君は僕の道標、貴方は俺の美しい蝶。

黄金 

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41 おまけ・生まれ変わったら①

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 小さな頃からよく同じ夢を見た。
 目の前には白金の髪に青いキラキラとした瞳の子供。
 笑顔は太陽の様に明るくて、それを見ていた自分は彼の事が大好きだった。
 
 どうしても手に入れたくて、自分だけを見て欲しくて、卑怯な事を無意識にやっていた。
 その子が人から嫌われて、味方が1人もいなくなれば、自分1人で独占出来ると思っていた。

 その子はトゥワーレレ神の緋色の蝶を操って、国を浄化してしまった。
  
 最後に見たその子の青い瞳からは涙が流れて、名前を呼んでいた。
 
 「ジュリテア」と。







 目を覚ますとそこはいつもの小屋の中。
 木板を貼り付けただけの壁は隙間だらけで、木と木の隙間から朝日が差し込んでいた。

「んん………。」

 背伸びをしてゆっくりと起きる。
 まだ眠たくてボーと見るのは自分のヒョロリと長い足だ。
 決して痩せているわけではないが、贅沢品なんかない生活では余計な肉はつかない。
 生きる為についた筋肉と骨の身体。

 起き上がって布だけの扉を潜ると、もう既に起きている物達が動き回っていた。
 
 ここは山賊の村。
 寄せ集めの人間が作った村で、子供も少しばかりいたりするが、基本は20歳を過ぎた大人ばかりの村だ。
 俺は今年で漸く15歳を過ぎた。
 この村は山奥にコッソリと作られた村なので、15歳だからと教会で祈りを捧げることはない。
 なんなら0歳もない。
 国に集落として認識されていない山賊の村だし、存在を知られれば討伐対象になる村なので、教会が無いからここで産まれた子供は誰も自分の加護を知らない。
 俺もその1人だ。
 でも何となく自分の加護を理解していた。
 前と同じで『祈り』なのだろうと思う。
 でも、この村で自分の加護を誰かに教えた事はない。
 治癒や浄化は生きる上で重宝される加護だ。
 俺は20歳を過ぎたらこの村から逃げようと思ってるので、『祈り』の加護があると知られれば捕まって一生この村から出してもらえないようになるだろう。

 村の近くに流れる小川まで歩き、俺は顔と手を洗った。
 この村でそんな事をする人間はいない。
 風呂もないし、身綺麗にするという感覚もない。
 皆垢まみれで、髪もまぁ切ってるけど?という具合に適当だ。
 俺はどうもジュリテアとしての記憶がある所為か、小さい頃から気になって仕方がなかった。
 親は山賊同士仲良くなって、子供作るかーってノリで俺を産んだ人達だが、変なこだわりを持つ息子を呆れた様に見ていた。
 そんな両親もとっくの昔に捕まってこの村にはいない。
 山賊は直ぐに首を刎ねられると聞いているので、多分この世にはいないだろう。

「レン、相変わらず手を洗ってるのかぁ?んな事血を落とす時くらいしかしねーぞ?」

 洗った手を拭くものもないのでパタパタと空気で乾かしていると、後ろから名前を呼ばれた。
 振り返ると村の人間が朝から薪割りしたのか、一抱えある薪を持って笑いながら通り過ぎていった。

 
 記憶の中では毎日、というか1日に2回はお風呂に入り、身体を磨き髪にも皮膚にも良い匂いのする香油を塗っていた。
 爪は綺麗に整えられ、保護剤を塗って宝石を貼り付け、あざがやかな模様を描いてはそれを眺めて満足していた。
 白い滑らかな、傷一つない綺麗な肌。
 大きな青い星屑を散らした瞳。
 サラサラの白金の髪は肌触りが良く、お風呂の度に複雑に結いあげて、宝石や花で飾りつけた。
 それをする専用の使用人も何人もいた。
 毎日、毎日、身体を磨き綺麗に飾り付けて、そんな生活が当たり前だと思っていた。


 今の自分の手はふしくれ立ち、爪も伸びて黒い。石鹸なんてないから水で洗うだけ。
 身体もたまに布でゴシゴシと拭くだけ。
 きっと臭いだろうなぁとは思うが、この村の人間全員臭いので気にならない。
 鼻も馬鹿になっているだろう。
 髪も伸び放題でたまに切れないナイフで適当に切るしかない。
 盗品にあった鏡で自分を見た時、あまりにも小汚くてそれ以来見ない様にしている。
 髪も瞳も濃い茶色かなっていう記憶しかない。



「おいっ、昨日持ってきた奴の中にダメなのがいるから捨てとけっ!」

 声を掛けられ頷いた。
 昨日連れてきた人間の中に死にかけがいるのだろう。

「何人いるの?」

「あ~、5人か6人か……?こっちもやられたんだぜー。やたら強い護衛つけててさぁ。」

 俺に用を言いつけた男は、ぼやきながら去って行った。

 捕まえた人間は他所の国に連れて行って売り捌く。
 この国には奴隷制度がないけど、隣国には奴隷市場があるので、そこに売ると金になる。
 盗品も国内じゃなくて検問の無い山の中を通って隣国で売る為に、態々こんな辺境の山の中で暮らしている。
 この国は裕福なので、商人や貴族を襲って、治安の良く無い隣の国で売るといい金になると聞いた。
 村の位置も首領の采配で数ヶ月ごとに移動する為、何とか存続している。
 全体で何人いるのか知らないが、子供も合わせると50人程度はいそうだ。

 自分の小屋よりは少し大きめの小屋に、連れ去ってきた人達は詰め込まれていた。
 近付いていくと中からボソボソと声が聞こえる。

「………ぅ、隊長………っ!」
「しっ……黙れっ…!」

 隊長………?
 嫌な予感がした。

 中には成人5人、自分と同じ歳くらいの子が3人、子供が1人。
 こんなに連れてきたのかと呆れる。
 あまり派手にやると足がつきやすい。
 今回でまた村を移動するかもしれないなとレンは思った。

 10代の少年達は服を脱がされ犯された後の様で、皆グッタリと寝ていた。
 ざっと見て外傷はない。
 性奴隷用に売るつもりなのだろう。
 小さいのは処女として高く売るのかもしれない。
 傷はない方が良く売れる。
 大人5人のうち3人は起きていた。傷だらけで殴られた後も顔が腫れていた。手足は折れていない。内臓も意識がハッキリしているので大丈夫そう。
 労働用に身体を動けない程度に痛め付けたのだろう。
 後2人は意識がない。
 1人は格好や体格から商人。
 もう1人は護衛っぽい。皮の鎧が裂けて、未だに血が出ていた。
 
 まず先に商人から見たが、死んだのはこっちだった。血の通わない肌は既に冷たくなっていた。血を流した形跡は無いが、口と鼻から血を出している事から、誰かが腹を蹴って内臓を痛めたか、戦闘で痛める何かがあったか。
 どちらにせよ片付けるのはこの男1人分でいい様だ。
 村から離れた場所に穴を掘って燃やす必要がある。
 死体は放置すると腐り出し獣をお引き寄せるし、穢れが溜まって魔物化すると厄介だ。

 もう1人はまだ息があった。
 戦って剣を受けてしまったのだろう。
 体格はよく鍛えていたおかげで生きている、といった感じだ。
 男の剥がれかかった皮鎧を外し、破れた上半身の服を裂いて取り払った。
 
「…………ん?」

 近くにある水瓶から水を掬い、先程裂いた服を濡らして男の身体の汚れを拭いていく。
 ひっくり返してうつ伏せにして、背中の致命傷になっている傷に水をダバダバとかけた。
 水はこっそり綺麗な水を入れているので、かけても問題ない。
 
「う゛…………。」

 男に意識は無いものの、流石に痛かったのか微かに呻いた。
 肩、腕、手の甲とスウーーと流れる様に触れる。
 よく鍛えた身体に、無数の傷跡。
 変なところに擦れた様な跡。
 男の顔を観察して、泥で汚れているがやけに整った綺麗な顔をしている事に気付いた。
 背中に傷が有り動けないからと、それ以上の暴力を受けなかったのだろう。
 他の大人達と違って顔は綺麗なままだった。
 髪は綺麗な緩く波打つ金髪。伸びた後ろ髪を紐で括っていた。

「…………………これ………!」

 ザワリと肌が震える。
 騎士だ!
 やばいと思い慌てて立ち上がる。
 外に出て知らせなければならないと駆け出そうとして、急に足を払われた。

「うあ゛っ!!」

 ビタンと腹と顔面を打ち付け倒れ込むと、背中に誰かが乗って身動き取れなくさせられる。
 先程顔を殴られ座り込んでいた男達だった。

「勘の良い奴だ。もうじき救援が来る。お前達はもうお終いだ。」

 乗っかった男がそう言った。
 
 これは罠だ。
 態と捕まって捉えにきたのだと気付いたが、逆に捕まってしまった。
 意識の無い男の身体には鎧を付けた跡があった。普通の村人には分からないが、ジュリテアの記憶がある自分には見慣れたものだった。ジュリテアが相手をしたラダフィムにしろ、何人かの貴族騎士の身体には同じような跡があったのだ。
 まだ早朝で、村の半分の人間は寝ている。
 捕まえに来るなら今だろう。

 ああ、せっかく今まで五体満足に生きて来れたのに、ここで終わりなのかと諦めた。
 外から喧騒が響いてくる。
 誰かの叫び声が響き、剣戟が起きる。
 静かな森の中はあっという間に喧騒に包まれた。


 大人になったら逃げようと思っていた。
 冒険者になるのでも良いし、仕事を斡旋してもらって何処かに住み着くのでも良い。
 1人で自由に生きたかった。
 

「ビゼ班!無事か!?」

 扉代わりの布が千切れるほどに開けられて、騎士の格好をした男が飛び込んできた。

「隊長が怪我を!」
 
 俺にのしかかっていた男が叫ぶ。
 背中に傷を負った男は隊長だったのかと、抱えられ運ばれていく隊長とやらの顔をじっくりと見た。

「…………あれ?」

 見た事があると思い、思わず声が出たが誰もそれには気にも留めていない。
 
「それは、ここの子供か?」

「ああ、気付かれそうになって押さえておいた。捕まえてくれ。」

 騎士達によって俺は捕まった。
 後ろ手に縄で括られて、外に引っ張り出されると村の中は悲惨な状況になっていた。
 首領は怪我だらけで連れて行かれるのか、何人かの上の奴らと共に村の外に連れて行かれていた。
 他の大人達は膝立ちて並ばされ、次々と首を刎ねられていた。
 死体はここで燃やせと、『火』の加護を持つ人間がいるのか直ぐに炎に焼かれていた。
 
 人を焼く匂いは吐き気がする程異臭がするので、森の中で焼いてしまうのだろう。
 
「ここのガキはこんなのも見慣れるもんなのかね。」
 
 小屋の中に捉えられていた男が俺の後ろを歩きながらボヤいた。
 顔を腫らしてはいるが平気そうなところを見ると、動けないフリをしていたのだろう。


 いつも死体処理は子供の自分達の仕事だった。
 大人になったら狩にいく。
 拾った子供は馴染めそうなら此処で育てるし、ダメそうなら売る。
 それが当たり前の世界だった。
 
















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