26 / 75
4-3 電車のあの子
しおりを挟む
返事をするべきなのでしょうか。
いや、そもそも返事をしていいのでしょうか。
こういうのに返事をしたら、あの世に連れていかれると、小さいころに見たアニメでやっていた気がしたのです。
返事をするべきか悩んでいると、向かいの席のものは一人で勝手にしゃべりだしました。
「ここの席、いいですよね。落ち着きます」
ややアルトの、明るい口調で話すのは彼なのか、彼女なのかいまだに判別がつきません。
そんな私にお構いなしに、向かいの席のものは、ぺちゃくちゃとしゃべりかけてきます。
「ここの席に座ると、必ず見かける人がいるんです。〝シシオさん〟って言って、とってもカッコいい人なんです。私、その人のことが……好きなんですっ。私のことを〝ミオちゃん〟って呼んで、優しくしてくれるんです」
どうやら、向かいの席のものは女性のようでした。
ミオちゃんというようです。
そして、いつの間にか恋バナのようなものを聞かせられています。
まあ、怖い思いをさせられるよりかは全然マシです。
もうすぐ次の停車駅に着くだろうし、それまでの辛抱でした。
(いや、ちょっと待て)
私はその時、ようやく周囲の違和感に気がつきました。
いつもだったらすでに渡り終えているはずの鉄橋をこの電車はいまだに走り続けているのです。
窓を滑っていく夜の景色は、何度も何度も同じものを映しています。
終わることのない、鉄橋。
変わることのない、風景。
その違和感は、向かいに座るミオちゃんの違和感とむすびつきます。
——普通じゃないことが起きている。自分のそばで。
ぞわり……背後に、冷たいものが走りました。
振り返ると、向かいの席にいたミオちゃんは、いつの間にか私の隣に座っていました。
「シシオさん。電車のなかで私を見つけると、ニコッと笑ってくれてそばに寄ってきてくれるんです。これって私のこと、好きってことですよね」
「え……」
「私、ずっとひとりで生きてきたんです。それが、私がこの席に座ったら、あの人が話しかけてきてくれた。生まれて初めて、私に話しかけてくれた人があの人だったんです。だからあの日から、私は毎日毎日この席に座って、あの人が話しかけてくれるのを待っているんです」
言葉を返さずにいると、ミオちゃんがじりじりとこちらへ、距離を縮めてくる。
一ミリ、二ミリ、三ミリ。
それは確実に、私の方へと寄ってきていました。
(あの世へ、連れて行かれるっ? 逃げなきゃ……ここから)
しかし、電車は変わらず鉄橋を走り続けていました。
(でも、どうやって逃げればいいの……? この車両には、私一人しか乗ってない。他の車両にも誰も乗ってないみたいだから、誰かに助けを求めることなんてできないし——いや、待てよ)
私は、チラリと電車の進行方向に視線を向けた。
(そうだ! この電車に乗っているのは私だけじゃない——車掌さんがいるじゃん! 車掌さんだったら、この電車がずっと鉄橋を走り続けていることに、違和感を感じているはず。……先頭車両に行ってみよう。車掌さんに助けてもらおう!)
「ねえ」
ふいに、ミオちゃんの声のトーンが低くなりました。
「あなた、シシオさんのこと、知ってますよね」
いや、そもそも返事をしていいのでしょうか。
こういうのに返事をしたら、あの世に連れていかれると、小さいころに見たアニメでやっていた気がしたのです。
返事をするべきか悩んでいると、向かいの席のものは一人で勝手にしゃべりだしました。
「ここの席、いいですよね。落ち着きます」
ややアルトの、明るい口調で話すのは彼なのか、彼女なのかいまだに判別がつきません。
そんな私にお構いなしに、向かいの席のものは、ぺちゃくちゃとしゃべりかけてきます。
「ここの席に座ると、必ず見かける人がいるんです。〝シシオさん〟って言って、とってもカッコいい人なんです。私、その人のことが……好きなんですっ。私のことを〝ミオちゃん〟って呼んで、優しくしてくれるんです」
どうやら、向かいの席のものは女性のようでした。
ミオちゃんというようです。
そして、いつの間にか恋バナのようなものを聞かせられています。
まあ、怖い思いをさせられるよりかは全然マシです。
もうすぐ次の停車駅に着くだろうし、それまでの辛抱でした。
(いや、ちょっと待て)
私はその時、ようやく周囲の違和感に気がつきました。
いつもだったらすでに渡り終えているはずの鉄橋をこの電車はいまだに走り続けているのです。
窓を滑っていく夜の景色は、何度も何度も同じものを映しています。
終わることのない、鉄橋。
変わることのない、風景。
その違和感は、向かいに座るミオちゃんの違和感とむすびつきます。
——普通じゃないことが起きている。自分のそばで。
ぞわり……背後に、冷たいものが走りました。
振り返ると、向かいの席にいたミオちゃんは、いつの間にか私の隣に座っていました。
「シシオさん。電車のなかで私を見つけると、ニコッと笑ってくれてそばに寄ってきてくれるんです。これって私のこと、好きってことですよね」
「え……」
「私、ずっとひとりで生きてきたんです。それが、私がこの席に座ったら、あの人が話しかけてきてくれた。生まれて初めて、私に話しかけてくれた人があの人だったんです。だからあの日から、私は毎日毎日この席に座って、あの人が話しかけてくれるのを待っているんです」
言葉を返さずにいると、ミオちゃんがじりじりとこちらへ、距離を縮めてくる。
一ミリ、二ミリ、三ミリ。
それは確実に、私の方へと寄ってきていました。
(あの世へ、連れて行かれるっ? 逃げなきゃ……ここから)
しかし、電車は変わらず鉄橋を走り続けていました。
(でも、どうやって逃げればいいの……? この車両には、私一人しか乗ってない。他の車両にも誰も乗ってないみたいだから、誰かに助けを求めることなんてできないし——いや、待てよ)
私は、チラリと電車の進行方向に視線を向けた。
(そうだ! この電車に乗っているのは私だけじゃない——車掌さんがいるじゃん! 車掌さんだったら、この電車がずっと鉄橋を走り続けていることに、違和感を感じているはず。……先頭車両に行ってみよう。車掌さんに助けてもらおう!)
「ねえ」
ふいに、ミオちゃんの声のトーンが低くなりました。
「あなた、シシオさんのこと、知ってますよね」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
幸せの島
土偶の友
ホラー
夏休み、母に連れられて訪れたのは母の故郷であるとある島。
初めて会ったといってもいい祖父母や現代とは思えないような遊びをする子供たち。
そんな中に今年10歳になる大地は入っていく。
彼はそこでどんな結末を迎えるのか。
完結しましたが、不明な点があれば感想などで聞いてください。
エブリスタ様、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
コ・ワ・レ・ル
本多 真弥子
ホラー
平穏な日常。
ある日の放課後、『時友晃』は幼馴染の『琴村香織』と談笑していた。
その時、屋上から人が落ちて来て…。
それは平和な日常が壊れる序章だった。
全7話
表紙イラスト irise様 PIXIV:https://www.pixiv.net/users/22685757
Twitter:https://twitter.com/irise310
挿絵イラスト チガサキ ユウ様 X(Twitter) https://twitter.com/cgsk_3
pixiv: https://www.pixiv.net/users/17981561
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる