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2-3 夜道のポッドキャスト

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 それから、随分と歩いた。
 このへんはドがつく田舎なので、街灯が少ないんだ。
 田んぼばかりだから、人通りも少ない。
 だから、明かりから少し外れれば、そこは一瞬で濃い暗闇になってしまう。
 真っ暗な空間をつい怖いもの見たさでジッと見つめると、背筋にゾゾゾッとしたものが走った。
「早く、早くシュークリームを買わないと」
 ポッドキャストの音量をぐんと上げて、俺はその場を早足に去った。
 やっと、突き当たりの大通りまで出た。
 ここまで来れば後は、ひたすら道沿いに行けばいい。
 すでに、最寄りのコンビニの明かりは見えている。
 あとはここから十五分。目的のコンビニを目指すだけなんだ。
 大通りまで出ると、夜の不気味さは格段に減る。
 街燈の多さや、店の灯り、信号や車のライト。
 光のにぎやかさに、ようやく気分が前向きになった。
「早く、シュークリームを買って食べよう」
 ポッドキャストを聞きながら、俺は道を急いだ。
『ジリジリ……ジリ……』
 ふいに、ワイヤレスイヤホンに雑音が入った。
 ブルートゥースという無線の電波を飛ばして繋いでいるだけなので、こういう雑音はよくあることなんだと、前に父さんが言っていたことを思い出す。
 なので、少しイヤホンをトントンとしたくらいで、大して気に留めることはなかった。
『ジリ……ジリ……、ザザ、ザ……』
 それにしても、今日はやけに雑音が多いな、と思う。
 この辺は、電波が悪いんだろう。
 せっかくのシュークリームを買いに行っている途中なのに、気分が台無しだ。
 まあ、仕方ない。
 こういうことは、よくあることなんだしと、その時は油断していたんだ。
『ジジ、ジ……い……に……ますか……』
「ん……?」
『今、どこですか』
 急に、抑揚のない声が耳の奥を通り抜けた。
 さっきまで聞いていた芸人の声じゃない。
 どちらかと言えば、女性の声だった。
 今日は番組にゲストでも来ていたのだろうか。
 いや、そんなはずはない。
 聞こうと思って選んだのは、いつもどおりの通常回。
 特別ゲストなんてものは来なかったはず。
 じゃあ、今のは……通信障害か何か……なのかな、と気を落ちつけようとした。
『あと、十五分ですか』
「え」
『あと、十五分ですか』
「な、なんだ……誰?」
 これは、自分に問いかけてられているのだろうか、と戸惑った。
 たしかに、青い看板のコンビニにはそれくらいの時間で着く。
 ポッドキャストはスマホで聞いている。
 いつのまにか、コンビニに電話していたのか?
 まさか、『シュークリームを買いに行きます。あと、十五分程度で着きます』と知らず知らずのうちに店員に伝えていたのか?
 そんなバカなこと、あるわけないだろ?
 じゃあ、これは一体どういう状況なんだと思ったよ。
 かなり動揺しながらも、歩く足は止めずいると……。
『あと、十三分ですか』
 イヤホンから聞こえる問いかけは、続いていた。
(誰なんだよ。こんないたずらすんの)
 じわじわと、恐怖が体の奥底から、せりあがってくる。
 あまりのことに何も答えられずにいると。
『ジジ……ジリジリ……』
 音が、だんだんと大きくなってきた。
『今、どこですか』
 心臓がバクバクと痛いくらいに脈打つ。
 恐怖と緊張で、汗で手がぐっしょりと濡れていた。
 ズボンで拭いても拭いても、どろどろと汗がにじみ出る。
 聞いたことのない女性の声が、何度も耳の奥をくり返し流れていた。
 パレットに固まった絵の具のように、こびりついて離れなかった。
「そ、そうだ……!」
 俺は、急いでポッドキャストの停止アイコンをタップした。
 そして、画面を上にスワイプして、アプリを閉じた。
 これで、声は聞こえなくなる!
 もっと早くに気づけばよかった!
 はあっ、と緊張でため込んでいた息を吐きだした。
『今、どこですか』
「え……」
『公民館の交差点前ですか』
「な、なんで……まだ聞こえる……?」
 しかも、声の主は俺の居場所まで知っているようだった。
 あまりの気味の悪さに、俺はとっさにイヤホンをつかみ、投げ捨てようとした。
 だめだ、イヤホンが外せない。
 耳の穴にすっぽりと収まってしまっている。
かいても、かいても、取り出せない。
 こんなこと今までなかったのに。
「どうして……どうして……」
『あと、五分くらいですか』
「外せない……そんな……!」
『公民館の交差点前ですか』
「外れろ、外れろよ!」
『お迎えにあがります』
「……は?」
『公民館の前の交差点ですか。お迎えにあがります』
「いや、待って。何言ってんの。あんた、誰!」
『あと、五分くらいですか。お迎えにあがります』
「キモイって! マジで誰なんだよ! おい! ちょっと!」
 気付けば、走り出していた。
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