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43おまけ・生まれ変わったら③

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 それから5年はあっという間だった。
 ビゼリテ隊長に保証人になってもらい、俺は騎士団の救護室で働くように言われた。
 町の教会で加護を確認した所、しっかりと『祈り』の加護を持っていた。
 教会は治癒と浄化に関わる加護持ちを欲しがるので、教会が保証人になって引き取りたいと言ったらしいが、ビゼリテがそれは拒否した。
 本人が成人してから神殿に入ると言うなら止めないが、子供のうちはビゼリテが保護すると言って突っぱねてくれた。
 俺は神殿は嫌だった。
 だって間違いなく『祈り』を持っていると王都の神殿に行く事になるからだ。
 ジュリテアの記憶がある限り、あそこは少し辛い場所だ。
 15歳での加護は無かった。

 俺はまだ子供という事で罪は軽かった。
 山賊として出てなかったのもあるし、人を僅かだが助けた事も考慮されて、賠償金を払う事になった。
 それも騎士団で働いて定額を差し引いてもらえば3年で返せる額だった。
 寝泊まりは宿舎を借りれるしご飯も安く出る。
 遊んだり贅沢しなければ充分に生きていけた。
 むしろ山賊の村より待遇は良かった。

「もう少し食べて身体を作って鍛えれば、騎士団試験も受けれるぞ。」

 ビゼリテにそう言われて、とにかくご飯を食べて身体を鍛えた。剣技も訓練場を借りて練習してみた。
 剣は元々村でも毎日鍛錬していたので、独学だけど少し自信があった。

 18歳になると試験が受けれると聞いて受けてみたら、なんと合格した。
 治癒、浄化が出来る騎士はあまりいないので、それも加味されているかもしれないけど、純粋に嬉しかった。


 20歳になってこの前教会でお祈りもした。
 ビゼリテから手紙が来てお祝いしてくれるって言ってたので楽しみだ。
 ビゼリテはヒュートリエ様の記憶を持っているのかと思ったけど、全くその話はしてこない。
 俺も特に自分からその話はしないので、お互い知らんフリで良いのだと思う。
 その方がこれから先も付き合いやすいのかもしれない。

 少し前に騎士団長から呼ばれて、王都の第3騎士団に入ってみないかと言われた。
 俺がいる騎士団は辺境伯が所有する辺境騎士団だ。
 王都の騎士団は王立騎士団で、第1から第3まである。第3騎士団は国中を飛び回って魔物の討伐や犯罪者を捕まえる騎士団になる。
 ビゼリテが所属するのも第3騎士団で、俺が捕まった時も辺境伯からの依頼で討伐に来ていたと後から知った。
 ビゼリテは年に数回近くまで来たら寄ってくれる。
 保証人になると定期的にちゃんとやっているか確認しなきゃと言われた。
 それも20歳で終わったので、これからは自力で頑張ろうと思う。
 
「こちらとしても君は貴重な存在だし手放したくはないんだが、国からの要請ではね。よく考えて決めてくれ。勿論拒否してくれても構わない。」

 騎士団長から直々にそう言われて、俺は凄く悩んでる。
 漸くここにも慣れて、地に足ついてやっていけるようになったのに、離れるのは不安だ。

 迷いが生まれたら兎に角鍛錬だと思い、今は鍛錬場で剣を振っていた。
 俺の剣は記憶の中の人がやっていた事を真似している。
 しなやかな腕と足が、踊るように伸び、軽やかにステップを踏んで移動していく。
 1つ1つの剣の振りに、溜めて凪いでを繰り返す。
 息を吐き、深く吸って、また吐く。
 繰り返し繰り返し真似していく。
 騎士にしては細く短い剣だが、刀身に意識を集中すると他の騎士と同じように魔物を斬ることが出来る。
 俺は日が暮れるまでずっとそれを繰り返していた。









 ビゼリテは部下を1人伴って辺境伯領地まで来ていた。
 レンを騎士団に預けてから5年が経った。
 騎士にもなれると教えると、なりたいと言って本当に辺境騎士団に入団したのは2年前。
 レンの浄化の力は絶大で、魔物を浄化後に斬れば消えて無くなり燃やす必要もないと、王都の騎士団にまで名前を聞くようになった。
 本人は王都には来たくないだろうが、直ぐに声が掛かるのは明白だった。

「鍛錬場にいるそうですよ。」

 今やビゼリテは第3騎士団の副団長という地位にいる。
 国王を守る第1騎士団がレンを欲しがっていたが、ある理由を盾に第3騎士団に引っ張ってくるつもりでいた。
 ただ本人の承諾が無いとならないので、レンに直接確かめて書類にサインをさせる為にやって来た。

 ビゼリテは頷いて鍛錬場に向かった。

 陽の光が赤く染まり出し、日が暮れるのが近いのを知らせてくる。
 ビゼリテはオレンジ色も緋色も嫌いだ。
 嫌な奴を思い出す。
 副団長までなら会う事もないが、式典などでは警護に付く事もあるので、遠目にあの2人を見る事もあった。
 このまま順当にいけば騎士団長になってしまうだろう。
 それを思うと騎士を辞めたくもなるが、なるべくアイツらの前では顔を上げないようにしようと心に決めている。
 

 鍛錬場の入り口に着くと、レンが剣を振っていた。それはいつか見た緋色の蝶を纏う見惚れるほどの剣技と同じだった。
 汗を大量に流しているのに息は1つも乱れていない。

「昼過ぎからずっとやってるらしいですよ。相変わらず惚れ惚れするような剣ですね。」

 レンの剣技は美しい。
 見る者を魅了する剣なのに、その殺傷能力はそこら辺の騎士では敵わない。
 昔は剣など持った事もなかった人間だ。
 きっと何百、何千、何万回とその型を見ていたのだろう。
 それくらい、愛していたのだ。

「どこで覚えたんでしょうねぇ。」

「さぁな、説得してくる。」

「あ、はい、折角団長達に頭下げて作った書類ですもんね!頑張ってください!」

「大丈夫だろう。あいつバカだから内容も見ずにサインする。」

「えぇ~~~?」

 それ、説得って言いませんよ?
 部下は額に汗を垂らしつつ副団長を見送った。








 片足立ちで綺麗に回転し、剣を振る反動でもう片足を移動する。
 その流れが気に食わないのか何度もやり直していた。
 
「~~~~~っんーーーーーっくそっ!」

 口汚く悪態をついていた。
 昔の面影は一切無い。

「重心がズレてる。」

 近付いて声をかけると、肩を振るわせビクリとした。

「び、びびった!来てたのか。」

 全く気付いていなかったらしい。

「どっちズレてる?」

 先程と同じ型をとってみせる。
 腕を持ちゆっくりと姿勢を正してやると、あっこっちかと言ってまた1人で回転しだした。

「んん、少し直った。」

 納得したように剣を振って反復している。

「レン、第3に来い。」

 動きを止めてレンの茶色の瞳がビゼリテを見た。
 15歳でここに来た時、薄汚れ痩せこけた少年は、まだ少し痩せていながらも筋肉のついた美しい青年になっていた。
 濃い茶色の髪はよく洗っているのか艶があり、風に揺れて夕陽をキラキラと反射していた。
 レンは自分では気付いていないが所作が美しい。
 産まれは山賊の村なのに、食べる姿も歩く姿も貴族のように洗練されている。
 きっとこの辺境騎士団でも色んな意味で浮いているだろう。
 よくあの小汚い村で無事だったものだ。
 成人する頃には首領に嫁がされる為に、誰も手を付けずにいたのだと、あの時嘘をついた少年が嫉妬まじりに喚いていた。
 
「俺さ、ようやくここに慣れてきたかなぁって思うんだけど、王立騎士団なんてデカいとこ行って大丈夫かな?」

 手をモジモジしながら聞いてきた。
 チラリと見る視線も、昔と同じ癖なのだなと思い、フッと笑う。
 不安だったりするとよくやっていた。
 何故同じ癖なのか、何故過去なんか関係ないとばかりに懐いてくるのか、相変わらずこの魂の心は理解し難い。
 懐かれて、嬉しいと思ってしまう自分も、相変わらずバカな男だと思ってしまう。

「第3の俺の下に就けばいい。話は通してある。書類にサインすれば一発で終わりだ。ここでサインしとかないと次は第1騎士団に呼ばれる事になる。」

「え!?マジで!?え、じゃあ、第3に行ってた方が安心かな??わ、分かったサインする。」

 こっちだと促して建物の中の一室を借りた。



 連れてきた部下と共に部屋に入り、椅子に座らせ机に書類を置く。

「何枚かあるからサインしろ。」

 1枚ずつ出して次から次にサインさせる。
 こいつはこんなに自分の名前書いて分かってるのだろうか。
 まぁ、今は止めないけど。

 全部書かせて隣に座った部下に渡した。
 部下は終始無言だった。

「よし、直ぐに立つぞ。団長に挨拶して辺境騎士団の退団届を出す。王立騎士団には入団届を早便で送っとけ。」

 命令された部下はなんとも言えない顔をしていた。
 眉毛がヘニョっと下がっている。

「はあ、…………あの、凄い速さでサインさせましたけど、レンくんはちゃんと納得してますよね?」

「大丈夫だ。」

 レンはその人の言い方にちょっと不安になった。
 
「入団の書類じゃ無いの?」

「その為の書類だ。」

 ??????

 結局書類はそのまま全て早便で王都に送られ、俺は早々と第3騎士団所属に変更となった。
 辺境騎士団長には凄く残念がられてしまった。





 俺は王都の騎士団宿舎に住むのかと思ったらなんでかビゼリテの持ち家に連れて行かれた。
 2人で住むには充分大きな家で、留守しがちなので管理人を立てているらしかった。
 定期的に清掃の為の使用人もくるので、家は綺麗だった。

「俺なんでビゼリテと一緒に住むの?」

「第3に来させるためには親族の同意が必要だったから。この前の書類は全て受理されている。お前の名前はレン・レニアンセル、俺の妻だ。」

 ……………………へ?

 びっくり仰天しすぎて言葉が出ない。

「あーーー、あれだね、前は結婚できなかったし、いよいよやっちゃう的な?」

「はは、出てくる言葉がそれか?やっぱりバカだな。」

 むぐぐぐっ!
 いつもなんでかバカにされる!

「今まで聞いたこと無かったけど、絶対王子様の記憶あるでしょ?覚えてるでしょ!?性格全然違うよね!人の事バカバカ言う奴がバカなんだーーーー!!!」

 だいたいなんで勝手に結婚してんだ!
 ビゼリテは笑ってそうだなと返事した。
 

 こうして俺達は夫婦になった。
 
 そしてビゼリテが第3騎士団長になり、歳をとったカシューゼネ達に存在がバレて、同時に俺諸共バレちゃうのはもう少し先のこと。









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