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6-2 石の意志

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 【恵那タイシ その石は動かない】

 ——それは、つい昨日のことだった。
俺の家で寝転びながらゲームをしていると、ケイトがこんなことを言い始めたんだ。
「なんか面白いこと、したいよなあ」
「面白いことってなんだよ」
「ユーチューバー的な? ブッ飛んだことがしたいよなー」
 確かに今プレイしているのは、もう何十回もやっているレースゲーム。
 俺もいい加減飽きていたところではあった。
 ケイトとは幼稚園からの付き合いだ。
 中学生になった今でもその関係は変わらない。
 何でもすぐに飽きてしまうケイトの悪癖も、そのころから変わっていない。
 まあ、俺のほうも慣れたもので。
 今の言動も、また始まったかていどに思いながら、のそのそと体を起こした。
「ブッ飛んだことって何。この辺にバンジージャンプが体験できるところなんてないぞ」
「バンジーなんてやるかよ! そうじゃなくってさ、ほら。最近流行ってるじゃん。事故物件とか、パワースポットとか!」
「いや、知らんけど……。お前のなかでは流行ってるんだな」
「そう、俺だけな。って、なに寂しいこと言わせてんだよ! お前も来るんだよ、タイシ!」
 どこにだよ、と言い終わる前にケイトはスマートフォンで何かを検索し始めた。
 どうせ、どこかの心霊スポットへの行き方を調べているんだろう。
 ああ、面倒なことになった!
 こいつは「やる」と言い出したら、最後までやりきらないと気が済まないのだ。
 だから、俺も「来るんだよ」と言われたら「行かない」とは言わない。
 言っても無駄なのは、もうわかっているからだ。
 以前、テレビに出た流行りのスイーツの店にケイトが「行きたい」と言い始めたときはさすがに参った。
 往復六時間はかかる距離だ。
 仕方なく電車を乗り継ぎ、交通費を安く収めたものの、次の日は疲労困憊だった。
 ケイトはピンピンしていたが。
 とにかくこいつは行動力がハンパじゃないのだ。
 しかし、今回は……心霊スポットとは。
「大丈夫なんだろうな」
「何が?」
「その、霊とか」
「霊って何言ってるんだよ。そんなのこの世にいるわけないだろ。ビビんなよ、小学生か」
「お前……霊を信じてるからホラー動画とか見てるんじゃないのか」
「信じてないから笑えるんだろ。そんなもんが本当にいるんだとしたら、怖くて見れないだろうが」
 なるほど、一理ある。
 俺自身も、夜道でふいに怖くなり「何もいないでくれ」と祈るときがある。
 夜、頭を洗っている時に見る風呂場の鏡なんかは、特にコワい。
 洗い流した後は、恐る恐る目を開くときもある。
 恐怖心って言うのは「いる」と思うから現れるんだ。
 はじめから、いないと思っていれば、恐怖なんてものは感じないのかもしれないな。
「今日行く場所は、ここだ!」
 そう言ってケイトが見せてきたスマホには、近所の公園の画像が表示されていた。
 懐かしい景色だ。
 もう行かなくなってから、だいぶ経つが。
「こんなところに何しに行くんだよ」
「やっぱり知らなかったか。ここが今、ネットで話題になってるの」
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