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12 可憐なジュリテア

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 ジュリテアにとって双子の兄カシューゼネは超えられない人だった。
 とても珍しい『全属性』という加護。
 頭もよく、剣の稽古も難なくこなす。
 ジュリテアの『祈り』も稀有なのだからと言われたが、兄程優れた人はいなかった。

 本当に同じ顔をしているのかと、何度も鏡を見返しては、ジュリテアは溜息をついて育った。
 自信の無い弱い眼差し。
 カシューゼネ兄様の様に輝きたい。
 そう思っても、ジュリテアの能力は大した事なかった。

 カシューゼネ兄様の婚約者ヒュートリエ様も、同じ様な悩みを抱えていると知った時、ジュリテアは心から震えた。
 カシューゼネ兄様はこんなに素晴らしい人にさえ、畏敬の念を抱かせ嫉妬させる。
 同じ血が流れているのに、この違いに自分自身も嫉妬しているのに、何処か誇らしい気持ちになった。
 まるで自分が上に立ったかと錯覚したように、ヒュートリエ様を慰める。
 いつしかヒュートリエ様はジュリテアの1番の理解者になっていた。

 幼馴染のラダフィムは1つしか年が違わないとは思えない程逞しい少年だった。
 いつも隣にいて、望まれてジュリテアは婚約者になっていた。
 ツベリアーレ公爵家の跡取りはどうするのかとカシューゼネ兄様は騒いでいたけど、ヒュートリエ王太子殿下と婚約している兄様は跡を継げないので、ツベリアーレ公爵家は残った僕が継ぐ事になる。
 そんなのは無理だと思った。
 頭が良く行動力のあるカシューゼネ兄様ならともかく、僕が公爵家という大貴族の跡を継げるわけがない。
 だからウェナセル公爵家の跡取りであるラダフィムと婚約し、跡を継がなくても良いと言われた時は、ホッとした。
 ツベリアーレ公爵家は分家から能力のある子を引き取って継いでもらうという話になった。

 カシューゼネ兄様は未来の王太子妃、ゆくゆくは王妃としての教育が大変な様だった。
 毎日教師が来て勉強漬け。
 空いた時間は剣の稽古や体力作りに余念がなかった。
 
 そんな兄様はたまにイライラしては、僕の育てた花達を散らして憂さ晴らしをしていた。
 綺麗に咲いた花や蕾を、玄関や廊下など人の目につく場所に飾っていれば、カシューゼネ兄様は僕の事を呑気だと罵った。
 
 優しく笑ってくれる人は好き。
 怒る人は苦手。
 僕はカシューゼネ兄様と仲良くなりたいのに、上手くいかずによく泣いた。
 そんな時はヒュートリエ様やラダフィムが慰めてくれた。
 侍従のナギゼアもよく美味しいお茶を淹れてくれて、僕の悲しい心を癒してくれた。

 僕は皆んなから愛されるのが嬉しかった。
 どうやれば愛されるだろう?
 どうやれば好かれるだろうと毎日考えた。
 
 カシューゼネ兄様が専任従者にナギゼアを希望しているらしくて、僕もナギゼアを希望した。僕達2人が同じ人間を希望するものだから、ナギゼアとアルゼトの侍従の仕事はどっち就かずになっていた。

 アルゼトは少し苦手だった。
 カシューゼネ兄様がナギゼアを取っていくから、必然的にアルゼトが僕に付いて学院に通ったけど、無愛想で笑わないから少し怖かった。
 でも勉強はよくみてくれた。授業でボーとしてて突然先生から当てられても、そっと答えを教えてくれるし、出された課題も一緒にやってくれる。
 調べ物が必要な物は先に資料も揃えてくれる。
 なにも頼まなくても、先に全てやってくれるアルゼトには助かっていた。
 それに気付いたのは15歳の加護を貰った後だったけど…。

 『神の愛し子』という加護を授かってから、僕の周りは一気に変わった。
 
 今までカシューゼネ兄様の方にいた人達は、皆んな僕の方を向く様になった。
 ヒュートリエ様は僕の婚約者になるし、カシューゼネ兄様が何故かアルゼトがいいと言うから、僕にはナギゼアが専任従者になった。
 婚約解消してしまったけど、ラダフィムも僕の事が好きだからと、僕の事を可愛がってくれる。
 ウェナセル公爵家の意向でカシューゼネ兄様に婚約打診したけど、断られたから婚約者は立てずに、浄化の旅が終わるまで側にいて守ってくれると言ってくれた。
 僕の大好きな人達が僕の周りに集まってくれる。
 新しい学院では、僕は皆んなから挨拶をされて好かれている。
 ここにきて僕は漸くアルゼトの存在の大切さを身に沁みて痛感した。
 今迄アルゼトは僕が言う前に…、というより思いつく前に全てやってくれていたので、僕は自分の勉強が疎かになっていると思い知らされた。
 課題もテスト勉強も全部アルゼト任せ。
 次どこに行くのかもアルゼト任せだった。
 ナギゼアが折角僕の側に来てくれたのに、僕は恥ずかしい主人になりたくなかった。
 だから僕はヒュートリエ様に泣きついて、アルゼトを僕の側に置いて欲しいと頼んだ。
 ヒュートリエ様は僕の恥ずかしい無能さを笑う事なく頷いて微笑んでくれた。
 
 カシューゼネ兄様の所に行っていたアルゼトは、僕の専任従者になった。
 ナギゼアは結果的にカシューゼネ兄様付き専任従者になったけど、数日もしたら僕の方がいいと戻ってきた。

 僕の周りにはヒュートリエ様、ラダフィム、ナギゼア、アルゼトがいて、僕は幸せだ。
 でもアルゼトは真面目なのかたまにカシューゼネ兄様の世話もしている様だった。
 態々休みの日にカシューゼネ兄様を世話するなんて、アルゼトの優しさを実感した。
 ヒュートリエ様にそう言ったら、カシューゼネが我儘を言ってさせているんだろうと言っていた。

 兄様は確かに我儘なところがある。
 僕もそれでよく困っていた。
 ヒュートリエ様が小さな頃から慰めてくれるし、お出かけもプレゼントも兄様と分け隔てなくしてくれるけど、花壇を荒らされる度に悲しかった。
 きっとアルゼトは嫌々やってるんだろうと思って、アルゼトに嫌なら嫌って言っていいよと言った。

「いえ、自分の意思でやっておりますので。」

 そう言われてお終いだった。
 アルゼトはカシューゼネ兄様の我儘に付き合っているのに、人の所為にせずに頑張る人なんだなと、アルゼトの人の良さに共感した。


 浄化の旅はとても大変だ。
 まず戦場というモノを初めて実感して、僕はヒュートリエ様達に守ってもらいながら、なんとか『祈り』の加護でやり切る事が出来た。
 その間もカシューゼネ兄様は血まみれになって魔物を退治していて、僕は兄様の凄さを感じていた。
 ヒュートリエ様達はカシューゼネ兄様の血まみれの格好を見て、臭いと言って顔を顰めていたけど、僕は兄様を尊敬している。
 兄様と一緒に前線に出た騎士達は、兄様の悪口を言わなくなった。
 畏怖と尊敬。
 兄様を見る目にそんな感情が見えた。
 僕もそんな風に見られたい。
 兄様は凄いけれども、『神の愛し子』である僕をもっと騎士達に理解して貰いたいと思った。


 3回目の旅で兄様が傷だらけになった。
 僕は真ん中で護られて、最後に浄化をするだけで感謝されるのに、兄様は僕に膝を折る。
 僕が悲しんで泣くと、ヒュートリエ様達は兄様の顔を隠してしまった。
 
 兄様は反抗する事もなく頭巾を被り続ける。

 あの兄様が………。

 最近の兄様は大人しい。
 以前だったら直ぐに怒鳴っていたところも、ずっと無言。
 そのうち兄様は魔物を倒し過ぎて呪われているのだろうと噂されていた。
 僕は15歳の加護を授かった日から、兄様と碌に話しをしていない。
 挨拶程度。
 今はもう頭巾越し。
 本当に呪われてるのだろうか?
 ヒュートリエ様もラダフィムもナギゼアも、顔は見ていないから分からないという。
 兄様が僕の側に来てあの頭巾を脱いでくれないだろうか?
 僕にだけ、見せて欲しい。
 

 僕は浄化以外にも治癒も出来る筈だと神殿から言われて、神官長様と治癒の練習をする事になった。
 治癒も『祈り』の加護の1部なのだという。

 神官長シューニエ様は白髪の長い髪、ライムレモンの瞳の物静かな人だ。トゥワーレレ神殿の神官長をされている。
 僕達双子の加護の神託を行ってくれたらしいけど、あの日の僕は興奮していて覚えていなかった。
 0歳で『清涼』、15歳で『神の言葉を告げる者』という加護を授かって、ずっと神殿でお勤めをしているんだって教えてくれた。
 僕が『神の愛し子』で良かったと言ってくれた。
 カシューゼネ兄様の我儘な噂を知っていたらしく、選ばれたのが僕で良かったのだと微笑んでくれる。
 カシューゼネ兄様よりも認められた様で、とても嬉しかった。

 神官長が来たら花の庭園でお茶をしながら加護の練習。
 それが日課になっていた。
 練習が終わったらシューニエ様は優しくキスをしてくれる。
 とっても柔らかくて気持ちの良いキスだ。
 
 僕を好きだと言ってくれる人は、僕によくキスをしたり抱きしめたりしてくるから、僕は何の疑いもなくキスしてしまっていた。

 それをヒュートリエ様に見られるまで、ずっと続いていた。

「君は誰にでも身体を開いてしまうんだね。」

 ある日そう言ったヒュートリエ様は、変な顔をしていた。
 よく分からないけど、笑ってるけど、固いような、変な顔。

「僕は、僕を愛してくれる人は皆んな大切なのです。ダメでしょうか?」

 ヒュートリエ様はダメではないと言ってくれた。
 でも変な顔をしていた。

 お仕置きだと言ってお尻を叩かれたのはこの日から。
 僕の白いお尻を可愛いと撫でて、パシンッと叩かれた。
 パシンッ、パシンッ、パシンッ!

「あ、ぁぁっ……んん、あ、……だめぇ…。」

 最初は痛かったのに、ジンジンするお尻は日を経つごとに気持ちよくなっていった。
 
「ジュリテアは叩かれて気持ちよくなるんだね………。いけない子だ。」

 そのうち気持ち良くなる鞭を用意しようと言われた。
 僕は期待に下腹部がウズウズして、はしたなく透明な液をダラダラと垂らして頷いた。
 
 ヒュートリエ様はお仕置きしてから気持ち良くしてくれる。
 ラダフィムは力強く、強引に快感を植え付けてくれる。
 ナギゼアは誘ってもしてくれないけど、いつも優しく僕の世話をしてくれる。
 シューニエ神官長はゆっくりと包み込む様に抱いてくれる。
 皆んな皆んな僕に夢中になってくれる素敵な人達。

 アルゼトもしよう?って言ってみたけど、アルゼトは少し考えて、静かに断ってきた。
 僕は『神の愛し子』だから、自分には分布不相応ですっていうんだ。なんて真面目なんだろう!
 アルゼトは僕の側にはナギゼアがいるから、カシューゼネ兄様の専任になりたいと言ってくるくらい真面目な人だ。
 そんな事気にしなくて良いのに…。
 いつまでカシューゼネ兄様の近くにいるつもりだろう?
 最近のアルゼトは兄様に近過ぎる。


「あぁ、シューニエさまぁ………。」

 はぁはぁと僕は喘ぎながらシューニエ様の上に股がる。
 シューニエ様の穏やかな顔に似合わない猛々しい陰茎を、僕は気持ち良くなって欲しくて深く後孔に咥え込む。

「あ、あ、んぁあ、はぁ……、あっ、きもち、ぃ………。」

「ああ、ジュリテア様……。なんて可愛いのでしょう。貴方は『神の愛し子』であるのに淫らで美しい。他に目移りする人間の気が知れません。」

 目移り?
 気持ち良さに喘ぎながら、僕は考える。
 その言い方だと、ヒュートリエ様達は誰かに懸想している?

 僕はシューニエ様に激しく突いてとお願いして、中で果ててもらった。
 中に広がる熱い熱が気持ち良い。

 誰が、誰に懸想してるの?
 僕はシューニエ様に質問した。
 カシューゼネ兄様に?
 あの3人が?
 3人とも暴力紛いで襲ってるんだって教えてくれた。
 身体を繋いだのはラダフィムだけだけど、この先わかりませんねと嬉しそうにシューニエ様はお喋りをする。

 皆んなカシューゼネ兄様が同じ顔をしてるから混乱してないかな?
 僕は心配になった。
 あの3人をじゃないよ?
 アルゼトだけじゃなくて、ヒュートリエ様達まで!
 僕は『神の愛し子の盾』であるカシューゼネ兄様に今後どうして貰うべきか考えた。
 カシューゼネ兄様は僕のものなのに。
 僕だって仲良くしたいのに。


 兄様に近付く者は、排除しないと…。

























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