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2-6 夜道のポッドキャスト

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『今、どこですか』
「まただ……なんで……!」
 サクマとトウヤの背筋に、ゾゾッとしたものが走る。
 ルドンの言っていたことは本当だったようだ。
「待て、違うぞ。こいつ」
「な、何が違うの?」
 ルドンの焦ったようすに、サクマも不安を抱く。
「浮遊霊じゃない。浮遊霊の〝フリ〟をしてやがった!」
「え?」
「きみたち、今すぐそこから逃げろ!」
 サクマはわけもわからず、一気に駆け出す。
 しかし、トウヤはその場を動かない。
「何をしてるんだ、スマホを捨てろ! あとは俺が何とかするから」
「そんなことしたら壊れちゃうだろ!」
「バカ! ごちゃごちゃ言ってないで早くしろ!」
 ルドンが、トウヤに向かって手を伸ばす。
 だが、トウヤの手を取ることはできなかった。
 トウヤが、今いた場所から消えてしまったからだ。
「しまった——〝隠された〟! さっきの話のポッドキャストは、トウヤを品さだめするためだったのか」
「ど、どういうこと? トウヤはどこへ行っちゃったの……?」
 サクマは戸惑いながら、トウヤが落としたスマホを見下ろしていた。
 スマホは、落ちた拍子でまだカタカタと揺れている。
 たった今まで、トウヤがそこにいた証拠だ。
「トウヤは、どうなったの……?」
 持ち主がいなくなったスマホを、ルドンが拾い上げる。
 その姿はもう、初めに会ったときの姿に戻っていた。
「トウヤは〝神隠し〟されてしまった。このスマホを介して、闇のなかに」
 神隠し。
 サクマはその言葉を有名なアニメ映画のタイトルで聞いたことがあった。
 昔は子どもが行方不明になると、鬼や天狗に連れ去られたと信じられていた。
 それを「神隠し」と呼び、恐れていたという。
「トウヤは……誰に神隠しされたんですか?」
「バッコだ」
「誰ですか、それ」
「俺と同じ、商売をやっている鬼だよ。やつは『闇オークション』のバイヤーなんだ」
「闇オークションって?」
「地獄の鬼たちが閻魔大王に内緒で開催している、イベントだ。毎年、その年で一番深い闇を選び、そこを会場にして開催されるんだ」
 ルドンはカウンターにもたれ、腕を組んだ。
「人間の魂を集め、商売しているのがバイヤー。それがバッコ。今年はバッコが主催なんだろう。気合が違うからな」
「それって、まさか……トウヤの魂、売られちゃうってことですか?」
「鬼は恐怖をより素直に感じ取る魂を好む。高い値段がつくからな」
「そんな……闇オークションで魂が売られるのを黙って見てろって言うんですか」
「バッコを追おうにも、やつは隠れるのがうまい。見つけ出している間に、闇オークションが開かれちまうだろうな」
 残念そうに言う、ルドン。
 しかし、サクマの気持ちは初めから決まっていた。
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