上 下
40 / 75

6-3 石の意志

しおりを挟む
「なんでこんなところが話題になるんだ」
「この公園、ずっと昔から謎の大きな石が落ちてるだろ。公園の奥にあるトイレの横に」
 過去の記憶を辿っていく。
 そう言われれば、そんな石があったかもしれない。
 軽自動車くらいある、大きな石だった。
 こんなもの、どうやってここまで運んだんだろうとか。
 どういう理由でこんな石を置いたんだろう、とか。
 遊びながら、そんなことを考えていたのを覚えている。
「あの石にはな、名前があるらしいんだ」
 ケイトがスマホを見ながら言う。
「何て名前なんだ」
「***って、言うんだってさ」
「***って、どういう意味だ」
「うーん、そのへんは書いてないなあ。とにかく、石にこの名前を呼びかけるんだと。〝***さま、***さま、お目覚めください〟。これを三回くりかえす。すると、石が目覚めるらしい。次の日には、石の位置が変わってるんだと」
「石の位置が変わる?」
「そう。あの石は、この方法を試した人の数だけ、移動するんだよ」
 だから、あんなワケのわからない位置に石があるんだ、と言いたいらしい。
 ケイトが急に都市伝説っぽいことを言い始めたので俺は驚いた。
 今までは、もっとアウトドアで現実主義なヤツだったから。
 というか、さっきまで霊は信じないとか言ってなかったか。
 前までは、俺が雑誌情報の占いや風水のことをチラッと言っただけで「くだらね~! そんなこと信じんのかよ、タイシ!」なんて言って、背中をバンバン叩いてきていたクセに。
「だとしても石を動かして、なんの得があるんだよ」
「願いが叶うんだよ。石は自分では動かないだろ。だから、少しでも動けただけで嬉しいんだよ。それで、そのお礼に願いを叶えてくれるんだと。調べたサイトに書いてあったぜ。なっ! ちょーすげえだろ! ほら、今すぐ行ってみようぜ!」
 ケイトがくだらない都市伝説にハマると、こんなふうになるのか。
 飽き症にも困ったもんだ。
 まあ、ヒマつぶしにはちょうどいいのかもしれない。
 その時は、確かにそう思っていたんだ。

 数分で近所の公園に着く。
 小学生の頃はもう少し時間がかかっていた気もするが、中学生の歩幅にもなるとあっという間だった。
 そして今から俺は、あの頃の自分では思いもよらなかったことをしようとしている。
 何しろ石に話しかけようって言うんだもんな。
 はたから見たら、ちょっとホラーなんじゃないか。
 空を見上げると、ちょうど太陽が沈みかけていた。
 小学生だったら、そろそろ帰る時間だ。
 現に、公園にはもう誰も遊んでいる人間はいない。
 だが、俺たちはもう中学生だ。
 まだ少し時間に猶予があるだろう。
 トイレの横に、不自然なまでに巨大な石が転がっていた。
 転がっている、というとあまりにも軽いイメージだな。
 堂々と居座っている、とでも言うべきか。
「さーて。石の名前は覚えたか、タイシ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真夜中の訪問者

星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。 ※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。

FLY ME TO THE MOON

如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

おシタイしております

橘 金春
ホラー
20××年の8月7日、S県のK駅交番前に男性の生首が遺棄される事件が発生した。 その事件を皮切りに、凶悪犯を標的にした生首遺棄事件が連続して発生。 捜査線上に浮かんだ犯人像は、あまりにも非現実的な存在だった。 見つからない犯人、謎の怪奇現象に難航する捜査。 だが刑事の十束(とつか)の前に二人の少女が現れたことから、事態は一変する。 十束と少女達は模倣犯を捕らえるため、共に協力することになったが、少女達に残された時間には限りがあり――。 「もしも間に合わないときは、私を殺してくださいね」 十束と少女達は模倣犯を捕らえることができるのか。 そして、十束は少女との約束を守れるのか。 さえないアラフォー刑事 十束(とつか)と訳あり美少女達とのボーイ(?)・ミーツ・ガール物語。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

処理中です...