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4-6 電車のあの子

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 なぜ、今まで思いつかなかったのでしょう。
 スマホで助けを呼べばいいのです。
 私はカバンの中からスマホを取り出し、通話アイコンをタップしました。
 しかし、いくら叩いてもスマホの画面は暗いまま。
 いつもなら、ちょんと触っただけでアイコンが並んだ画面に変わるのに。
「シシオさん……シシオさん……シシオさん……」
 ミオちゃんが、運転席の中をのぞきこんでいます。
 横たわった車掌さんをながめています。
「また、〝ミオちゃん〟って呼んでください。頭をなでてください。どうして、突然呼んでくれなくなったんですか。こっちを向いてくれなくなったんですか」
(それは、あなたがもうこの世にいないからだよ……)
「みんなはシシオさんと話しているのに、どうして私とは話してくれなくなったんですか。電車をおりた子どもが手をふれば、あなたはいつもふり返しています。でも、私がいくら話しかけても、あなたはこっちを向いてくれない」
(それは、あなたがもうこの世にいないからだよ……)
 私はいつまでも、その一言が言えずにいました。
 言うことが、できなかったのです。
「シシオさん。ずっとそばにいて。私の頭をずっとずっとなでていて。お願いですから、ずっとずっとずっと、一緒にいてください」
 車掌さんのけいれんが激しくなります。
 私は、スマホをタップし続けました。
 ミオちゃんの喉もとから〝ぐるぐる……ごろごろ……〟という音がします。
「ついて……ついてよ、画面! ああ、もう!」
 スマホは諦め、私は目の前の車掌室への扉を思いっきり引きました。
 すると、意外にも扉はあっさりと開いたのです。
「車掌さん!」
 ひざまずき、車掌さんに呼びかけます。
 しかし、それにミオちゃんの怒りが爆発してしまいます。
「シシオさんに……近づかないでッッッ!」
 ミオちゃんの鋭い爪が飛んできます。
 もうダメだ、と思ったその時でした。
「……み、みお……?」
 車掌さんの声が、車内に響き渡ります。
 とたん、ミオちゃんの動きが止まりました。
「みゃーお」
 猫の声がどこからともなく聞こえます。
 気付くと、電車は無人駅に止まっていました。

【おわり】



「これが……私が体験したことです。お願いです、いくらでも構いません。買い取ってください。そして電車に乗るために使った、定期券。これも一緒に……お願いします」
「い、いいんですか? 定期券って、高いんですよね」
「それよりも、怖かった体験を思い出す方が嫌なんで……」
 可愛い猫の定期入れに入ったものをそのままサクマに差し出す、アヨ。
 サクマがそれを見て、なんとも言えない顔をする。
「あの、車掌さんって……どうなったんですか」
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