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番外編
66 見上げる景色
しおりを挟むふわっと風が流れ、金色の髪が流れた。緩く巻き上げては弄ぶ風は、比翔のまだ幼い身体に纏わりついてくる。
琥珀の瞳は空を流れる雲をずっと追っていた。
差し込む太陽の光がカーテンとなり、比翔の下まで流れてきて暖かい熱で身体を温めてくれた。
飛んできた小虫をパタパタと耳が叩いて追い払う。
その耳の間を細く繊細な手がゆっくりと撫でた。
見上げると同じ色の瞳が優しく見下ろしている。
濡羽色の髪と耳は太陽を背にして美しい艶を作っていた。
九つの尻尾は黒から金に変わる珍しい色。
卵の中でずっと「可愛い、可愛い、僕の子。」と話し掛けられ続け、生まれてからもその愛情は深い。
「比翔にも前の記憶があるのでしょう?僕も珀奥の時の記憶はしっかり残っています。ですが、前は前、今は今なのです。今の比翔が一番です。今の比翔が感じる事が本物なのです。僕は比翔の親なのですから、沢山甘えて下さいね。勿論、那々瓊にもですよ。」
呂佳達が持ち帰った比翔の卵は緑色だったが、二人の両親の神力がたっぷりと注がれて、中から出てきたのは金の髪に呂佳譲りの琥珀の瞳を持つ狐獣人の子供だった。
大きな目がキョトンと二人を見上げる姿に、生まれる瞬間に立ち会った面々は悶絶した。
何より煩かったのは万歩と雪代の子供達だった。
呂佳と那々瓊はずっと二人で過ごしていた為、比翔が第一子だったのだが、早々と玄武愛翔を授かった二人は、その後次々と子供を増やしていった。
ワチャワチャと愛翔を含めて十二人の子供達がその場に立会い、親である呂佳達を差し置いて、割れた卵から出てきた比翔を取り囲み騒ぐ始末だった。
比翔は生まれて暫くして話せるようになると、自分も玄武の地の為に何かしたいと要望を出してみた。
だがそれは呂佳に却下された。
比翔は元神獣であった所為か成長が緩やかだった。
なかなか神力が安定せず、身体も成長が遅い。
比翔は自分が玄武だった頃は、この状態でも玄武として統治していたから大丈夫と主張したが、心配性の呂佳は許さなかった。
もう一人の親である那々瓊が、じゃあたまに遊びに行けばいいよと言って、それくらいならと漸くお許しが出て、玄武領に遊びに行けるようになった時には、次代玄武愛翔は玄武として妖魔を倒し玄武の地を広げながら仕事をしているようになっていた。
申し訳なさそうにする比翔に、呂佳は「もう少し成人したなと感じるくらい成長したら、お手伝いしたらいいんですよ。」と優しく諭した。
比翔は初めて親の優しさを知った。
決して前の親が嫌いだったわけでは無い。
ただ関わりが浅く、二人は上手くいっていなかった所為か、あまり理解出来なかった。
なので呂佳と那々瓊の愛情はとてもくすぐったく、心がジワジワとする。
今も頭を撫でる手が優しくて、比翔は恥ずかしくて見上げていた目を伏せた。
比翔を挟んで呂佳の反対側に立っていた麒麟那々瓊が、その様子にフッと笑った。
「比翔は今幸せ?」
比翔の尻尾は金色のフカフカの尻尾だ。
那々瓊はこの尻尾も大好きだ。那々瓊は獣の王麒麟であるから生まれてくる子は狐に限らず色んな種族であってもおかしく無いのに、那々瓊の希望通り金色の狐が出てきて、那々瓊は大喜びした。
那々瓊の大きな手が比翔の子供らしい柔らかな耳をクニクニと弄り出す。
それにも比翔はくすぐったそうに顔に笑みを浮かべながら、うん、と返事した。
遠くでは大きな池のような水溜りで泥だらけになって遊ぶ狐獣人達と狼獣人達がぎゃーぎゃーと遊んでいる。
基本彼等の容姿は美しく毛色は白っぽい。万歩と雪代の子供達で、揃いも揃って身体を動かすのが好きな家族だった。
二親は怒るのに疲れたのか近くで服を汚されて、諦めて眺めている。
子供達はほぼ皆成人済みなのだが、遊びにも容赦がなかった。
子供達は大人しい比翔を構うのが大好きだった。
大人だった記憶のある比翔はこれにいつも振り回されて困っている。
彼等は異常に比翔に構ってくるのだ。
玄武愛翔がそれに混ざることもあり、十二人の怪獣を相手にしている気分になってくる。
「比翔、呼ばれてますよ?」
揶揄い混じりで呂佳に言われ、比翔はぷっと頬を膨らませた。
現在比翔の身体は見た目が七歳程度。相手にするのは疲れるのだ。
プルプルと首を振って那々瓊の長衣を掴んでたっぷりとした生地の中に隠れると、那々瓊はすごぶる喜んだ。
比翔の上では甘やかしすぎだと呂佳に言われ、那々瓊も負けじと呂佳の方が甘いでしょと言い返している。
頭の上で戯れ合う両親に挟まれて、比翔はまた空を見上げて微笑んだ。
自分の視界の中には優しい両親と大好きな光のカーテンと雲と青空と、花畑の優しい匂いがする。
なんて幸せなんだろうと、静かに微笑んだ。
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