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11 宝物庫は宝物だらけ

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 手を繋ぐというエスコート付きで、僕は今宝物庫を歩いている。
 汗をかくから手は離したいんだけど、僕から繋いでおいて王太子殿下の手をこちらから離すのも失礼な気がして離しづらくなってしまった。
 なので仕方なく手を繋いだまま僕は宝物庫を案内されている。
 
「このレクピドの片手剣と双剣金青きんしょうなら、オリュガはどちらを使いたいかな?」
 
 今日のメインである魔法剣の所まで来て立ち止まり、ナリシュ王太子殿下はそう尋ねてきた。

「片手剣と双剣。」

 僕は本気で考える。
 レクピドというのは人名で、まだ若い鍛治師ながらも次々と魔法付与のついた武器や防具を作る有名人が制作したものだ。この片手剣を王家に献上した功績を讃えて子爵位を賜った稀有な人でもある。
 片手剣の刀身は澄んだ銀の色をしている。鏡のように僕の顔を写して輝いていた。柄の部分は全体的に金色で、王家の色を表しているのか青い宝石が散りばめられている。一見装飾用の剣かと思える程華美な剣だが、ちゃんと戦場でも使える実用品だと言われた。
 双剣の方は左右対称のような二本の剣だ。レクピドの片手剣も金と青を使った剣なのに、こっちの方に金青きんしょうと名前がついているのは、その刀身の色合いによる。今は鞘に収められて見えないけど、その刀身は片方は金色に、もう片方は王族の瞳と同じ群青色に光を放つのだという。
 見てみたい。
 でも触れないんだよねぇ。
 立派なその姿を眺めれただけでも良しとしなきゃ。
 僕が双剣をジーとみていると、ナリシュ王太子殿下が小さく笑った。

「そんなに興味がある?」
 
 思わず顔を近付けて覗き込んでいた。ハッと気付いて前屈みになっていた上体を持ち上げる。

「はわわ、すみません。近過ぎましたか?」

「いや、触れてはいなかってし構わないよ。」

 ナリシュ王太子殿下は許してくれた。ホッと息を吐く。応接室で待っている兄上に心配は掛けられないので、こんな所で粗相をしてはダメだ。公爵家に迷惑がかかってしまう。

「学院では双剣は使っていなかったようだけど興味があるのかな?」

 そう言われると僕は双剣を使ったことがないのだと気付く。なんでこんなに惹かれるんだろう。

「えぇ~と、なんとなく。刃が光るのだと聞いてますし、本当かなって。」

 ナリシュ王太子殿下は、ああと頷き徐に剣を手に取った。
 漸く今まで繋がれていたナリシュ王太子殿下の手と僕の手が離れた。
 え?国宝なのに触っていいの?
 双剣は普通の片手剣や長剣より刃が短い。右手と左手にそれぞれ持つので、扱いやすくする為だ。それに片手で一本持つ必要が出てくる為、軽くないと戦えない。なので必然的に刃は短いのだ。
 殿下は片方を手に持ちシュウンと鞘を抜いた。ポワッと金の光が抜けた鞘の跡を引くように光の放物線を描く。
 もう片方の青色を放つであろう剣を渡された。

「え?触ってもいいんですか?」

「内緒だよ。」

 ドキドキしながら剣を受け取る。剣だ~。魔法剣だぁ~。
 ソロリと鞘を抜いた。ポポポ…と群青色の光が明滅する。

「魔力を吸い取って光を放ち敵を屠ると言われているよ。魔力に余裕のある者じゃないと扱えない代物なんだけど、オリュガなら余裕そうだね。」

 わぁ~と笑顔で剣の刀身に出来た刃文はもんを観察する。綺麗だ。この宝物庫には陽の光が入らないよう窓がないので見えにくいが、刃から出る光で十分に美しく波模様を観察することができる。
 この剣の前に到着するまで、王家の宝物庫には様々な芸術品や貴重品が並んでいたけど、この双剣が一番綺麗だと思えた。
 金の方の剣も渡してくれたので、僕は飽きるまでその剣を眺めていた。応接室のニンレネイ兄上のことを忘れてしまいそうになった程だ。
 
「ありがとうございます。こんな綺麗な剣初めて見ました。」

 丁寧に鞘に収めてお返しする。

「喜んでくれたようで良かったよ。」

 ナリシュ王太子殿下は双剣を受け取って元の場所に戻した。
 あ、やっぱり宝物庫の剣じゃないよね~と僕は安堵した。もし貰ったりでもしたら、二人の兄上に怒られそうだ。


 そして後日僕が飽きるほど眺めていた双剣金青きんしょうが贈り届けられ、僕達はあんぐりと口を開けたのだった。
 ビィゼト兄上に確認するんじゃなかったの!?








 僕は学院でコソコソと隠れていた。
 そして一年生棟の近くでアルを待つ。しかし見つからない。ノアトゥナに朝から呼び出しを頼んどくべきだったかなぁと後悔する。いつもはアルから見つけてくるので、僕から探したことはなかったのだ。こうなるとアルがどうやって僕を見つけているのか不思議になってくる。
 休み時間の度に一年生棟に足を運んでいるので、かなりの時間ロスだ。
 一年生棟の外にあるベンチでうう~と唸っていると、ザッザッと足音が近付いてきた。

「隊長、こんな所で何してるんですか?」
 
 サラサラ黒髪ストレート美男子が目の前で呆れたように立っていた。

「あっ!アルゥ~~~、良かったぁ~漸くつかまった!」

 感無量だよぉ!
 感動のあまり抱き付くと、アルは軽々と僕を抱き留めた。体格差あるからね。僕の方がどうしても細い。
 
「やだっ!ノビゼル公爵家のオメガ兄の方よ……!」

「私達のアル様をっ!」

 何やらコソコソ声がする。アルの後ろを覗き込むと、ベータ女子と思わしき貴族女子生徒達と、オメガ女子と思わしき貴族女子生徒が群がっていた。
 おおぅ………!凄い………。
 来ない方が良かったかな。ちょっと後悔した。

「君達は席を外してくれるかな?私は話があるからここで失礼したいんだけど。」

 アルはスパッと彼女達を切り捨てていた。お前なんでモテるの?アルファだから?
 アルの冷たい対応に彼女達は一瞬怯んだが、僕をキッと睨みつけてお辞儀をして去って行った。そういう礼儀正しい振る舞いがいかにも貴族っぽい。

「通りかかってくれて良かったよ。」

 これで彼女達からまた僕の悪い噂が広まるのだろうかと思いながら、まぁいいかと気楽に構える。今更な気がしてくるしね。

「いえ、隊長の匂いがしたので来てみたんです。彼女達はついてくるなというのに勝手についてくるんですよ。」

 モテる男は大変らしい。

「前世でもモテてたの?」

 アルはまさか!と全否定した。

「それよりもここにはどうして?」

「あ、アルに聞きたいことがあって来たんだぁ。」

 既に今は昼食の休憩時間に入っていたので、アルはテラスで食べようと誘ってきた。僕も昼食はまだだったので一緒にランチボックスを頼んで二人でテラス席の端っこを確保する。
 この学院は貴族が多いので施設は充実している。各所にカフェや休憩所などが沢山あるので場所には困らなかった。強いていうならアルがモテる所為で、空いているはずのテーブル席が埋まっていくことだけだろうか。おかげで近くに座ってコソコソと話さなければならない。
 アルは僕と親密な噂がたっても平気らしく、全くそういうところに頓着しなかった。
 僕はナリシュ王太子殿下とイゼアル・ロイデナテル侯爵子息を両天秤にかけようとしている悪役令息として噂が飛び交っているらしい。ノアトゥナからこの前教えてもらいショックを受けたばかりだ。
 王太子殿下は避けてるのに勝手に来るんだからね?僕の所為じゃない。

「それで話ってなんですか?」

 僕はランチボックスを開けて、フォークでウインナーを刺しながら、うんと頷いて話し出した。

「あのね、この前ナリシュ王太子殿下のご厚意で王城の宝物庫行ったでしょう?」

「ああ、はい。」

 僕はその日見たレクピドの片手剣と双剣金青きんしょうの素晴らしさを、翌日早速アルに自慢していた。

「ウチにね、僕宛に届いたんだよ。双剣金青が。」

 アルは一瞬止まった。そしてプスリと肉のソテーを突き刺す。

「それはナリシュ王太子殿下から?」

「うん。」

 二人でモグモグと食べながら話す。お上品にテーブルについて話しているのがなんとなくムズムズする。前にそう言ったら、前世ではテーブルなんてない所で食べてたからでしょうと言われたんだよね。前世の僕って何してたんだろ??

 アルは暫く無言で食べていた。

「それは王家の犬になれという意味ではないですよね?」

「うおっ、やっぱりそういう意味かなぁ?」

 実は双剣金青が届いた時、ビィゼト兄上からも言われたのだ。
 武術にしろ学術にしろ、飛び抜けた才能を持つ者には、貴族なら誰しも援助を惜しみなく与えて手を付けておくようにするのだという。王族も勿論そうやって有能な臣下を増やそうとする。
 これが平民なら学院の学費とか純粋にお金や給金、爵位なんかを手っ取り早くやって唾つけとくのだという。カフィノルア王族のモンだよーってことで。
 でも僕はノビゼル公爵家の三男坊。しかも将来的には公爵家が持っている伯爵家の爵位を譲り受ける予定だった。僕にはお金も地位もいらない。ないのは栄誉だけだけど、これはどうしようもないしね?前までは筆頭婚約者候補だったからカフィノルア王家が手を付けている状態だったけど、今は単なる婚約者候補に格下げになっている。一度落としたものを再度上げにくいから、手から離れないように国宝を渡してきたのではとビィゼト兄上は説明してくれた。

「僕は魔法剣にそんな意味があるなんて知らなかったんだ。」

 だから兄上達は安易に受け取るなと言ってたんだろう。

「王家は何か言ってきてるんですか?」

「んーん、特には。これで励むように的な手紙ならナリシュ王太子殿下から添えられてたけど。」

「励むように…。」

 この前の合同練習で目をつけられたのではというのがノビゼル公爵家の意見だ。何か有事があった際、もしかしたら僕は出なきゃかもしれない。
 そうアルに言うと、アルはとんでもない!と目を見張った。

「隊長は今、オメガなんですよ?」

 僕達の会話はコソコソと進む。

「でもこの前発情期でも動き回れるの見せちゃったし……。」

「はぁ~、隊長迂闊ですね。」

 うう、まさかそんなことになるなんて思ってなかったもん。

「今のところ何も言ってきていないなら無視ですかね?なるべく関わらないようにして、今度からはそれとなく全て断るしかないですよ?」

 ビィゼト兄上達と同じことを言われてしまった。

「オメガって辛い。」

「いえ、オメガとかこれには性別関係ありませんよ?」

 分かってるよ!







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