いつも眠たい翠君は。

黄金 

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19 佐々成家

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 結良の話を聞いて、皆絶句した。
 今は夏休み、結良の実家は都心部から離れた小高い丘の上にある。低層マンションで一戸一戸が広い作りのマンションだ。日当たりが良く各階に独自の庭を持っている。佐々成家はマンションなのに庭に木が植えられ、リビングの大きな掃き出し窓を開放すれば、庭とリビングが一体になりとても広い。リビング自体も広いので、今日集まった人数でも狭苦しくなく話し合いが出来た。
 集まったのは本人の結良と、一緒に来た流雨と斎。
 その両親達の佐々成高良・春乃夫夫、古賀橙利・翠夫夫、林野律・秋穂夫夫、そして古賀家の長男優雨がいた。
 
「その……チョーカーはその彼しか外せなくなったのか?」

 青い顔で父である高良が確認する。
 ニコニコと結良は頷いた。
 本人はとても幸せそうだが、周りは不安しかない。よく分かりもしないアルファに結良の未来が握られているのだ。
 
「バース専門医で確か外せるんじゃなかったか?かなり内容を確認されるが。」

 そう冷静に判断するのはこの中でも一番実力者の古賀橙利だ。

「やだっ!外さないからね!」

 そんな彼相手でも子供達は昔から知る単なるよく知るおじさんだ。結良は拒否した。
 このメンバーで集まったのは、結良から世間話の様に恋バナを聞かされた流雨と斎が、判断に困って親に相談したからだ。一旦本人交えて集まろうという事になり、急遽佐々成家へ集まっていた。
 
「とりあえずその志岐要のデータを皆んなに送ったからそれぞれ確認してね。」

 林野律が以前斎に頼まれて調べたデータとその後の追跡データを含んで、皆んなが所有するアドレスへ送っておく。

「えっ、俺の時も送ってくれたら態々家に戻る必要なかったんじゃ!?」

 今更ながらに気付いて斎が文句を言った。

「馬鹿だなぁ~心配だから来させたんだよ。」

 秋穂の言い分に恨めしそうに見る顔は、アルファと言えどまだまだ子供だ。

「春乃さん、どうするの?」

 翠が心配気に親である春乃に尋ねる。お互い子供達は一緒に育てて来た様なものである。誰の子供であろうと心配だ。

「うーん……、いいんじゃない?本人嬉しそうだし。」

 皆んなの心配をよそに、生みの親は呑気にそう言った。

「いいのか。」

 橙利の確認に、春乃はうんと頷く。

「いいんじゃないかなぁ……、ね?」

 春乃は横に座る高良を見上げて、ね?と首を傾げて同意を求めた。
 同意を求められ、先程まで心配そうにしていた顔は一瞬で、そうなのかな?という顔になる。
 高良は一つ年上の春乃の尻に敷かれ気味だ。春乃が何処か浮世離れした能天気さがあるので、一緒にいると危機感が薄れる様だ。

「えっと、僕は要を運命と思うんだ。だから一緒になりたい!」

 その血を受け継ぐ結良も少しズレてはいる。美しい見た目も相待って、それすら許されている。

「………って感じで最初からずっとこう主張してるんです。それで、そんな不安定な場所に行かせるわけにもいかないので、皆んなに協力してもらえないかなっと思って………。」

 本日一番の要求を、流雨が大人組に伝えた。子供の自分達では手に余るからだ。

「だったら佐々成家からの助力がいいんじゃないか?そのうち親戚になるんだし。こちらもそれとなく手を回そう。」

 橙利が長男優雨へ目で指示を出す。
 優雨も微笑んで頷いた。このそっくりな親子はやる事も似ている。
 流雨はホッと息を吐いた。
 これで上手くいくだろう。
 志岐家の命運はこれで決まったも同然だった。





 話し合いも終わり、大人達は飲むつもりの様だ。今回騒がせた結良にツマミを作れと命令している。

「そんないっぺんに作れないよ~。」

 泣き言を言いながら奥へ引っ込んでいった。一緒に春乃さんが飲む用意をしについて行く。

「ただいま~~~。」

 甲高い澄んだ声が玄関から聞こえてきた。
 優雨兄さん、僕、斎と共にで迎えに出ると、靴を抜いでいた声の主がパァッと笑顔になった。
 
「お帰り、常良(つねよし)、昊良(そら)。」

「お久しぶりです。流雨兄さん、斎兄さん、………優雨兄さんっ!」

 帰ってきたのは佐々成家の長男と三男だ。古賀家の次男、時雨兄さんと林野家の長女響姉さんと同い年の常良兄さんと、僕より五歳歳下の佐々成家の三男昊良だ。
 常良兄さんは高良さんに見た目は似ていて体格が良く男らしいが、性格は物静かなタイプだ。昊良は春乃さんや結良の様に大きな吊り目が可愛い綺麗系。まだ小学五年生だ。今日は学校の寮に常良兄さんが迎えにいっていた。夏休みに入るので暫く帰省する事になっている。
 
 昊良は一番歳が離れた優雨兄さんが大好きだ。抱きついている。
 常良は用は済んだとばかりにさっさと自室に戻ってしまった。

「相変わらずだなぁ。」

 昊良の顔は春乃さん譲りだが、身長は高い。既に高校生の僕と並んでいる。

「へへ、そういう流雨兄さんと斎兄さんも相変わらずでしょ?無茶苦茶匂いつけられてるくせに~。」

 え!?

「そうだな。もう少し控えめでもいいんじゃないか?」

 優雨兄さんにも言われた。
 
「匂いってもしかして………。」

「斎兄さんのマーキングでしょ?それ。」

「…………。」






 ぎゃーぎゃーと騒がしい流雨と斎を廊下に置いて、昊良は優雨をリビングの外へ誘った。張り出した屋根の下には竹製のソファが置かれている。
 飲み出した大人達に挨拶をしながら、クッションを二つとり、竹製のソファへ並べた。

「優雨兄さん、お喋りしようよ。」

 優雨を先に座らせ、逃げられない様に優雨の膝に座る。
 ソファは一人掛け用で丸い背もたれは上背よりあるので、座ってしまえば背後のリビングから見えない。

「優雨兄さん酷いよ。最近会ってくれない。」

 子供らしく昊良は文句を言った。
 優雨は困った顔で目を伏せたので、昊良は優雨の顔を覗き込んだ。

「逃げないでよ。」

 子供とは思えない力強い声。
 変声期前の高い声なのに、籠る力に優雨は息を呑んだ。
 優雨と昊良の年齢差は十歳。しかも昊良のバース性はまだハッキリとしていない。なのにアルファの優雨は既に昊良にやり込められようとしている。
 もう直ぐ夕方になろうという時間だが、まだまだ空は明るく、背もたれにもたれ掛かる優雨に、覆い被さる昊良の影が落ちる。
 昊良の目に宿るのは獲物を捉える捕食者のもの。
 まだ十一歳なのに、まだまだ子供なのに、動けない手足に優雨の顔色は悪い。

「………逃げ、て、無いよ。」

 なんとか弁解をする。こんな、子供に何故言い訳をする必要があるのか、自分でも分からない。分からないが、昊良の機嫌を損ねれば、自分が不利だという事だけは感じた。

 昊良の優雨に対する執着は年々酷くなる。
 最初はやけに懐いてくるなと思う程度だった。後をついて周り、こうやって集まる時はいつも膝の上に乗ってきた。十も下の子供のやる事だからと、気にせずにいたのが悪かったのか。気付けば昊良の執着は優雨一人に向いてしまっていた。
 昊良はアルファなんだろうと思う。この一人に対する執着はアルファという性にありがちだ。だが、対象が同じ同性のアルファというのはおかしいんじゃ無いか?
 流石に今は小学生なので此方の生活圏に入ってこれないが、これが十年後になれば確実に逃げられなくなるんじゃ無いか?
 そもそも十年後も同じ様に執着し続けるものなんだろうか………。
 優雨はまだ誰かを好きになった事も、勿論誰かに執着した事もない。
 だから昊良の事を図りかねていた。
 兄弟では無いが、ほぼ身内な存在の為、赤の他人にやる様に遠慮なく排除するという訳にもいかない。
 たまに会うとこうやって引っ付いてくる昊良の相手をなんとかやっているが、それも最近は昊良の雰囲気にのまれ、いいように流されている状態だ。

「…………ふぅーん、そうかな?じゃあ、この前の続きしましょう。」

 ……この、前……。

 最後に会ったのは五月の連休。
 高校生組は帰ってこない。親はちょうど仕事。昊良から電話があり、誰もいなくて寂しいから遊んでと掛かってきた。
 そんな性格でも無いだろうに、と思いながらも、無視も出来ずに遊びにきた。
 リビングのソファでテレビを見ながらお昼ご飯を食べて、昊良が今の様に膝に乗ってきた。
 キスをしよう。
 なんでも無いことの様に、唇を合わせてきたのだ。
 執着されているとは思っていたが、まさか性の対象にされているとまでは思っておらず、驚いて固まった。
 唇を合わせ「うーん難しいですね。教えて下さい。」と言われて、何故か教えてしまった。
 今まで誰かとキスをして興奮する事も無かったのに、柔らかな子供の唇に心臓が高鳴っていた。
 
 丸い背もたれの後ろでは、大人達が笑いながらお喋りをしている。
 誰かに覗かれたら見つかってしまう。
 相手は昊良で、まだ小学生で、子供だ。
 何が興奮材料になっているのか分からないが、昊良の舌が入り、お互いの舌を擦り合わせて唾液が混じると、息が上がり吐息が溢れる。
 昊良は優雨の髪に手を埋めて、柔らかな薄茶色の髪の感触を味わいながら、唇を合わせてくる。
 
「………ん、……んぢゅ………ぁはぁ。」

「ふふ、静かに喘がないとバレちゃうよ。」
 
 目を三日月の様に細めて、教えた通り以上のキスをしてくる。
 なんで、こんな子供に………。

「優雨兄さんはどっかのオメガと番ったりしないでね?」

 その瞳はどす暗く、いもしない番に対して嫉妬していた。
 もし番でもすれば、相手のオメガはこの世からいなくなるかもしれない。
 
 それなのに……何故か逆らえない。
 
「優雨兄さん、俺が大人になるまで待っててね?」

 そう言って何度も何度もキスをしてきた。
 高校生組が晩御飯を用意し、遠くからご飯だよーと呼ばれるまで、優雨は動けずにいた。
 手を引かれて歩きながら、震える足腰がバレない様に歩く優雨を、昊良は嬉しそうに笑っていた。












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