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37 夕陽の交差点

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 まばらに人が歩く歩道。
 今日の夕焼けはやけに赤く、気持ち悪いくらいに景色はオレンジ色だった。
 もう少し歩けばいつも渡る交差点に差し掛かる。
 目の前に珍しい人を発見して声を掛けた。

「あ、せんぱーい!お久しぶりですっ!」

「うん?ああ、久しぶり。」

 先輩は背が高く、緩くパーマのかかった髪を後ろに軽く撫で付けたイケメンだ。
 なのにこの人、腐女子好みの小説を書くのだ。
 ちょっと前に読んだ小説の、第二部を読ませてもらって、次会ったら是非感想を伝えたいと思っていた。

「読みましたよぉ~。まさかカシューゼネ様が従者落ちとか!あんまり絡みなかったのに、そこかぁって思いました!」

「あ、読んでくれたんだ?ありがとう!結構最後でカシューゼネが祈るシーン、何を祈ったのか聞いてくる人多くてさぁ~。そんなに気になるなら続き書いてみようかなってやってみたんだけど、どうだった?」

「そうですねぇ~、総受け好きのあたしとしてわぁ、カシューゼネ様を総受けで終わらせて欲しいってのが有りましたけど、あれはあれで良かったかなって気がします。従者も美味しいです!」

「あははは、カシューゼネを総受けかぁ。でも、ほら、彼は総受けはあり得ない、1人がいいって言ってたしね。」

「え?彼?」

「うん、君いつも、あの子は一途受けが好きだからぁって話してたでしょ?」

 ……え?

 ゆっくりと話しながら歩いていて、先輩の言葉に不思議な気持ちになった。
 あたしに彼氏なんていない。というかこんな腐った話を聞いてくれる男子なんて身近にいない。
 先輩は男だけど、先輩以外の男性?
 誰の事だろう?

「あ、ごめんごめん、意味分かんないよね。とりあえず希望通りの一途受け。」

「あ、………はぁ。」

「ちょっと人格崩壊してたから補助のつもりで入れたけど、なんか進めるうちにこのままでいっかなぁってなったんだよね~。」

「………?」

「ここの交差点じゃなかった?渡らないの?」

 先輩に指差されてその方向を見れば、確かにいつも渡る交差点だった。

「本当だ!通り過ぎるところでした!じゃあ、また書いたら読ませて下さいね!」

「うん、こちらこそよろしくねぇ。」

 先輩はヒラヒラと手を振って交差点を渡らずに真っ直ぐ歩いて行った。
 先輩の背中にオレンジ色の夕陽があたり、その先の夕闇がやけに暗く感じる。

 少しその青紫色の闇が怖くなり、ブルリと背筋を震わせた。

 かれ?
 誰の事だろう……。先程の疑問がまた浮かぶ。

 信号待ちをしていると、斜め後ろにぶつぶつと何か呟いているサラリーマンが立った。
 気持ち悪いなと思い、歩行者用信号が青になると直ぐに渡り始める。
 ピッポ、ピッポという音が鳴る中、かれ、かれ、と過去に出会った人間を思い浮かべる。
 殆ど女ばかりで話した。
 高校も、大学も、こんな開けっぴろげに話せるのは女子ばかり。


 ふ、と声を思い出した。

 ーーーどれか1つにしろよ!ーーー

 ん?いた?なんか、そんなこと言ってた子が………。

 でも、誰なのか思い出せない。

 記憶を掘り起こそうとして、徐々に歩行が遅くなる。
 白と灰色の縞々を見つめながら、だれ?だれ?と疑問を足の裏にぶつけて歩く。

 ノロノロ歩く所為で、先程ぶつぶつ言っていたサラリーマンに追い越された。


 ……………だれ?


 一歩踏み出した足から夕陽で伸びた長い影が地に落ちる。
 もう1歩降ろすと、やけに足音が響いた。


 ーーーんじゃあ、姉ちゃんは……ーーー


 そう、この交差点で。
 カシュー様一択!そうあたしは答えたのだ。
 言いようの無い不安が込み上げてくる。
 顔が青褪め、先程まで暖かいと思っていたオレンジ色が不気味に感じた。
 胸に手を当て息を吸う。
 吐いて、吸って、でもドキドキと言い出した心臓は鳴り止まない。

 誰とここで話した?
 彼って誰の事?

 渡り終わった横断歩道を振り返った。
 灰色の道路も、白い線も、全てがオレンジ色に染まっていた。
 流れる雲は焼ける様な緋色の空。

 
 割と交通量が多いのに、信号の赤が見えるのに、動く気配のない停止した世界が目に飛び込んでくる。



「……………………………はっ…。」



 吐いた自分の息がやけに大きく聞こえた。





 街路樹が突風で唸る音にハッと意識が戻った。
 目の前の道路には車が行き交い、反対側の歩道で信号待ちをする人が既に何人か待っていた。
 まだ、ドキドキとしている。
 さっき迄、すごく不安で、何かが悲しかったのに、忘れてしまった。
 目尻になんで涙が溜まっているのか、何を考えていたのか、何を忘れたのか混乱しているが、そんな自分自身が不思議だった。

「………………帰ろ………。」

 何故か1人の帰宅が酷く寂しく感じた。











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