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36 神の神子になる日
しおりを挟む僕はまたあの日の神殿に来ていた。
20歳のお祝い、加護を授かるかもしれない日だ。
オルベルフラ王族とジュリテア側についた主要貴族が軒並みヒュートリエ様によって殺された後、僕達は隣国に警戒しつつ国の立て直しを計った。
領主がいなくなった領地は一旦国領とし、新たに国王を立てる事になったのだが、その白羽の矢が僕にたった。
物凄く拒否したのに、一先ずだから、『神の愛し子』がなっ方が周辺諸国を納得させ易いからと言われて、僕のは『盾』なんですけど!という拒否は無視されて、仕方なく王位についた。
カシューゼネ側についた貴族が一丸になったお陰か、かなり早く立て直していった。
僕の浄化で土地の復活が早かったのも良かったと言われた。
国政の要職に就いていた貴族はあらかたいなくなっていたが、能力の高い人達は僻地に飛ばされていたので呼び戻して頑張って貰った。要らない頭が綺麗さっぱり無くなったのでやり易いと言っていた。そんな歯に衣着せぬ言い方してるから飛ばされたんだろうなと思った。
僕は20歳になった。
国の建て直しであっという間に20歳だ。
少し前にアルゼトも誕生日が来ていたけど、アルゼトの20歳の加護は何も無かった。
殆どの人に20歳の加護は来ない。
授からないのが普通だ。
でも、僕は小説の内容を知っている。
ジュリテアは『神の神子』を授かり、ヒュートリエ様とラダフィム、ナキゼア、シューニエ神官長は『神の神子の伴侶』という加護を授かるのだ。
神獣フワイフェルエは浄化を行なった者が『神の神子』になると言っていた。
だからジュリテアに代わってカシューゼネが『神の神子』になり物語を変えてと言ったのだ。
フワイフェルエの願い通り、物語は改変された。
カシューゼネの願いはアルゼトと一緒に生きたい、というものだった。
その願いは聞き届けられ、トゥワーレレ神の神像の前に跪く僕を、アルゼトは優しく見守っている。
今トゥワーレレ神が持つ水晶は淡く光り輝いている。
この光が消えた時、また新たな『神の愛し子』が現れるのだろうが、それはきっと数十年という月日が経った時だ。
今僕は、この幸せを噛み締めている。
そして、ジュリテア達を犠牲にした事を後悔はしていない。
僕の祈りで変わった物語なのだから、僕は後悔したく無い。
その代わり、この国を導いていく。
アルゼトに僕は結婚しようと申し込んだけど、アルゼトはただの従者が王の伴侶になるなど許されませんと断られた。
その代わり側にずっと一緒にいますからと言われて、僕は他の誰かと結婚するつもりも、アルゼト以外とセックスするつもりもないと憤慨した。
なんなら王宮にいる人間も貴族達も僕の恋人がアルゼトだと知ってるのに、なんで躊躇うのと聞いたら、周辺諸国に侮られると困った顔をしていた。
だったら!
だったら、周辺諸国まで納得する様な事実を突き付ければいい!
僕はトゥワーレレ神の神像に向かってお願いした。
祈りを声に出す人はあまりいない。
品がないと思われるからだ。
「僕を『神の神子』にして、アルゼトを『神の神子の伴侶』にして下さい!」
僕の声はシンと静まり返った神殿内に木霊した。ワアアンという音までして響き渡る。
多分間違いなく『神の神子』と『神の御子の伴侶』になるとは思ってるけど、念には念を入れなければ!
目の前には『神の神子』という文字。
チラリとアルゼトを見ると、アルゼトは珍しく驚いた顔で光る文字を見つめていた。
きっと目の前には『神の神子の伴侶』という文字が浮かんでいることだろう。
神が認めた伴侶に否定する人間なんかいないよね。
アルゼトに『神の神子の伴侶』という加護が授けられた事により、フワイフェルエの言う通り、神獣ビテフノラスを従神として縛り付ける『緋の光』と言う加護は消えてしまった。
カシューゼネの『全属性』と『神の愛し子の盾』という加護も失っているので、1つに統合されたのだろうと感じた。
毎日浄化を掛けたおかげで神獣ビテフノラスの毛は炎の様に揺らめく緋色の体毛に変わっていた。
大きな1つ目も赤く燃える瞳で、ずっと見ていても飽きないくらいに綺麗だった。
人化するにはまだまだ回復が必要だが、ここまで浄化してもらえれば充分だと言っていた。
「ありがとう、カシューゼネ!」
飛び立つ2匹の神獣は、炎の赤と銀の軌跡を残して空高く飛び立っていった。
最初に出会った森の中の祭殿を棲家にするつもりだと言うので、そのうち遊びに行ってみようと思う。
後日アルゼトは困った様な嬉しそうな顔で言っていた。
「カシューゼネ様が誰か王配を迎えられれば俺はただの従者に戻りお仕えしようと思っていました。貴方の輝かしい人生に影を落としたくなかったのでお断りしたのです。まさか、こんな手に出るとは思いませんでした。」
抱き締めてそう言われて、嬉しくて僕も抱き締め返した。
「僕はあの日、アルゼトを失った日、アルゼトともう一度会いたくて生きたんだ。その可能性に縋り付いて、漸く手にした君を手放す事なんて出来ないよ。」
見つめてくるのはオレンジ色の瞳。
感情が昂ると色が濃くなり緋色が混じり、炎の様に揺らめく綺麗な瞳。
神獣ビテフノラスを従神にする事で、オレンジの瞳が少し緋色に近くなったと言っていた。
ますますアルゼトの瞳が綺麗に見えて、僕は気に入ってると教えると、ちょっと嬉しそうに笑っていた。
「カシューゼネ様が夫を迎えられれば、傀儡にするところでした。貴方にも、俺にも逆らえないように。」
カシューゼネは目を見開き、ふふと笑った。
「可哀想な夫を作らなくて良かったよ。」
僕がアルゼトに寄り添うと、アルゼトは優しく抱きしめ返す。
「俺達の腕輪、大事に宝箱に入れませんか?」
腕輪はもう擦り切れていつ壊れてもおかしくなかった。
「そうだね、次はちゃんと君の瞳にそっくりな宝石を探すよ。」
「そこは俺に贈らせて下さい。」
僕達は笑いながら見つめあう。
落とされる口付けに、僕はアルゼトの首に腕を絡めて、深く深く、舌を絡めた。
僕は僕という別の人格の記憶はもう薄れて殆どない。
誰かとこの小説の話をしていた筈だけど、あれは誰だったのだろう。
でもそれは瑣末な事。
僕はアルゼトという唯一を手に入れたのだから。
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