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6-4 石の意志
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「ああ、まあ。覚えはしたけど」
「じゃあ、さっそく呼びかけようぜ」
恥ずかしさから、俺はケイトの声に隠れるような小声で、その名前を口にした。
〝***さま、***さま、お目覚めください〟。
それを三回、繰り返す。
言い終わればあっけないものだった。
当然、特に何も起こらない。
それでも、ケイトは満足そうにグッと伸びをしていた。
「こんだけで願いが叶うんなら、安いもんだよな。まあ、気長に待ちますか」
「そんなに叶えたいことがあったのか」
「おー。勉強から解放されたいでーす、って願ったわ」
あまりにもくだらない願いに思わず吹き出した。
いかにも、ケイトが願いそうなことだったから。
「そんな願い、叶うのか?」
「んなもん、藁にもすがる思いだよ! こんなくだらねーことでもしねえと、やってられないんだよ!」
ワハハ、なんて笑いながら、公園の出口まで歩き出したケイトに俺も着いていく。
そうだな。
中学生になって一気に難しくなった勉強の息抜きくらいにはなったか。
なんだかんだで、ケイトの気まぐれを毎回楽しんでしまっていた。
だから、俺は小さい頃から変わらずこいつの隣にいるんだろうな。
「ほら、そろそろ帰るぞ。俺たち、まだ今日の宿題すらしてないんだから」
「う……」
「ケイト? どうした」
「何か、ふらふらする……」
「大丈夫か。何だよ、急に」
支えようとしたケイトの体がカチカチに固くなっている。
ぎょっとして、俺はつい手を引いてしまった。
何だ今の。
ケイトの皮膚が石のように冷たくなって——。
「お前、その体……どうし……ううっ……」
突然のめまいが、俺を襲う。
めまいだなんて、生まれて初めてだった。
景色がぐるぐると回っている。
ふいに触れた自分の顔が、石のように固くなっている。
気づくと、あの大きな石が手で触れられる位置にある。
「ど、どうして……石がこんなところに……」
俺たちはもう、公園の出口付近まで来ていたはずだった。
ふらふらの足でまた再び、ここまで歩いて来てしまったというのか——?
「何が、起きているんだ……」
俺とケイトは、どうなってしまうんだ――?
そこで……俺の思考は途絶えている。
【おわり】
「で、気づいたら、草笛町図書館のイチョウの木の下で、二人して倒れていたんだ。スマホを見て、日をまたいでいたことに気づいた。とんでもないことに巻き込まれたんだと思ったよ。だから、そのまま二時間待って、木から降ってきた保護者同意書を貰って来た。そして今、ここにいるってわけだ」
「記憶と一緒に、その原因のもんも買い取ってくれるんだろ。だから、〝あの石〟も一緒に買い取ってくれ!」
ケイトが言う〝あの石〟とは当然、例の公園の巨大な石のことだろう。
サクマは思わずルドンを見上げた。
「そんなデカい石、店に置けないですよ。軽自動車くらいあるんでしょ? もう、店は買い取り品でパンパンだって言うのに」
「サクマ。きみの言う通り、もう店はパンパンだ。しかし、そのでけえ石が本当に彼らの恐怖体験の原因だと言うなら、一緒に買い取らなきゃな。スプーキーリサイクルとしては。……まあ、それは〝通常買取〟の話だが」
「……どういうこと。ルドン」
「じゃあ、さっそく呼びかけようぜ」
恥ずかしさから、俺はケイトの声に隠れるような小声で、その名前を口にした。
〝***さま、***さま、お目覚めください〟。
それを三回、繰り返す。
言い終わればあっけないものだった。
当然、特に何も起こらない。
それでも、ケイトは満足そうにグッと伸びをしていた。
「こんだけで願いが叶うんなら、安いもんだよな。まあ、気長に待ちますか」
「そんなに叶えたいことがあったのか」
「おー。勉強から解放されたいでーす、って願ったわ」
あまりにもくだらない願いに思わず吹き出した。
いかにも、ケイトが願いそうなことだったから。
「そんな願い、叶うのか?」
「んなもん、藁にもすがる思いだよ! こんなくだらねーことでもしねえと、やってられないんだよ!」
ワハハ、なんて笑いながら、公園の出口まで歩き出したケイトに俺も着いていく。
そうだな。
中学生になって一気に難しくなった勉強の息抜きくらいにはなったか。
なんだかんだで、ケイトの気まぐれを毎回楽しんでしまっていた。
だから、俺は小さい頃から変わらずこいつの隣にいるんだろうな。
「ほら、そろそろ帰るぞ。俺たち、まだ今日の宿題すらしてないんだから」
「う……」
「ケイト? どうした」
「何か、ふらふらする……」
「大丈夫か。何だよ、急に」
支えようとしたケイトの体がカチカチに固くなっている。
ぎょっとして、俺はつい手を引いてしまった。
何だ今の。
ケイトの皮膚が石のように冷たくなって——。
「お前、その体……どうし……ううっ……」
突然のめまいが、俺を襲う。
めまいだなんて、生まれて初めてだった。
景色がぐるぐると回っている。
ふいに触れた自分の顔が、石のように固くなっている。
気づくと、あの大きな石が手で触れられる位置にある。
「ど、どうして……石がこんなところに……」
俺たちはもう、公園の出口付近まで来ていたはずだった。
ふらふらの足でまた再び、ここまで歩いて来てしまったというのか——?
「何が、起きているんだ……」
俺とケイトは、どうなってしまうんだ――?
そこで……俺の思考は途絶えている。
【おわり】
「で、気づいたら、草笛町図書館のイチョウの木の下で、二人して倒れていたんだ。スマホを見て、日をまたいでいたことに気づいた。とんでもないことに巻き込まれたんだと思ったよ。だから、そのまま二時間待って、木から降ってきた保護者同意書を貰って来た。そして今、ここにいるってわけだ」
「記憶と一緒に、その原因のもんも買い取ってくれるんだろ。だから、〝あの石〟も一緒に買い取ってくれ!」
ケイトが言う〝あの石〟とは当然、例の公園の巨大な石のことだろう。
サクマは思わずルドンを見上げた。
「そんなデカい石、店に置けないですよ。軽自動車くらいあるんでしょ? もう、店は買い取り品でパンパンだって言うのに」
「サクマ。きみの言う通り、もう店はパンパンだ。しかし、そのでけえ石が本当に彼らの恐怖体験の原因だと言うなら、一緒に買い取らなきゃな。スプーキーリサイクルとしては。……まあ、それは〝通常買取〟の話だが」
「……どういうこと。ルドン」
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