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3-12 よくない人形

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「ルドン、どうしてそれを?」
「いわくつきがそう簡単に、人間に処理できるかよ。そのへんでほっつき歩いてたのを鬼火を飛ばして、とっ捕まえてきた」
 そんなこと出来るんだ……とサクマは顔を引きつらせる。
 リンはすっかり怯えて、うずくまってしまっている。
「竜胆さん、大丈夫?」
「うう、その人形も買い取ってくれるの? そうしたら、エニシの夢に人形は出なくなるの?」
「もちろん。その代わり、弟さんにはまた言い訳をしなければならないと思う。人形はもう、家には帰ってこないって」
「言う。ちゃんと言う。エニシに悪いことをしたって思ってる。私は、ヒーローなんかじゃない。怖いものから逃げた、ただの臆病者なんだ……」
「それは、違うよ」
 きっぱりと言うサクマに、リンは膝から顔を上げた。
「竜胆さんは、すごい。怖い思いを押し殺して、家族を守ろうとした。それは、疑いようのない事実だよ」
「……そう、なのかな」
「そうだよ。家族を思う気持ちが嘘だなんて、そんなのあり得ないもん。ましてや、大好きな弟さんのためなら、なおさらでしょ。僕も、助けたい人がいるんだ……」
「あなたも?」
「うん。だから、竜胆さんのことよけいにすごいなって思うんだ。尊敬するよ」
 リンは、泣きそうになりながら、こくりとうなずいた。
 ルドンが査定表をテーブルに置き、人差し指でトン、とつつく。
「それじゃあ、交渉成立……でいいか?」
「はい。買取り、お願いします」
 するとルドンは、リンの額にズボッと、指をブッさした。
「うおおおお、ちょ、ルドン! 何してんの!」
「神通力で恐怖を具現化してんだよ。黙って見てな」
 反対の指で、パチンとおでこを弾かれる、サクマ。
「神通力っていうのはな。簡単に言えば不思議パワーってやつだ」
「そのままだな…」
「すげえわかりやすく言うと、だよ。それで、恐怖体験の記憶だけを抜き取るんだ」
 すぐに引き抜かれた鬼の指先。
 その尖った爪には、黒い虫のようなものが串刺しになっていた。
「それが……恐怖を具現化したものなの?」
「その通り。おお~こりゃあ、見るからに二千円って感じの大きさの虫だ」
 おびえたようすでいるリンには目もくれず、ルドンは黒い虫を試験官のなかに入れ、コルクで栓をした。
 リンに【買取承諾書】にサインしてもらい、査定金額を渡す。
 お辞儀をして帰ろうとしたリンが、ふと立ち止まった。
「あの……怖い思いをしたことはもう思い出せない。でも、その人形は……弟が確かに、心を込めて作ったものだから……だから、大切にしてやって」
「ああ、もちろんだ」
 ルドンが応えると、リンはホッとしたように息をついて、今度こそ帰って行った。
「よっぽど弟が大事だったんだね。最後まで、あんなふうに言えるなんて、やっぱり竜胆さんは強いよ。すごいや」
「……そうだな」
 そういうルドンの目は、どこか遠くを見つめているようだった。
 ルドンがカウンター内の棚に、人形を丁寧に置き、さっとホコリをはらう。
 すると、表情のない人形が少しだけ悲しそうにまゆを下げた。
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