転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 

文字の大きさ
上 下
42 / 66

42 呂佳の一番

しおりを挟む
 イベント終了十五分前にアナウンスが流れ始め、出展者たちはそれぞれ撤収にかかりだした。慧一は後片付けをする二人にくれぐれも逃亡しないよう念を押してから、一旦会場の外に出た。

 男性用トイレで用を足しながら何となくほっとしている。女ばかりの環境にいると、男要素が恋しくなるものだ。


 慧一は手を洗いつつ、鏡に映る自分をしげしげと眺めた。


「王子様……か」


 慧一は赤ん坊の頃から色白だった。それも、産湯につかったその時から既に白く、赤ん坊という感じではなかったらしい。

 女性の看護師に取り囲まれ、かわいがられていたと両親から聞いた。その頃からすでにモテモテだったわけだ。


 慧一には弟が一人いる。野武士のような風貌で、いかにも男くさいスポーツマンタイプである。同じ兄弟でありながら、こうまで違うのも珍しいと、周囲に言われ続けている。

 中身に関しても、兄は軟派で弟は硬派。
 弟は一途な恋をして、既にその女性と家庭を持っている。

 結婚式での仲睦まじい姿を見て、慧一はらしくもなく羨ましい気持ちになった。そんな恋人が欲しいと、ぼんやりと憧れた。

 誰にも言わない、彼の心情だ。

 幼稚園に小中高、そして大学と、彼は周りの女から崇拝とも取れる眼差しを注がれてきた。皆、勘違いしていると分かったのは、女を知った頃。

 滝口慧一は清廉な紳士で、それこそ王子様のように女性を扱うのだろう。そんなふうに彼女らは思い込んでいる――

 女のように美しい肌と、優しく見える目元が、そう思わせるらしいのだ。

 だが、慧一と付き合い、彼という人間を初めて目の当たりにした女達は揃ってがっかりし、終いには離れていった。


(俺は泥臭い人間で、どちらかというと下品かもしれない。思ったことはストレートに表現するし、相手に自惚れる暇を与えない。俺が王子様? 悪寒がするよ)


 慧一は、峰子は少しばかり違うと思った。

『モース』に登場するケイは、もちろんそのまんまではないが、ある程度自分の本質を突いていると思う。

 その辺りを聞きたい。今夜、必ず聞きたいのだ。


 慧一は鏡の前で頬を一発張ると、会場へと戻った。

 峰子を捕まえるために。
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...