71 / 255
72 昔話②
しおりを挟むそれからビィゼトは教師陣を一掃した。
新たに人選を選び直し、欲しい知識を習得していった。
出来るだけ早く公爵家当主を譲り受け、事業を全て改変してやる。ビィゼトは密かに計画を練っていった。
少しずつ味方を作ることもしたが、一番大切にしたのは弟達の世話だった。
とりあえず食事とお風呂、就寝を共にするようにした。時間があれば一緒に遊ぶようにしたが、そのうち遊ぶ為に時間を作るようになっていった。
話す時間が増えていき、ビィゼトはニンレネイがオリュガとノアトゥナと早いうちから仲が良かったのを知った。
「……そうか……、気付かずにすまなかったな。」
オリュガとノアトゥナはオメガだ。アルファのビィゼトやニンレネイよりもかなり放っておかれていたらしく、二人が屋敷の隅で過ごしていたのが気になり話し掛けたらしい。
それまでニンレネイもビィゼト同様の教育を施されていた為、最初は見下していたのだが、一緒にいるうちにオリュガの破天荒な性格に流されて、食事を改善してみたりこっそり一緒に遊んであげていたのだという。
ただニンレネイは次男だった為、屋敷でそこまで権限がない。個人的に構うくらいしかしてあげられず、なんとかビィゼトに頼めないかとずっと考えていたようだ。ビィゼトはニンレネイ達よりも両親と行動を共にすることが多く、ビィゼトの雰囲気は厳しいと感じていて、なかなか話し掛けられなかったと教えてくれた。
頭を撫でながら謝ると、ニンレネイは口をふにゃふにゃとしながら恥ずかしがっていた。
アルファのニンレネイとオメガのオリュガの性格が逆のように感じるが、ビィゼトはそれもまた弟達の魅力だろうと思い可愛がった。
ビィゼトが十歳、ニンレネイが八歳の時、ナリシュ第一王子が立太子した。それに伴い同世代のアルファの子供達が集められた。
その中にはビィゼトとニンレネイも含まれており、ガーデンパーティーと称された招待を受けて、二人は王宮で開かれるお茶会に参加していた。
主催者としてリマレシア王妃が各家と挨拶をしていたが、招待された家はリマレシア王妃と王妃の実家ロズノセムテ侯爵家と懇意にしている家ばかり集められていた。
王家を乗っ取るつもりなのがありありと見える。その中に我がノビゼル公爵家も仲間入りしていると考えると、自分の代では絶対に抜け出して見せると心に決める。
その最もな理由がリマレシア王妃にある。
「まあ、その子がノビゼル公爵家の嫡男の?」
リマレシア王妃のビィゼトを見る目がなんとなく気持ち悪く感じる。それとなくニンレネイを背中に隠した。
紹介されたナリシュ王太子殿下は利発そうな少年だった。王妃を母上と慕っているようで王族らしい微笑みで話しかけてきた。
「ナリシュ・カフィノルアだ。本日は忙しい中、参加感謝するよ。」
「ビィゼト・ノビゼルと申します。この度立太子されましたことお喜び申し上げます。」
ニンレネイと同じ歳だというが、ニンレネイよりも一回り体格は良く武芸にも秀でていそうだ。王太子としての教育も始まったばかりらしいが、理解力が高く直ぐにでも終了してしまうだろうともっぱらの噂だった。
次にニンレネイを紹介したが、微妙にリマレシア王妃から身体で隠してナリシュ王太子殿下に挨拶をさせた。
ニンレネイは大人しいが儀礼的な場が苦手なわけではない。殿下ともすんなりと挨拶は終わった。
ノビゼル公爵家は一番最初に挨拶をした為、次の家が後ろに待っていた。これ幸いとニンレネイを連れてその場を離れる。
「この時他家との挨拶でニンレネイと逸れてしまった。最近知ったがその逸れている間にノルギィ王弟殿下と会っていたらしいのだが、その時から私の可愛いニンレネイに目をつけていたとは許すまじっ……!」
そう唸るように話すビィゼト様を見ながら、レクピドはぽわぽわしていた。
身体を洗われ風呂に浸かり、上がったと思ったら隣にある暖かい一室に連れてこられ、ふかふかのクッションに座らせられた。
今ビィゼト様はレクピドの右手の爪の手入れをしていた。ハンドマッサージをされ爪を綺麗に磨かれている。なんとも気持ちが良くてレクピドはボーとしながら手を動かし話を続けているビィゼト様を見ていた。
「…………おれは、いいなぁと思います。運命みたいで羨ましい……。」
ポツリと呟いてから、驚いて見ているビィゼト様に気付いてハッとする。パッと顔を逸せてどうしようと困った。
「ニンレネイはオメガではなくアルファなんだ…。私はいずれ可愛いオメガをと思っていた。」
ムスッとした声にレクピドは恐る恐るビィゼト様を見る。その表情は自分の考えを否定されて拗ねているようだった。
初めてレクピドは歳下感を感じるなと思ってしまう。
レクピドはううーんと考える。レクピドは必ずアルファとオメガが番になるべきとは思っていない。統計的にはアルファの方が多いらしいし、アルファ同士の夫婦は存在する。だから男同士ではあるけどアルファの王弟殿下とアルファのニンレネイ様でもいいのではないかと思っている。
「………ノルギィ王弟殿下が盟約の指輪の作り直しを依頼されたんですけど、あれってニンレネイ様を縛りつける為もあるんでしょうけど、ノルギィ王弟殿下も他の人に気持ちが動かないようになるんですよね………。それは普通のオメガからしたら羨ましいと感じます。」
レクピドは考え考え話す。レクピドの手を握ったまま、ビィゼトはレクピドの話を聞いた。
「オメガからしたら、アルファは何人でも番を作れます。オメガは自分の番がいつか別の番の方に行ってしまうのではという恐怖があるんです。でも盟約の指輪はお互いだけを愛するんです。他の人に行かないんですよ。それって俺は、羨ましい………。」
そう話すレクピドは本当に羨ましそうだった。
「………………。」
「………はっ!…って、なにビィゼト様に言ってるんでしょうね!」
つい本音で話してしまいレクピドは慌てた。ビィゼト様もアルファなのに、こんなオメガ視点の話なんて聞きたくないだろうにと冷や汗をかく。嫌われたらどうしよう!?
焦るレクピドの手をビィゼトはきゅっと握った。
「お互い唯一になれるのなら、アルファ同士でもいいということか……。」
ポツリと漏らしたビィゼトの言葉にレクピドは更に焦った。
「ビ、ビィゼト様がいろんなオメガに手を出すとか思ってるわけではないからっ……!」
ビィゼトは優しく笑う。
「ああ、私は番ったらその人一人を愛するよ。」
その瞳が真っ直ぐにレクピドに向けられる。
レクピドはドクンと心臓が鳴る気がした。まるで自分に言われているような気分になってしまい、ドクドクと身体中の血管が暴れ回るようだった。
この部屋は個室で二人きりであったかくていい匂いがする。おかしな気分になりそう。
「は、は、は、はい……。あ、えと、話の続き、聞きます……。」
何をどう返せばいいのか分からずレクピドは苦しい方向転換をした。
その様子を見ていたビィゼトは小さく笑ってまたレクピドの爪を磨き始める。
「まぁ、ニンレネイはその後から呼ばれても王宮にはやらないようにしたんだが……。」
またビィゼトは話し始めた。
それから暫くは弟達三人の学習計画を立てつつ、ノビゼル公爵家の経済状況の把握と繋がりのある貴族家を調べることに費やした。
ビィゼトが十三歳、父に連れられリマレシア王妃のご機嫌伺いに訪れた時のことだ。父親は仲間内の話に盛り上がっていたのでビィゼトは情報収集の為に少し離れてその会話を静かに聞いていた。
この頃には父親は完全にビィゼトを次期後継者と認め、事業を一部任せるようになっていた。任せられた事業から徐々に改革を進めてはいるが、まだまだ力が足りない。
ビィゼトは慎重に動いていた。
ビィゼト達がいたのはリマレシア王妃が居住区にしている一角のすぐ側にある応接室だった。
廊下側に立ち大人達が話す碌でもない内容を聞いていたのだが、廊下側からなんとなく魔力の流れを感じた。
ビィゼトはこの時から魔力の気配を探るのが得意だった。だから気付いたのだが、珍しい人の荒れた気配にそっと扉を開けて廊下に出てみた。
リマレシア王妃の居住区を隔てる扉からナリシュ王太子殿下が出て来ていた。扉を守る騎士達は無表情に扉を開けて王太子を外に送り出している。
「?」
どうして王太子なのに護衛が一人もついていないのかと疑問に思った。
ニンレネイ分の王宮からの招待状は全て断るようにしていたが、ビィゼトは情報収集の為にも父親について度々王宮へ来ていた。
挨拶に向かう父親を見送り、ビィゼトは遠目からリマレシア王妃とナリシュ王太子殿下をよく見ていたのだが、いつもは警護の騎士や侍従達が並んでいたはずなのに、いまは王太子殿下一人だ。
あの大量にいた騎士と侍従はリマレシア王妃についていただけなのか?もしかして王太子には一人もいない?
そんなバカなと呆れた。
仮にも一国の王太子に?
ビィゼトは後をつけて行った。それはなんとなく勘だった。
暫く歩くと殿下は自分の部屋に着いたようだ。普通はその扉の外にも護衛騎士がいて良さそうなものなのに誰もいない。
扉を開けようとしてナリシュ王太子殿下は崩れ落ちた。
「!」
慌ててビィゼトは走り寄る。助けを呼ぶべきか!?と周りを見回したが誰もいない。とりあえず殿下を部屋に寝かせようと肩に担いで勝手に入らせてもらった。
部屋は落ち着いた感じの部屋だったが、違和感がある。
なんというか子供らしくない。
普通は自分の好みに部屋を飾ったり好きな色で統一したりしないだろうか?ビィゼトはニンレネイ達の部屋は皆自分の好きなようにさせている。
調度品は一級品だが、誰かが平均的な模様で揃えたような特徴のない部屋だった。
大きなベットに寝かせてまた違和感を感じる。
ナリシュ王太子殿下の衣服は乱れていた。ズボンのボタンも外れているし、ベストも開いている。
まるで襲われたようだ……。
そう感じてしまった。
「………いや、まさかな………。」
思わず呟く。ズボンの汚れに気付いたからだ。泣いた後もある。
ナリシュ王太子殿下は王妃の部屋から出て来た。自分の母親の部屋から出て来てこのありさま?この格好のまま部屋を出て来て、まっしぐらに自分の部屋に向かって来た。まるで逃げるように…………。
いつだったかのリマレシア王妃の目を思い出す。気持ち悪いと感じた目だ。
「自分の子供だぞ……?」
あり得るのか?王妃の不在に誰かが襲ったのかとも思ったが、ビィゼトの父親が挨拶してきたばかりだった。王妃は確かにいた。
「……………っ。」
どうする?ここで騒いでも握り潰される。ビィゼトは考えた。
いる。おそらくいるだろう。だがどこに?声を掛けて出てくるのか?いや、自分の力を使うしかない。
ビィゼトは気配を探った。相手はプロだ。それを上回らなくてはならない。
ビィゼトは護身用の短剣を懐から出した。それを壁に投げる。招待されたわけでも学友というわけでもないビィゼトが剣を抜いたのに、ソイツは助けにもこない。
「いるのは分かっている!出てこなくてもいいが話を通して欲しい。まずナリシュ王太子殿下の介抱をしてもらいたい。それから暫く我が家に滞在する許可を。」
壁の向こう側に感じた気配が消えて行った。ホッと息を吐く。
暗殺者だったらどうしようかと心配だったが、監視用の影で良かった。
王家には影がいるというのは有名な話だった。
リマレシア王妃の派閥とカフィノルア王家は対立しているというビィゼトの判断はこれで確定した。カフィノルア王家はどの派閥にも属していないと言われているが、それは貴族派、王妃派、中立派を上手く操って国を動かしているからだ。
本来中立派だったノビゼル公爵家が、今リマレシア王妃の派閥に繋がってしまっている。カフィノルア王家にとっては痛い状況だろう。
リマレシア王妃の最も強みは実子のナリシュ王太子殿下が立太子したことが大きい。カフィノルア王家としてはリマレシア王妃の実家であるロズノセムテ侯爵家に押されて立太子せざるを得ない状況だったのではとビィゼトは思っている。
王家にとってリマレシア王妃もナリシュ王太子殿下も目の上のたんこぶ。
どちらにも王家の監視がついているのではと予想した。
ナリシュ王太子殿下の為に動いてくれるかは賭けだったが、どうやら対応してくれそうだ。
ビィゼトはふぅ…、と息を吐く。
「お互い親には恵まれないな。」
4,174
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる