される事件が発生した。
その事件を皮切りに、凶悪犯を標的にした生首遺棄事件が連続して発生。
捜査線上に浮かんだ犯人像は、あまりにも非現実的な存在だった。
見つからない犯人、謎の怪奇現象に難航する捜査。
だが刑事の十束(とつか)の前に二人の少女が現れたことから、事態は一変する。
十束と少女達は模倣犯を捕らえるため、共に協力することになったが、少女達に残された時間には限りがあり――。
「もしも間に合わないときは、私を殺してくださいね」
十束と少女達は模倣犯を捕らえることができるのか。
そして、十束は少女との約束を守れるのか。
さえないアラフォー刑事 十束(とつか)と訳あり美少女達とのボーイ(?)・ミーツ・ガール物語。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
岬ノ村の因習
めにははを
ホラー
某県某所。
山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。
村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。
それは終わらない惨劇の始まりとなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる