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1-3 開店
しおりを挟む草笛町図書館向かいの空き地。
そこには、だいぶ前から売り地と言う立て看板が設置されていた。
だが、次の物件が入るようすはいっこうになかった。
土地に入った物件が次々と閉店してしまうため、不吉な土地とウワサされているのだ。
サクマが知っているだけでもビデオショップ、コンビニ、トンカツ屋、携帯ショップ。
これだけの店が、長続きせずに潰れている。
「やっぱり、変だよな」
トウヤがしみじみと空き地を眺めながら言った。
「何が?」
「この空き地。何件も店が潰れてるだろ。スプーキーリサイクルの〝ルドン〟って鬼が、経営の邪魔になるから潰してるんじゃないかな。……たぶん!」
確かに、とサクマは思った。
この辺は交通量も多い。
だから、お店をやるには適した道路だ。
土地が広いから駐車場も停めやすいはず。
現に、他の土地は潰れることなく、経営できている。
なのに、ここだけはどんな店が出来ても潰れてしまう。
やはり、そのルドンって鬼のせいなのか。
「やっぱり鬼に記憶を売るのなんて止めなよ。どんなことをされるのかわからないし」
今の話で、サクマも少しづつ、スプーキーリサイクルの存在を信じ始めていた。
もし本当に鬼がいたとして、自分たち人間は無事に生きて帰れるのだろうか。
大人ならまだしも、自分たちはまだ小学六年生。
鬼に襲われたとして、勝てる自信はゼロだった。
「それでも、俺はこの記憶を売りたい。どうしても忘れたいんだよ」
「だけどさ……」
トウヤがポケットからスマホを取り出す。
ディスプレイの時刻は、ちょうど午後四時を表示していた。
「スプーキーリサイクル……開店時間だ!」
興奮で震える声でトウヤが言った。
空き地の背景では、燃えるような夕陽がゆっくりと沈んでいく。
その溶けるような赤が視界いっぱいに広がって、サクマとトウヤは思わず目を閉じた。
ハッとして目を開くと、二人の前にさっきまではなかった建物が現れていた。
看板に【スプーキーリサイクル】と書いてある。
倉庫をそのまんまお店にしたような作りだ。
店先には、髪の毛がぼさぼさの人形や、博物館でしか見たことがないような昔の家具、表紙がやぶれかけた本など、見るからに呪われていそうなものたちが山のように並んでいた。
「いらっしゃい」
サクマたちが中に入らず、きょろきょろとそれらを眺めていたからか、店のなかから誰かが出てきた。
ガタイのいいお兄さんだ。
真っ黒な着物に、茶色の羽織をはおっている。
足元は、足袋に下駄と和な装いだが、髪形は金髪にツーブロック。
頭には、しっかりと一本のツノが生えている。
ニカっと笑うと、立派なキバも見えた。
鬼だ! と、二人は思った。
この人が、スプーキーリサイクルの店主・鬼のルドンだ、と。
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