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4-1 ストップ・ザ・インターネット
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ヨメルとともにプラチナクラスにぜったい受かろう、と決めてから、早一ヶ月。
最近のククルは夜になると、毎日頭を抱えていた。
昼間、脳の片隅で大人しくしている悩みごとが夜になると、川からあがるカバのように……のそり、と湧きあがってくるのだ。
ククルのヤムヤム状態発動の瞬間である。
「あ~! なんで私はあんなことを言ってしまったんでしょう! ヤむ、ヤみます~ッ」
「おい。普通はここで〝目標に向かってがんばりましょう、バベル!〟って意気込むところなんじゃないのか~」
「四谷くんは成績いいですからね。安心です。不安なのは……私です! あんなに大みえを切ったくせに……八月にあるグリーンクラスにさっそく落ちてしまったら……ああっ、末代までの恥です!」
「まったく。しょうがねえやつだなあ……」
さて。
ここは、馬飼町さくらだ八丁目の駄菓子屋前。
ククルとバベルは、クズキリ先生からの連絡を待っていた。
パッションオレンジの月が、空にポッカリと浮かびながら不気味に笑う。
今にも悪夢が生まれそうな、静かな夜だ。
「おお。ボッチャンイカがある。カレーせんべいもあるぞ。なんだか今夜は、しょっぱいものが食べたい気分なんだよねえ」
「今の私の涙のほうが、しょっぱいですよ!」
「やめろよ。ぼくに、人間の涙をなめる趣味はないよ……」
——ぶるるるるる
ククルのスマホが鳴った。
クズキリ先生からの連絡だ。
『馬飼町さくらだ三丁目、竜胆さんちに悪夢が出現。クオリティ『2』。六道ククル、バベルはそちらに向かうように』
「は、はいっ」
すぐにプツッと、電話が切れた。
ククルが全身を震わせながら、スマホを耳から離す。
「く、クオリティ……2ッ! マジですか……」
「いけるって~。さっさと食いに行こうじぇ~」
「ああ……ヤむッ……むぐ!」
ククルの口がチャックのように、いきなり閉じられた。
「むむむむっ、むぐぐ!」
「ククルさあ、ヤみすぎだぞ~。だから夢のちからで、お口チャックしてやるな?」
「むむむむ! むー!」
口では申し訳なさそうに言いながらも、バベルの目はニコニコマークのように笑っている。「む」しか言えないククルが面白いらしい。
バベルがこんなことをしたのも、ククルのヤムヤムがここ最近、格段に増えたからなのだ。
ドリーム・テストへのプレッシャーがハンパないのだろう。
バベルはそんなククルを気づかう……ということは特になく、パートナーの制服の首根っこをバクッとくわえた。
「よっし、れっつご~」
そのまま、スパンコールのような星たちがきらきら光る夜空へと飛び立つ、バベル。
「ぐえッ。まっでぐださい! じにます! これ、じにますから!」
「んえ?」
最近のククルは夜になると、毎日頭を抱えていた。
昼間、脳の片隅で大人しくしている悩みごとが夜になると、川からあがるカバのように……のそり、と湧きあがってくるのだ。
ククルのヤムヤム状態発動の瞬間である。
「あ~! なんで私はあんなことを言ってしまったんでしょう! ヤむ、ヤみます~ッ」
「おい。普通はここで〝目標に向かってがんばりましょう、バベル!〟って意気込むところなんじゃないのか~」
「四谷くんは成績いいですからね。安心です。不安なのは……私です! あんなに大みえを切ったくせに……八月にあるグリーンクラスにさっそく落ちてしまったら……ああっ、末代までの恥です!」
「まったく。しょうがねえやつだなあ……」
さて。
ここは、馬飼町さくらだ八丁目の駄菓子屋前。
ククルとバベルは、クズキリ先生からの連絡を待っていた。
パッションオレンジの月が、空にポッカリと浮かびながら不気味に笑う。
今にも悪夢が生まれそうな、静かな夜だ。
「おお。ボッチャンイカがある。カレーせんべいもあるぞ。なんだか今夜は、しょっぱいものが食べたい気分なんだよねえ」
「今の私の涙のほうが、しょっぱいですよ!」
「やめろよ。ぼくに、人間の涙をなめる趣味はないよ……」
——ぶるるるるる
ククルのスマホが鳴った。
クズキリ先生からの連絡だ。
『馬飼町さくらだ三丁目、竜胆さんちに悪夢が出現。クオリティ『2』。六道ククル、バベルはそちらに向かうように』
「は、はいっ」
すぐにプツッと、電話が切れた。
ククルが全身を震わせながら、スマホを耳から離す。
「く、クオリティ……2ッ! マジですか……」
「いけるって~。さっさと食いに行こうじぇ~」
「ああ……ヤむッ……むぐ!」
ククルの口がチャックのように、いきなり閉じられた。
「むむむむっ、むぐぐ!」
「ククルさあ、ヤみすぎだぞ~。だから夢のちからで、お口チャックしてやるな?」
「むむむむ! むー!」
口では申し訳なさそうに言いながらも、バベルの目はニコニコマークのように笑っている。「む」しか言えないククルが面白いらしい。
バベルがこんなことをしたのも、ククルのヤムヤムがここ最近、格段に増えたからなのだ。
ドリーム・テストへのプレッシャーがハンパないのだろう。
バベルはそんなククルを気づかう……ということは特になく、パートナーの制服の首根っこをバクッとくわえた。
「よっし、れっつご~」
そのまま、スパンコールのような星たちがきらきら光る夜空へと飛び立つ、バベル。
「ぐえッ。まっでぐださい! じにます! これ、じにますから!」
「んえ?」
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