近くて便利！スプーキーリサイクル

5-4 変身

　今、見つめている自分の体から生えている手は、これまでの人生で付き合ってきたはずのそれとは全く違うものだった。
　つるつるとしたプラスチックで作られたような無機質な質感からは、みじんも体温は感じられなかった。
　恐る恐る触ってみると、わずかにまだ触感はある。
　これは、間違いなく、私の手だよ。
　なんなの。
　こんな恐ろしい見た目のものが、私のものだって言うの……？
　寝る前はこんなんじゃなかった。
「一体、なにが起こっているの」
　私は恐怖のあまり、ぎゅ、とまぶたを閉じる。
　夢なのだと、思いたかった。
　プラスチックのようなそっけない手をゆるゆると動かして、自分の頬に添えた。
　そして、思いっきりバシッと叩く。
　痛い。これは夢じゃない。
　現実、なんだ。
　じっくりと観察してみると、足があるはずの箇所にはぽっかりとした空洞があった。
　何かを差し込むためのもののように思える。
　例えば、足……だとか。
　似たような空洞を私は見たことがあった。
　子どものころに遊んだ、『オシャレ人形』。
　小さいころは、それで着せ替えをしたり、ままごとをしたりした。
　それでひとしきり遊び終わったころ、私は小学校にあがった。
　勉強や習い事がぐっと増え、友達との遊び方も変わった。
　ネットゲームや流行りのボードゲーム、動画サイト鑑賞などなど。
　オシャレ人形で遊ぶような幼い私は、もうそこにはいない。
　いつしか、あんなに遊んだオシャレ人形は、押し入れの奥に追いやられていた。
　さらに気づいたら、両足がどこかにいってなくなってしまっていた。
　あのあと、オシャレ人形はどうしたんだったっけ。
　今となってはもう、思い出せなかった。
　オシャレ人形の下半身の空洞。
　足が差し込まれていたはずの空洞がどうにも寂しそうに私の脳裏にチラつく。
　今、自分の下半身には足がない。
　それに肌質も、違う。
　プラスチックのような、そっけない触感。
　それではまるで人形のような肌触りだ。
　こんなの、もう人間じゃないでしょ！
「これってまさか……まさか……」
　私は悟った。
　自分の体に、起こっていることを。
　呼吸がだんだん、荒くなっていく。
　私、どうなっちゃうの。
　つるつるとした肌、しかしまだ触感はある。
　自分の声も聞こえているので、聴覚もあるみたい。
　視覚もある。
　口のなかに手を入れ、口内を確かめてみる。
　ウソ……舌がない！
　これではパンケーキも、カフェオレも、ビーフシチューも。
　もう、おいしさを感じられないってこと……？