ヤムヤムガール！ 〜ブルーム・アカデミーの悪夢記録〜

3-9 アート・ブレイク・ダウン

　ロロくんが首を傾げている。
　金属ハンマーが振り下ろせないようだ。
「ちょっと！　何するんだ、きみ！　腕を放してよ！」
「い、いやです」
　そこには、教室での見知った顔が立っていた。
「私、夢見士として、パートナーのバクに悪夢を提供しないといけない立場なんで……」
「はあ？」
　パッツン黒髪ロングの、六門さんだ。
　どうしてここに？
　いや、それよりも……まずい。
　ロロくんの機嫌が一気に悪くなったようだ。
　金属ハンマーが六門さんに向かって振り下ろされそうになっている。
　……危ない！
「や、止めてくださいッ！　今、熟成中です！」
　六門さんがロロくんの腰にいきおいよく抱き着いた。
　その拍子に、ロロくんはバランスを崩して、教室の床に仰向けに倒れ込んでしまう。
　すかさず六門さんをロロくんを引きはがし、ぼくの後ろに隠した。
　ロロくんは床に座り込んだまま「はあ」と息をつく。
　ぼくたちのあいだに、再び緊張の糸がピンとはりつめた。
「すみません。四谷くんを助けに来たのに、助けられてしまいました」
　六門さんが、申し訳なさそうに言った。
「気にしないで。そういえば……さっき熟成中って言ってたけど、今日の授業内容のことだよね。きみのバクはどこ？」
「いえ、お恥ずかしながら……悪夢サンプルの授業から、バベルの舌がどうも肥えてしまったようでして。今、悪夢のちょうどいい熟成具合を探っているようなんです。なので、クライマックスまで夢見士として、時間稼ぎをしようと……」
「それってさ」
「はい」
「バクにこき使われてるってこと？」
　思わずそう言うと、六門さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「わ、わかっています。しかし、夢見士として何とか自分も成長しなければと、私も試行錯誤中でして……」
「そっか。一生懸命なんだね、六門さんは」
「い、いえ。そんなつもりは……」
「普通、夢見士はパートナーのバクと力をあわせて、悪夢をクライマックスまで持っていくものだけどね」
「ヴッ……」