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5-7 変身

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「……いいでしょ。朝、気づいたら戻ってたの!」
「あー。買取値段を上げようと、話を盛ったな」
「えっ」
 笑いながら言うルドンに、サクマが驚く。
 するとユイカは「むう」と頬をふくらませた。
「やっぱりバレちゃう?」
「当たり前だろ。記憶を買うんだ。嘘はすぐにバレるぜ」
「ああ、そっかあ。本当は、足がないことに気づいて、すぐに枕元のスマホを手に取った。速攻で親に電話して、部屋に来てもらったときには、足は元に戻っていたの。仕方ないから、親には悪夢を見たって言ってごまかした。どうせ信じてもらえないし……でも、人形になりかけたのは本当。マジで怖かった。だから、ここへ来たの」
「ククク。鬼に対して、恐怖体験を盛って話して、値段をつり上げようとしたのはきみが初めてだ。面白い! 本来なら千五百だが……今回はその敬意を表して、オマケしてやるぜ。査定金額は、二千五百円だ」
「やった! オッケー! 交渉成立ね」
「だが、もう二度とすんじゃねえよ。嘘つきは地獄行きだぜ」
「はーい」
 ルドンがユイカの額に指を突き入れる。
 神通力で、恐怖体験の記憶だけを抜き取っていく。
 引き抜かれると、爪先に黒い虫が串刺しになっていた。
「こりゃあ、見るからに千五百円って感じだな」
「わ、悪かったわね……」
 おびえながらも、虚勢を張るユイカにサクマは苦笑してしまう。
 ユイカは【買取承諾書】にサインし、金額を受け取ると、さっさと帰っていった。
「そう言えば、ルドン。今回は、商品も一緒に買い取らなかったんだ。あきらかに、原因は人形だったけど」
 サクマが言うと、ルドンは「クク」とギザギザの歯を見せつけた。
「もうあの子の押し入れに人形はねえよ。親に捨てられちまってる」
「そんなこと、なんでわかるの?」
「これがその人形だから」
「え」
 ニッコリといい笑顔で突き出されたのは、さっきサクマが手入れしていたディディ人形とはまた違った人形だ。
 女の子たちがよく着せ替えをして遊ぶような、スラッとした頭身の人形。
「ま、まさかそれ! エニシくんのときの人形みたいに鬼火で……?」
「その通り。人形はヒトガタだからな。より人間たちに大切にされやすい。そのぶん、呪いも憑きやすいのさ」
「はあ……それにしても、こんなの誰が買……」
「おっと、サクマ」
 ルドンは飄々としながら、大きな手でサクマの口を押えた。
「呪われてえのか。その、スマホみたいに」
 サクマはブンブンと首を振る。
「じゃあ、いい子にしてな。闇オークションが終わるまではな」
(そうだ。闇オークションまで、あとひと月なんだ)
 それまでになんとか、このスプーキーリサイクルに闇を集めなければならない。
(トウヤを助けるために——!)
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