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3-7 よくない人形

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 家に帰ると、すでにお母さんとエニシがリビングのソファでくつろいでいました。
「リン。おかえり」
「おかえりなさーい、リンちゃん!」
「ただいま」
 リビングに入るとすぐ右側にキャビネットがあります。
 その上にはエニシのオモチャが入ったカゴや、お母さんの趣味の雑貨用品が並びます。 
 〝人形〟も、ありました。
 異様な存在感を放つそれの気配が、私の肌にまとわりつきます。
 人形の目には、ぬいぐるみ用の目のパーツが張り付けられていました。
 ぎょろぎょろとした、偽物の目。
(見てる……私を……)
 人形の視線、人形の気配。
 人形の存在感をこんなにも感じるのに、お母さんとエニシはまったく気にしていません。
 もう限界でした。
「リン。大丈夫? 目の下にクマがあるよ。徹夜でテスト勉強は体に悪いっていつも言ってるでしょ。もっと事前に……」
「違うって。今、テスト週間じゃないし。ちょっと、うっかり他ごとで徹夜しちゃって……それよりもさ、お願いがあるんだけど。お母さんと、エニシに」
 軽い雰囲気を装って、いよいよ私は話を切り出しました。
「あのさ。保育園の年長のころのエニシの……ひまわりの絵。持って帰って来たのがすでに秋で、季節外れだからなあって飾らずに、そのまま奥の部屋の押し入れに入れっぱなしでしょ。ほら今、夏だし。ちょうどいいなって。だから、この人形をしまってさ! そろそろ、その絵を飾りたいなって。……ど、どうかな」
 笑顔は引きつっていないだろうか、と心配でした。
 ですが、お母さんは「確かにそうねっ」と笑顔をこぼしたのです。
「あの絵、よかったよね。さすがリン、よく思い出したっ。さっそく、飾ろうよ。いいよね、エニシ」
「ええー。うーん。はずかしいけど、いいよ」
 思い立ったらすぐ行動のお母さんは、テキパキと押し入れから額縁とひまわりの絵を引っ張り出してきました。
 人形をどけると、さっそくいい感じにキャビネットの上をレイアウトしなおし、ひまわりの絵を飾ります。
「うん、いい感じになった!」
 満足したお母さんは、通販で買った日用品が入っていた段ボール箱がちょうどいいと、そこに人形を入れると、奥の部屋の押し入れにしまったのです。
 私はその一連のようすを息が止まりそうになりながら見ていました。
 そして、人形の姿が見えなくなると、やっと呼吸ができるようになった気がしました。
 ここ最近、まるで溺れているかのような息苦しさをずっと感じていたのです。
(やった。ついに、人形がリビングからいなくなった!)
 久しぶりの、人形がいないリビングでの夕飯。
 お母さんのご飯が、いつもの何倍もおいしく感じました。



 しかし——。
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