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3-4 よくない人形
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(いやいや、ビビりすぎ。子どもの成長記録に手形を押すことなんて、あるあるじゃん。色が赤いせいで少しビックリしたけど。小さい子たちが一生懸命作ったものなのに、申し訳ないよ。落ち着け、私)
私は何度も深呼吸をして、気を取り直しました。
「昨日、SNSでホラーっぽい投稿を見たせいかもなあ」
こんな気持ちではエニシに悪いので、まずはひとりで展示を見て回ろうと思い、私は作品展をやっている大部屋に向いました。
まだお迎え時間には少し早かったからか、他のお母さんたちはいませんでした。
ローファーを脱ぎ、用意してあったスリッパにはきかえます。
暗幕が引かれた壁にはたくさんの絵がかざってあり、床の台座には紙粘土で作られたさまざまな乗り物やお店がならんでいました。
エニシが生まれたのは、私が十歳のころです。
あれから、もう六年が経ったのだ、と何だか感動してしまいます。
年少のころのエニシは、牛乳パックで巨大なワニを作っていました。
年中のときは、海に行った時の思い出を大きな絵な画用紙に描いていました。
わかってます。相当なブラコンですよね。
だから、あんなことになったのかもしれません……。
――話に戻りましょう。
大部屋の奥に、パーテーションで仕切られた空間がありました。
『年長作品 いちねんせいになったら』という張り紙がしてあるのが、目に入ります。
「年長だけ仕切られてる。ずいぶん、スペースを取ってもらってるんだな。いよいよ卒園だもん。気合が違うねえ」
私は入り口とおぼしき、二枚のパーテーションの間から中に入ります。
「は……?」
思わず、声を上げました。
そこには、小学校の勉強机に座った何体もの人形の背中がずらりと並んでいたのです。
エニシと比べて、半分ほどの背丈。
黒い毛糸の髪の毛、紙粘土の顔。
そして服も、きっちりと着せられています。
「な、何これ……」
ふと、見慣れた服が目に入りました。
それは、いつもエニシが休日の時に着ているものでした。
お母さんが、以前言っていたことを思い出します。
――保育園から〝作品展で使うから、よぶんな服を持たせて下さい〟だって。何に使うのかなあ。
「一年生になった自分の姿を作ったってこと? り、力作……だなあ」
つい、気持ち悪いと言いかけ、なんとかガマンしました。
弟の力作をカシャ、とスマホで撮影します。
そして逃げるようにその場を去り、弟を迎えに行きました。
帰り道。自転車を引きながら作品展での頑張りを褒めると、エニシは嬉しそうに笑ってくれました。
「ペットボトルのまわりに紙粘土をくっつけていってね、からだを作ったの。毛糸の髪の毛、ぼくのにそっくりだったでしょ」
えっへんと胸を張る弟が可愛くて、私は「うんうん」とうなずきながら、顔をほころばせました。
弟の作品にマイナスの感想を抱いてしまったことを申し訳なく思いながら。
数日後。
作品展が終わると、エニシの作った他の作品たちといっしょに、その人形も家に持ち帰られました。
お母さんの車に乗せられ、我が家にやってきた人形。
「わあ。リンに写真を見せてもらったときも思ったけれど、やっぱりこの人形いいね。エニシの力作だっ」
「やったあ」
「これは、リビングの見やすいところに飾っておこうね」
こうして人形は、テレビを見ている時も、ご飯を食べている時も私たちと同じ部屋で、同じ時間を過ごすこととなったのです。
みんなが嬉しそうにエニシの力作を褒めるなか、私だけが心中穏やかではありませんでした。
四六時中、あの人形が視界に入る。
一回、なんとなく気味が悪い人形という感想を持ってしまったので、どうにも気になります。
でも、あれはエニシが作ったものです。
こんなことを思う自分が、おかしいとその時は思っていました。
私は何度も深呼吸をして、気を取り直しました。
「昨日、SNSでホラーっぽい投稿を見たせいかもなあ」
こんな気持ちではエニシに悪いので、まずはひとりで展示を見て回ろうと思い、私は作品展をやっている大部屋に向いました。
まだお迎え時間には少し早かったからか、他のお母さんたちはいませんでした。
ローファーを脱ぎ、用意してあったスリッパにはきかえます。
暗幕が引かれた壁にはたくさんの絵がかざってあり、床の台座には紙粘土で作られたさまざまな乗り物やお店がならんでいました。
エニシが生まれたのは、私が十歳のころです。
あれから、もう六年が経ったのだ、と何だか感動してしまいます。
年少のころのエニシは、牛乳パックで巨大なワニを作っていました。
年中のときは、海に行った時の思い出を大きな絵な画用紙に描いていました。
わかってます。相当なブラコンですよね。
だから、あんなことになったのかもしれません……。
――話に戻りましょう。
大部屋の奥に、パーテーションで仕切られた空間がありました。
『年長作品 いちねんせいになったら』という張り紙がしてあるのが、目に入ります。
「年長だけ仕切られてる。ずいぶん、スペースを取ってもらってるんだな。いよいよ卒園だもん。気合が違うねえ」
私は入り口とおぼしき、二枚のパーテーションの間から中に入ります。
「は……?」
思わず、声を上げました。
そこには、小学校の勉強机に座った何体もの人形の背中がずらりと並んでいたのです。
エニシと比べて、半分ほどの背丈。
黒い毛糸の髪の毛、紙粘土の顔。
そして服も、きっちりと着せられています。
「な、何これ……」
ふと、見慣れた服が目に入りました。
それは、いつもエニシが休日の時に着ているものでした。
お母さんが、以前言っていたことを思い出します。
――保育園から〝作品展で使うから、よぶんな服を持たせて下さい〟だって。何に使うのかなあ。
「一年生になった自分の姿を作ったってこと? り、力作……だなあ」
つい、気持ち悪いと言いかけ、なんとかガマンしました。
弟の力作をカシャ、とスマホで撮影します。
そして逃げるようにその場を去り、弟を迎えに行きました。
帰り道。自転車を引きながら作品展での頑張りを褒めると、エニシは嬉しそうに笑ってくれました。
「ペットボトルのまわりに紙粘土をくっつけていってね、からだを作ったの。毛糸の髪の毛、ぼくのにそっくりだったでしょ」
えっへんと胸を張る弟が可愛くて、私は「うんうん」とうなずきながら、顔をほころばせました。
弟の作品にマイナスの感想を抱いてしまったことを申し訳なく思いながら。
数日後。
作品展が終わると、エニシの作った他の作品たちといっしょに、その人形も家に持ち帰られました。
お母さんの車に乗せられ、我が家にやってきた人形。
「わあ。リンに写真を見せてもらったときも思ったけれど、やっぱりこの人形いいね。エニシの力作だっ」
「やったあ」
「これは、リビングの見やすいところに飾っておこうね」
こうして人形は、テレビを見ている時も、ご飯を食べている時も私たちと同じ部屋で、同じ時間を過ごすこととなったのです。
みんなが嬉しそうにエニシの力作を褒めるなか、私だけが心中穏やかではありませんでした。
四六時中、あの人形が視界に入る。
一回、なんとなく気味が悪い人形という感想を持ってしまったので、どうにも気になります。
でも、あれはエニシが作ったものです。
こんなことを思う自分が、おかしいとその時は思っていました。
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