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3-10 よくない人形

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 とたんに背中にぞわりとするものを感じます。
 ですが、なりふりかまっていられません。
 勢いをつけて、押し入れを開けました。
 手前に置かれた、見覚えのある段ボール箱。
 震えが静まらない手で、ふたを開けようとするがなかなかうまいこといきません。
「ハアッ……ハアッ……」
 おぼつかない手で、ようやく段ボール箱が開きました。
「うっ……」
 手が滑り、畳の上に段ボール箱が転がります。
 その拍子に〝人形〟が飛び出しました。
 息が、つまりました。
 畳の上に落ちた人形。
 プラスチックの偽物の目が、こちらを凝視しているのです。
「あああ……いや……もう、いや……」
 言うことを聞かない自分の手をなんとかポケットの中に突っ込み、ハンカチの切れ端を取り出しました。
 それを人形の目元に投げつけます。
 わずかにずれてしまうので、ガムテープで固定し、ずれないようにします。
 入っている塩をこぼさないように、袋を半分だけ裏返しにすると、袋越しに人形に触れ、そのまま中に放り込みました。
 袋の口をギュッと縛り。
 色付きの袋に放り込み、いらない紙袋に入れると、ガムテープでぐるぐる巻きにします。
「明日は……ちょうど燃えるゴミの日……。よかった……」
 家の裏口に出されている燃えるゴミの袋を開け、人形の入った袋をなかに突っ込むと。
 そこにまた塩をふり、口をぎゅっと強く縛ってやります。
(これでいいんだよね。ああ……やっと解決! エニシにもっと怖い思いをさせる前に、捨てることができてよかった!)



 また、翌朝。
 エニシは、一人でトイレに行きました。
「もう、怖くないの?」
「うん。今日は大丈夫」
 私はホッと胸をなで下ろしました。
 なんて清々しいのでしょう。
 裏口を見ると、すでにゴミ袋はなくなっていました。
「お母さん、ゴミ……」
「もう出しちゃったよ。アンタの部屋、ゴミあったの?」
「ううん、何でもない。ゴミ、捨ててくれてありがとう」
「なあに? 急に。お礼なんて。あはは、アンタも大人になったんだね」
「えへへ、なったかも」
 その時の私は、まるで家族を守ったヒーローのような気分でした。
 ——なんて愚かだったのでしょう。
 私は、自分の恐怖から逃げることしか考えていなかったのです。
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