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15 主人公は強欲に
しおりを挟むネイニィは勝ったとほくそ笑んだ。
会場となる瑞薔館に入り、ナリシュ王太子殿下とネイニィの名前が会場中に告げられると、ネイニィの中に溢れんばかりの収集欲が満たされる。
何故か殿下の親密度が上がらず困ったが、ポイントを貯めて殿下に使った。本当なら真心クッキーを食べて親密度を上げていける時期なのに、どう考えても食べてくれていない。
だから他の攻略対象者達に真心クッキーを配り食べさせ、殿下にポイントを使うしかなかった。
何故かオリュガの周りにいる攻略対象者との親密度を上げることができず、ネイニィはイライラとしていた。
ニンレネイもビィゼトも親密度ゼロなんて!
なかなか会えないビィゼトなら兎も角、ニンレネイの方は頻繁に会うし、学院に入学してナリシュ王太子殿下の筆頭婚約者候補になった時にはまだ五十パーセントあったはずの親密度が、なんでゼロになるの!?バグだよバグ!
最近では話しかけても外面の笑顔しか返してこない。
まずはナリシュの方をなんとかしようと今は奮闘している。
オリュガから筆頭婚約者候補の地位を奪い取ったまでは良かったのに、そこから動かないナリシュの親密度だったが、ポイントを使ってようやく少し動いた。
今日のダンスは必ず踊らなければならない。公務で休みそうな雰囲気を出したナリシュ王太子殿下に、慌ててポイントを消費するしかなかった。
今六十五パーセント!八十超えでハッピーエンドではあるけど、九十五パーセントを超えないとネイニィの望むエンディングを迎えられない!
ナリシュの溺愛。
必ず欲しい。
ネイニィはナリシュと踊りながら、ナリシュのステータスを開いた。
ナリシュ・カフィノルア 十八歳
アニナガルテ王国の王太子
男性アルファ
プラチナブランドの髪 群青色の瞳
少し甘い爽やかな香り
紅茶が好きで茶葉を集めている
親密度六十五
今日のパーティーは必ずナリシュと踊らなければならなかった。でないと発生しないイベントがある。それらを全て熟すために日々テストで満点をとり一位をキープしていったのだ。本当は剣術の授業でも練習試合で勝った方がポイントが貯まるのだが、オリュガに勝てなくなってしまった。何度やっても始めの合図で剣が何処かに飛ばされる。何が起きたのかネイニィには見えない。
それぞれ別の授業でもポイントを貰うことは出来るので、そちらでやってはいるけど、オリュガの選択授業は幅広く、何かとネイニィの邪魔をしていた。
まさかオリュガも転生者でネイニィのようにポイントを集めているのだろうかと勘繰ったが、見ている限りそうは見えなかった。
ネイニィはナリシュと踊りながら今後の予定を考えていた。
今日の夜会は親密度が六十五を超えていないとナリシュは公用で欠席だった。その場合は次に親密度が高いアルファと出席となる。
ネイニィは王族と共に会場入りが出来なくなり、隠しキャラと会うことが出来なくなるところだった。
だからナリシュにポイントを使った。
あ~、それにしてもいい匂い。
ゲームでは嗅覚の再現まではされていなかった。キャラ達のセリフだけで想像していたのだが、みんなそれぞれ違う匂いがする。
ナリシュ王太子殿下の匂いはスッと爽やかなのにちょっと甘い匂いがする。近いのは果物の匂いかなと思っている。なんの匂いだろうと不思議になるが、これだとハッキリ言えるものがなかった。
でもずっと嗅いでいたい。
すぐ目の前には王族専用の式典用の服を着たナリシュ王太子殿下が、ネイニィの手と腰を支えて踊っている。ネイニィの瞳の色と同じ明るい緑で統一されたナリシュとナリシュの群青色を纏ったネイニィはお似合いだと思う。。プラチナブロンドは天井の大きなシャンデリアの光を浴びてキラキラと輝き、ほんのり口角を上げた微笑みが美しい。
ネイニィの王子様!
去年は邪魔な悪役令息のファーストダンスを邪魔してやり、ネイニィは見事踊ることが出来た。今年もネイニィの一人勝ちだ。
そう思い悔し涙を流すオリュガを見てやろうと思い踊りながら探すと、オリュガは攻略対象者の一人イゼアル・ロイデナテルと一緒にいた。
あの二人がゲームで関わることはない。
イゼアル・ロイデナテルは侯爵家の嫡男なのだが、厳格な父親に厳しく躾けられた所為か、アルファなのに人の顔色を窺うオドオドとした歳下キャラだった。攻略は簡単で、オリュガの弟ノアトゥナが臆病なイゼアルを下僕のように扱うので、それを助けて優しくすればいいだけという簡単な攻略なのだ。
なのにゲームと違いイゼアルが凄くかっこいい。
常に端然としたアルファで、実業家でお金持ち。次期侯爵として期待が大きく、学業も常にトップを走っている。同じ剣術の授業を見てみれば、鍛えた身体は逞しく、騎士希望のアルファと並んでいる。
誰あれ?直ぐには分からなかった。
兎に角イゼアルも攻略対象者なので近寄ろうとするのに、笑って冷たく弾かれる。その隣には悪役令息のオリュガがいることが多かった。
またオリュガが邪魔をする!
イゼアルのステータス画面でも親密度はゼロのまま。ネイニィのクッキーを渡しても、手に取るのも嫌がるし無理矢理渡しても食べた形跡がない。食べれば親密度が上がるはずだから食べていないのだと思う。
イベントを進めれば上がる親密度なのに、イベントが発生しない。
イベントを熟せなかった時の為の真心クッキーなのに食べてくれない。
もうポイントを使わなくては上がらない。でもポイントは有限だ。使うなら誰かに限定していくしかない。
イゼアルを攻略して番になっても単なる侯爵夫人にしかならないので、番にするつもりはないけど、今のイゼアルなら取り巻きにして侍らせたい。きっと大量のオメガや女どもが悔しがるはず。
ネイニィは優越感を浴びる時が一番気持ちが良かった。
ナリシュ王太子殿下に使ってしまったので大分減ってしまったが、まだ残っている。
王族のダンスが終わり、ナリシュ王太子殿下とネイニィは礼をとって終了した。
ネイニィは殿下の腕を取り、微笑みながら見上げる。殿下の右上にはステータス画面が出ている。ダンスを踊っても六十五という表記は増えないが、ネイニィはダンスの練習をする暇がなかったので仕方がない。ここで上手に踊れば親密度が上がったのだが、なかなか思うように進まない攻略に手間取ってしまったのだ。
「殿下、今日はありがとうございます。殿下とダンスを踊れるなんて夢のようです。」
ネイニィは微笑みポイントを使う。
『ポイントを使用しますか?』
勿論「はい」だ。いちいち確認のコマンドを出さないで欲しい。面倒臭い。ポイントの数値を上げていく。あまり使えないから五だけ……。
ナリシュの親密度が七十になり、ネイニィは口角を上げた。
「当たり前だよ。私達はじき婚約者になるのだから。」
「僕達は運命の番ですね。」
「………そうだね。」
ネイニィは満面の笑みを浮かべた。
これで大丈夫。
ナリシュ王太子殿下の言葉に、周りにいた貴族達が騒めく。周りを取り囲み口々に誉めそやす言葉を聞きながら、今日の主役であるデビュタントを踊る若者達よりも注目を集める優越感が快感だった。
暫くその高揚感を味わい、ネイニィはナリシュに話し掛ける。
「ナリシュ様、他の婚約者候補の方と踊らないとなりませんよね?僕、オリュガ様から殿下をとってしまったような気がして申し訳ないのです。次はオリュガ様と踊られてはどうでしょうか?」
ネイニィが提案すると、ナリシュは優しく微笑んだ。
「優しいね。そうだね、遺恨を残してはいけないから他の婚約者候補達とも踊ろうか。」
ネイニィはニコリと笑ってナリシュにエスコートされながらオリュガ達の方へ向かう。
なんとお優しいと言い募る人々に笑顔を振り撒きながら、ネイニィは心の中で愉悦に浸る。
ここまでくればナリシュ王太子殿下はほぼいいなりだ。七十パーセントで恋人になる。ネイニィのことを大切に思うようになってくる。後十パーセントで確定だが、まだ早い。他の目ぼしい攻略者を落としてからにしたい。なにせアルファは支配欲が強いので、これ以上上げると独占欲が増す。そうなると他の攻略対象者に近付けなくなるのだ。
この匙加減が難しい。
だから今日まで上げずにいた。
目の前には怪訝な顔のオリュガとイゼアルがいる。
ネイニィはナリシュの腕に抱き付くようにしがみついて、その腕の陰から二人を覗き見た。
ゲームの攻略について詳しく聞くつもりが、普通に学園のことを話して盛り上がっていると、アルが僕の肩をトントンと指で叩いた。
無言の知らせだ。
アルの視線を追うと、前方からナリシュ王太子殿下とネイニィが近寄って来ていた。
まさか僕にダンスを踊れと言うの?
婚約者候補は殿下から申し込まれると踊らなくてはならない。本来なら喜んで踊るところだろうが、今のオリュガは面倒臭いとしか感じなかった。
「オリュガ・ノビゼル侯爵子息にダンスを申し込んでもいいかな?」
え~~~なんでぇ~~~と内心叫びつつ、喜んでと返事をした。アルにはちょっとここで待っててもらおう。
「あのっ、じゃあイゼアル様には申し訳ないので僕がオリュガ様の代わりに踊りますね!」
突然ネイニィがそう言い放った。
僕はえ?と首を傾げ、アルは一気に無表情になる。
「いえ、本日は私も成人を迎える十六歳の祝いの日にあやかる者です。是非ファーストダンスはパートナーにお願いしたいと思っていますので、どうぞ気にせず他の方と踊られて下さい。」
アルはキッパリ断ってしまった。とても丁寧に断っているけど、他のとこに行けよと言っている。
「そんなこと言わず…、僕はイゼアル様と踊りたいです。」
ネイニィはしつこかった。
「ロイデナテル侯爵子息、折角だからネイニィと踊ってくれないか?」
なんとナリシュ王太子殿下がネイニィに助け舟を出してしまった。王族に言われては断りにくい。
アルは一瞬怪訝な顔をしたが、仕方ないとばかりに頷いた。
「ではよろしくお願いします。」
大丈夫だろうか。アルはネイニィに絶対触れないようにしていた。ダンスでは身体が密着してしまうのに。
「次の曲が始まるから行こうか。」
ナリシュ王太子殿下に促されて僕達はそれぞれペアになり会場の真ん中に進んだ。
ネイニィが得意顔で僕の方を見る。
どうもネイニィは僕に対抗心を燃やしているらしい。もうっ、あちこち面倒臭いなぁと思いつつ、仕方なく位置に着くと殿下にふわりと微笑んで殿下の手に自分の手を添えた。
ナリシュ王太子殿下は背が高い。
こんなに近距離になると見上げなければならないのだが、群青色の瞳を見上げてオリュガはあれ?と首を傾げた。
ナリシュ王太子殿下は相変わらず優しげな微笑みを浮かべている。
「……………?」
はっきりとは言えないけど、何かに違和感を覚えた。
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