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53 銀狼と白狐②

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 雪代の肩に万歩が着ていた官服の上着が掛けられた。
 肩幅も広く袖も長い。
 
 太陽と外の匂い。
 万歩の匂いがする…。
 
 上着の背中は広かった。狐の種族より狼の方が体格は大きい。
 万歩はまだ成長途中に関わらず既に雪代より大きいのだ。
 ついこの間まで俺より小さかったくせに。
 でも悔しいという気持ちは湧かない。
 万歩が大きくなってかっこよくなってくると、雪代の心はザワザワする様になった。
 雪代を引く手も大きく力強い。
 スタスタと歩く歩幅が違うのか、雪代は少し小走りだ。
 漸く自分達の自室に辿り着く。
 伴侶なのだからという説明で、ずっと一緒に寝起きしていた。

「ごめん、もう昼だったか?探した?」

 何やら万歩が怒っている気がして、とりあえず謝る。
 部屋に入り扉が閉まると鍵が掛かった。
 何で鍵?
 
「いや、呼びに来てくれたから真っ直ぐ行った。それより、雪代はよくああやって誘われるの?」

 応龍隊には様々な種族が来る。
 応募に対して希望者も多いので、それなりに体格のいい力の強い者が選抜で残り、先程の新米達でもそれなりに強い。そして皆、体格もいい。
 細身の雪代が囲まれ腕を掴まれて引かれていきそうになる姿を見て、カッとなり吹き飛ばしてしまった。
 
「ん?まぁ、そーだな?でもあんまり飲みにとかついてった事ない。なんかベタベタされるから嫌なんだよ。」

「ベタベタ………。」

 万歩の表情が強張った。雪代は綺麗だ。顔は勿論だが、金茶の瞳はキラキラと生命に溢れ、金茶混じりの白毛は透き通るように美しい。しなやかな身体は程よく筋肉はついているものの細くたおやかに見える。
 黙って立っていれば、中身がこんなに荒いなんて分からない容姿なのだ。
 さっきだって汗をかいて服はやや透けて色っぽいのに、本人は無自覚。
 普通なら汗臭くなる筈なのに、なんでかいい匂いがして人を惹きつけている。
 
 俺のものなのに!
 
 脳裏にはその言葉が渦巻いていた。
 意識の無かった雪代とほぼ強制的に伴侶の契約をしてしまった恨めたさから、強気に出るのを躊躇っていた。
 なにしろ万歩はまだ十五歳を過ぎたばかり。漸く成人したのだ。
 頑張って家族の大黒柱になる為に、天凪様に仕事をさせてもらえるよう頼んだ。
 雪代にお前と伴侶になるのなんか嫌だったと言われたくなくて、早く一人前になりたかった。
 雪代は五つ歳上なのだ。
 子供に見られたく無いという思いもある。
 
 万歩は俯き雪代の手を両手で握った。
 
「こういうのは、イヤ?」

 雪代は自分が触ってもイヤなのだろうか?ベタベタしていると思う?
 雪代は何故か無言だった。

「………………。」

「………………?」

 なんで返事がないんだろうと上を向く。
 雪代の顔は赤かった。

「………………。」

 そういえば前に雪代の神力を試しに貰った時も顔が赤かった。あの時は神力甘くて美味しいなぁとか、抱き締められて恥ずかしがってるなぁとか思っていた。
 手を繋いだだけでこんなに顔が赤くなる…?
 万歩は伊織だった時のことを思い出す。
 付き合ってくれと言われて簡単に付き合っていた女の子達。教室や廊下で手を繋ぐと顔を赤らめて嬉しそうに笑っていた。

 雪代の手を引っ張り抱き締める。
 肩に掛けていた万歩の上着が落ちた。
 雪代の金茶混じりの白耳はプルプルと震えてへにょっとなっていた。顔は赤らみ唇もフルフルと揺れている。

「…………………、雪代。」 

 名前を呼ぶとビクゥと飛び上がった。
 緊張している?俺に?
 頬に手を添え、顎に指を掛けて上向かせる。
 我ながら手慣れてるなーと思ってしまうが、ここはきちんと確認しておかないと!

「雪代、俺は雪代の事が好き。伴侶になれて嬉しい。雪代は?」
 
 上向かせて視線を合わせてハッキリと尋ねる。
 雪代の金茶の瞳がふわっと金になる。
 多分興奮して神力が溢れている。
 一度視線は合ったが、恥ずかしそうに伏せられ視線が外された。

「雪代?」

 もう一度念押しで尋ねる。

「ちゃんと言って欲しい。俺と伴侶になるの嫌だった?」

 態と声のトーンを落とした。
 これは駆け引きだ。
 なんとしてでもここで良い返事を貰いたい。

「!そ、そんなわけ、……ない……………。………俺も嬉しいし。」

 尻すぼみで小さく肯定の言葉が出てくる。
 万歩は心の中でガッツポーズを作った。
 だけどここは我慢。
 完全勝利を目指さないと。

「じゃあ、好き?」

 雪代は真っ赤な顔でオロオロとしていたが、コクンと頷いた。

「好きだよ。」

 万歩はニンマリと笑った。
 嬉し過ぎて我慢出来ない。

 雪代の手を引いて寝室に向かう。
 雪代はよく分からない顔で大人しくついて来ていた。
 向かいながら心話を使う。
 今日は天凪様の所に永然様が来る予定だった。

『永然様、今から結婚休暇下さい。お祝いに。』

『結婚…?ああ、異界の言葉か。伴侶になる事だな?別に構わない。』

『とりあえず明日も、いや三日くらい?』

『……………何をするつもりだ?いや、何となく理解した。結界を張ってくれ。近いから天凪に筒抜けになる。』

『うわ、了解でーす。』

 心話を切った。
 食事などは自分で調達しよう。
 万歩はご機嫌で雪代を押し倒した。
 雪代の金茶色の瞳が大きく見開かれている。何となく察したらしい。

「え?えぇ?おれ、やり方知らない!」

「大丈夫。俺が知ってる。」

 え?なんで?と雪代は目を丸くして驚いている。万歩の経験は伊織の時のものだが、愛撫に関しては経験が活かせると思う。ただ男同士は未経験。アナルもない。
 
「一応異界の時に経験あるから。でもさー、俺驚いたんだ。」

「え?経験?あるのか?んんっ!」

 首筋に舌を這わせながら話し続ける。
 シミひとつない綺麗な首筋だ。滑らかでいい匂いがする。

「こっちって卵で子供生むじゃん?向こうは女性の腹で赤ちゃん出来るんだけどさ、その過程で濡れるんだけど、こっちの人って子宮を使わないから退化して濡れないらしいな。」

 雪代は何のことだかさっぱり分からなかった。

「へ?濡れる?何が?」

「んー、ここ。」

 キュッと雪代の股全体を陰嚢込みで掴むと、雪代はギャッと小さく叫んだ。

「不思議。男性は精子出るのに、女性のそこの機能は無くなるんだぜ?男は出したがるのに、女は無駄はやらないって捨てたって事だろ。女ってすげーと思わねぇ?あ、でもだから鳥人は朱雀が産むことになってんのか?神力で濡れるって感じで。ははっ、すげーな!」

 雪代はずっと変な顔をしている。
 何を言ってるのか理解出来ないと、ありありと表情に浮かべていた。

「俺は感謝した。やっぱ出したいよな?雪代も出したいよな?」

「????」

「それにこの世界って神力あるじゃん。神力で結構回復するし体力あるし、もう夢の絶倫が試せるかもしれねーよな?」

「ぜつりんって何?」

 金茶の目がぱちぱちと瞬く。意味は分からないが、非常に下品な事を言っている気がした。

「俺の愛を受け止めて?」

 一応雪代にこの言葉は理解出来た。
 勿論万歩の事が好きなので小さく頷く。
 大きく頷かなかったのは、今の万歩の様子がちょっと怖いからだ。未知の存在に出会った気分だった。







 トントン、トントンと奥を突かれる。
 その度に自分の身体がビクビクと跳ね、快感で喘ぐのを止められなかった。
 奥の行き止まりをグリッと擦られる。

「ひんっ!あ、も、やだぁ~~~!」

 ボロボロと涙が出て泣いているのに全く止まってくれない。
 最初から未知の経験だった。
 未知の存在は未知の経験を与えてくるのだ。
 異界からくると皆んなこんななの?
 
「こぉら、なに考えてんの?俺に集中な?」

 はぁ、と成人したてとは思えない色気を含んだ声が耳元で囁かれると、背中がゾワっと痺れる。
 強弱をつけて奥を突いたり擦ったり、と思えばズルルと抜いて排泄感を与えて腰が抜けそうになる快感を与えてくる。
 ギリギリまで抜かれる感覚という初めての行為と、その次に来る快感という名の恐怖に、雪代はブルブルと震えた。
 震え過ぎて足を閉じることも、抵抗することも出来ない。
 覆い被さり見下ろしてくる万歩が怖い。でもその温かい身体が気持ちいい。
 ズロロとまた抜かれて、雪代は心で身構える。身体はもういう事を聞かない。口だって開きっぱなしで閉じる事が出来ない。

 ドスっと浅い所を押された。
 ビクンと跳ねて全身にブワワと波が起きる。

「ぅえ!?……ひゃ、ぁ、あんっ!」
 
 ドスドスと同じ所を万歩の陰茎が突いてくる。
 そうだ、最初は指でここをグリグリされて、気持ち良くて射精した。何回もされてお尻の穴が柔らかくなったと言って、万歩が自分のを漸く取り出して……………。あんまりにも自分のよりおっきいから、やだって言ったのに入れられた。
 怖いのに気持ち良くて、気持ち良いのが怖くて、優しく大丈夫って抱き締められて接吻されて、力が抜けた時に思いっきり奥まで入ってきた。
 どこを突かれても気持ち良い。
 身体の中を擦られるのがこんなに気持ち良いと知らなかった。

「……はぁ、雪代は肌も白いから真っ赤になって可愛いのな。……くっ、やば……、出そ。」

 何度か激しく奥を突かれて温かいものが広がった。もう何度目だろう。温かい感触と、万歩の神力が雪代の中を満たしていく。
 満たして混ざってぐるぐると回って万歩の中に帰っていく。
 一応雪代にも知識はある。
 神力の混ぜ合わせで伴侶になる。
 相手が少しでも嫌なら相手に神力は帰っていかない。
 後から聖苺様から一切の抵抗無かったからね、と言われてそりゃそーかもと納得した。
 だって、こっそり好きだったし。
 まさか好きって言ってもらえるなんて思ってなかったけど。

 はーーー、はーーー、と息を吐く雪代を見下ろした万歩が、優しく頭を撫でてくる。一緒に耳を揉むようにクシュリと撫でられ、ブルっと震えた。

「は~~~、その顔やばい、かわい………、神浄外やばいわ。神力バンザイ。」

 また万歩が意味の分からない事を言っている。
 抜かれずにまた動き出す万歩に、雪代はいつ終わるんだろうと意識が飛びかける。
 が、与えられる快感に起こされ、また自分の口から喘ぎ声が出て、羞恥やら何やら訳わからずに万歩にしがみついた。


 呂佳が言っていた。
 
『万歩は経験豊富ですから大丈夫だと思いますが、嫌な時は嫌だとはっきり言うのですよ?』

 お見舞いに来てくれた日の事だ。
 その時万歩はいなかった。
 何の事を言っているのか分からなかったが、これか…と今なら思える。
 
 呂佳、無理、も、言葉出ない………。
 折角の呂佳の忠告も、意味が分からなければどうしようもない。
 もっと詳しく教えてくれたら良かったのに……!
 雪代が憧れる天狐に向かって、心の中で色んな事の先輩に対して愚痴ってしまった。

 



 後日…、本当に二日経過して、雪代は起き上がれず、まだ布団に寝ている状態だった。
 万歩はついつい嬉しくてやり過ぎたと謝ってくれたが、雪代も気持ち良くて止めれなかったので怒るつもりはない。
 ただ凄く気になる事があった。

「な、呂佳が万歩は経験豊富って言ってたんだけどさ、いっぱいしてんの?」

 雪代の看病の為に椅子を近くに置いて、お茶を飲んでいた万歩の動きが止まった。
 万歩としては別に秘密の事柄でもないのだが、改めて雪代から聞かれると言いずらい。
 嫌われちゃう?と心配になる。

「ん、ある、けど……?前の異界で生きてた時の話な?」

 あの頃は呂佳が好きだけど手を出せずにモヤモヤとしていた時期だった。
 なのに若いから性欲はある。
 経験を得ると我慢が辛い。
 あの頃の彼女達は、実際伊織にとって性処理の為に付き合っていたようなものだった。
 性処理も出来て、望和にも嫌がらせが減る、という程度のもの。

 なかなかのクズだな?

「そっか、前の……。」

 そんな事とは知らない雪代は、何とも言い難い顔をしていた。

「…………嫌だった?」

 恐る恐る尋ねる。

「ん?嫌とかじゃねーけど……。ちょっとはやだなぁってのはあるけど、そーじゃなくて、俺の方が歳上なのに何だかなぁと思ってさ。」

 モニョモニョと言いにくそうに雪代は言っている。
 ちょっと嫌かぁ。呂佳に口止めしとけばよかった。あ、何人もいたよってのは知らないかも?そこは口止めしに行こ。

 そーじゃなくて…、とまだ雪代は言い出したので黙って聞いておく。ここでいらん事言って泥沼は避けねば。

「俺何も知らなくて、万歩に頼ってばかりな気がしてさー。」

 ああ、歳上なのに~って感じ?気にしなくて良いのに。寧ろ気にして欲しくない。特にセックスは。

 万歩はフッと優しく笑った。
 雪代からはキラキラと輝いて見える笑顔だ。
 チュッと頬にキスをする。

「俺に任せてくれた方が、嬉しいんだけど?」

 雪代はカァっと白い頬を桃色に染める。
 すぐ赤くなるのが可愛い。

「…う、うん……。」

 万歩はベットに腰掛け直し、雪代を抱き締めて唇を合わせる。
 うーん、甘い。
 
 今日も雪代の神力は甘くてサイコーだ。








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