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3-3 よくない人形

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【竜胆リン よくない人形】

 エニシは、年が離れた私の弟です。
 私が、十六歳。
 エニシは、六歳になります。
 しかしその分、ほとんどケンカはしません。
 私にとって、エニシは小さな可愛い弟です。
 エニシのためならできることはなんだってやってやりたいと、思っています。
 エニシが描いてくれた似顔絵を額に入れて、きちんと部屋に飾っているし、もらった手紙は引き出しにそろえていれ、たまに読み返して……。
 あはは。まあ、ようするに、ブラコンってやつですね。



 それはある日のことでした。
エニシの保育園生活での、最後の作品展があったんです。
 ですが、うちの両親は共働きで。
 母親はパートですけど、今回はどうしても休みが取れなかったみたいで。
「悪いけれど今度のエニシの作品展、リンが見に行ってやってくれないかな」
 悔しそうにそう言うお母さんに、私は「もちろん」と返しました。
 今までの作品展は、私とお母さんの二人で行っていました。
 エニシの作ったものをスマホに収めて、お父さんに見せてあげる。
 それが定番でした。
 ですが、最後の作品展は私ひとり。
 とても残念だけれど、仕方がない、と諦めました。
 エニシの渾身の作品たちを見事な〝映え写真〟にして父と母に見せよう。
「エニシのためにも!」
 保育園最後のエニシの晴れ舞台を任されたとあって、私は特別、はりきっていました。



 そして、いよいよ、作品展の日がやって来ました。
 学校帰りに、エニシのお迎えに向かいます。
 制服のまま自転車で保育園前に着くと、入口の門に先生たちの手作り看板がかけられていました。
『××保育園 作品展』
 看板は紙で作られたドングリや木の葉できれいに飾られています。
 可愛いなあ、なんて思いながらスマホで写真を一枚ポコンと撮りました。
 しかし改めて看板をじっくりと見て、ぎょっとしてしまいました。
 〝作品展〟と書かれた看板の空白部分に赤い小さな手形が、ところせましと押されていたのです。
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