ヤムヤムガール! 〜ブルーム・アカデミーの悪夢記録〜

中靍 水雲

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5-4 ハッピー・ライフ・ゴースト

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「そう、だったんですね……」
「でも、もう悪口を言われるのなんて嫌だったから、エルとリズの言う通りに動いてた。そうしたら、仲間に入れてもらえるようになったんだ。小学校を卒業するときに、〝夢見士になりたいから、トロンもここに行こうよ〟って言われて、ブルーム・アカデミーに入学したってわけ」
「あなたも、夢見士になりたかったんですね?」
 すると、トロンはきっぱりと首を振る。
 ククルとバベルは驚いて、顔を見合わせた。
「えっ……それじゃああなたは、夢見士になるつもりはなかったのに、ブルーム・アカデミーに入学したんですか?」
「ん……エルとリズに言われたから、入っただけ。うちはさ、本当は夢見士じゃなくて……フラワーデザイナーになりたかったんだよ。花のディスプレイや、ブーケやコサージュ。色んな人を花で笑顔にしたい……」
 そこまで言ってトロンは、ハッとした。
 大好きな花の話によって、とろけた顔をあわててクールな表情に戻す。
 ククルとバベルが、びっくりした顔をして、トロンを見つめていた。
「ごめん。うち、花について考えはじめると夢中になっちゃうんだ。ペラペラしゃべっちゃって、キモかったよね。ごめん」
「いえいえ。私も花は大好きですよ。もう過ぎてしまいましたけど、アジサイとかきれいですし。そろそろ咲き始めるヒマワリとか、見ていると心が明るくなりますよね」
「わかる!」
 トロンの落ち込んでいた顔が、花開いたようにパッと明るくなる。
「うちも! ヒマワリ、めちゃ好きなんだ! でも、小学校のときにそれを言ったら〝お前がヒマワリみたいな明るい花が好きなんて変〟って言われて、ショックでさ……。それ以来、花が好きなことは隠すようにしてきたんだ」
「そんなのおかしいですよ。花の好き嫌いにその人のイメージは関係ないんじゃないですか?」
「……だっ、だよな!」
 嬉しそうに微笑むトロン。
 その見たことのない表情に、これまでのトロンのイメージがガラガラと音を立てて崩れていく、ククル。
「ちょいちょい、ククル」
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