上 下
3 / 75

1-3 開店

しおりを挟む

 草笛町図書館向かいの空き地。
 そこには、だいぶ前から売り地と言う立て看板が設置されていた。
 だが、次の物件が入るようすはいっこうになかった。
 土地に入った物件が次々と閉店してしまうため、不吉な土地とウワサされているのだ。
 サクマが知っているだけでもビデオショップ、コンビニ、トンカツ屋、携帯ショップ。
 これだけの店が、長続きせずに潰れている。
「やっぱり、変だよな」
 トウヤがしみじみと空き地を眺めながら言った。
「何が?」
「この空き地。何件も店が潰れてるだろ。スプーキーリサイクルの〝ルドン〟って鬼が、経営の邪魔になるから潰してるんじゃないかな。……たぶん!」
 確かに、とサクマは思った。
 この辺は交通量も多い。
 だから、お店をやるには適した道路だ。
 土地が広いから駐車場も停めやすいはず。
 現に、他の土地は潰れることなく、経営できている。
 なのに、ここだけはどんな店が出来ても潰れてしまう。
 やはり、そのルドンって鬼のせいなのか。
「やっぱり鬼に記憶を売るのなんて止めなよ。どんなことをされるのかわからないし」
 今の話で、サクマも少しづつ、スプーキーリサイクルの存在を信じ始めていた。
 もし本当に鬼がいたとして、自分たち人間は無事に生きて帰れるのだろうか。
 大人ならまだしも、自分たちはまだ小学六年生。
 鬼に襲われたとして、勝てる自信はゼロだった。
「それでも、俺はこの記憶を売りたい。どうしても忘れたいんだよ」
「だけどさ……」
 トウヤがポケットからスマホを取り出す。
 ディスプレイの時刻は、ちょうど午後四時を表示していた。
「スプーキーリサイクル……開店時間だ!」
 興奮で震える声でトウヤが言った。
 空き地の背景では、燃えるような夕陽がゆっくりと沈んでいく。
 その溶けるような赤が視界いっぱいに広がって、サクマとトウヤは思わず目を閉じた。
 ハッとして目を開くと、二人の前にさっきまではなかった建物が現れていた。
 看板に【スプーキーリサイクル】と書いてある。
 倉庫をそのまんまお店にしたような作りだ。
 店先には、髪の毛がぼさぼさの人形や、博物館でしか見たことがないような昔の家具、表紙がやぶれかけた本など、見るからに呪われていそうなものたちが山のように並んでいた。
「いらっしゃい」
 サクマたちが中に入らず、きょろきょろとそれらを眺めていたからか、店のなかから誰かが出てきた。
 ガタイのいいお兄さんだ。
 真っ黒な着物に、茶色の羽織をはおっている。
 足元は、足袋に下駄と和な装いだが、髪形は金髪にツーブロック。
 頭には、しっかりと一本のツノが生えている。
 ニカっと笑うと、立派なキバも見えた。
 鬼だ! と、二人は思った。
 この人が、スプーキーリサイクルの店主・鬼のルドンだ、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幸せの島

土偶の友
ホラー
夏休み、母に連れられて訪れたのは母の故郷であるとある島。 初めて会ったといってもいい祖父母や現代とは思えないような遊びをする子供たち。 そんな中に今年10歳になる大地は入っていく。 彼はそこでどんな結末を迎えるのか。 完結しましたが、不明な点があれば感想などで聞いてください。 エブリスタ様、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。

進撃のデスピサロ

Lotus碧い空☆碧い宇宙の旅人☆
ホラー
進撃の巨人と日本のゴジラの恐怖を、ドラゴンクエスト4のデスピサロの異世界ファンタジーで描く文学モノのサバイバルストーリー。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】 やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。 *あらすじ*  人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。 「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」  どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。  迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。  そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。  彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

処理中です...