9 / 22
9 魔法剣に釣られる僕
しおりを挟む「隊長。」
僕は今二年生棟にいる。授業と授業の合間の移動中に、僕を呼び止める声がした。
「あ、アルも魔法詠唱学だっけ?」
僕は一年時の単位を片っ端から落としている。なので一年時に取っておくべきだった単位も選択し、授業を詰めに詰めてビッシリと毎日受講している途中だ。取れないやつは教師陣に頼み込んで放課後取らせてもらったり、レポート提出で取らせてもらったりと忙しい。
「はい。」
そんなわけで一年生のアルとも授業が被っていたりして、そんな時は毎回アルは僕のもとへやって来ていた。
ロイデナテル侯爵子息が何故か悪名高いオリュガを「隊長」呼びする為、その度に近くにいた生徒達は怪訝な顔をするのだが、アルは全くそんなことに頓着しない。
そして僕もついつい「アル」と呼んでしまう為、最近ではそれが普通になりつつあった。
授業が終わり時間が合えばそのまま二人で昼食を摂りに行くこともある。
そしてそんな時は必ずこの人がやって来るようになった。
「また二人で食べているのかい?」
ナリシュ王太子殿下だ。キラキラと輝くプラチナブロンドに群青色の瞳の王子様姿は、いつ見ても眩しい。
学院ではいくら平等を謳っていても、王族相手にそんな不敬な態度ではいられない。卒業したら僕達は未来の国王となるナリシュ王太子殿下の臣下だもんね。
僕とアルは立ち上がり礼をとった。
殿下はそんな生徒達の態度にも慣れているので、手を上げるだけで構わないと示して見せる。
「オリュガがそんな態度を取るようになったのも、筆頭婚約者候補から外れたからかな?」
何を今更?
そう思いつつも、僕はニコリと笑って見せる。
筆頭婚約者候補から外れてたんなる婚約者候補になった場合は、他家の子息子女と婚約が可能になる。拘束力を持つのは筆頭婚約者候補のみなので、僕は新たなる婚約者というか、番候補を探さなくてはならない。
今のところビィゼト兄上という大きな壁の所為で全く見つかっていないけど。
それに殿下がこう言うのにも理由がある。僕は筆頭婚約者候補だった時、ナリシュ王太子殿下を見かければ走って行って抱きついていた。腕に手を回し、自分のフェロモンの匂いが付けとばかりにすり寄っていたのだ。筆頭婚約者候補から外れた後、ニンレネイ兄上から聞いたのだけど、ナリシュ王太子殿下は着替えを学院に数枚用意しておいて、僕が匂いを擦り付けた後は着替えていたらしい。
それを聞いて僕は「おおぅ。」と変な声を出してしまった。そんなに嫌だったのなら言ってくれたらよかったのに。いや、言っても前の僕ならやめなかったかな。
そんなに嫌がっていた僕に何の用があるのか、前世の記憶を取り戻して以降はよく声をかけて来るようになった。
ナリシュ王太子殿下の後ろでは、側近のニンレネイ兄上がスンとした顔をしている。変な顔。
「ナリシュ様っ、あちらのテーブルに行きましょう?」
現筆頭婚約者候補のネイニィが、必死に縋り付いて向こう側の離れたテーブルを指差す。しかも何故かアルの方を向いて、アルも一緒に行こうと言い出した。
アルの顔もスンとなる。その顔伝染するの?
「私はオリュガ先輩に用がありますので。」
サクッとアルは断っていた。アルのお家であるロイデナテル侯爵家は、国の中でも力が強い。重鎮揃いの貴族派の中でもリーダー的立場なので、カフィノルア王家といえども軽い扱いが出来ない。
ネイニィは王太子殿下の筆頭婚約者候補とはいえ、まだあくまで候補であり、たんなる男爵家の子息。アルに対して強く言える立場でない。
「え?でも、オリュガに無理矢理付き合わされているんですよね?」
なんでそうなるのかな?しかも公爵家の子息を単なる男爵家の子息が呼び捨てにしていいと思っているのかな?
アルが小さく薄く笑った。殿下達一行が来てからアルはずっと貴族の顔をしている。表情が読めない顔だ。
「いえ?私は先輩と仲良くさせて頂いておりますよ。」
貴族の顔の時のアルは、自分のことを俺とは言わずに私と言う。一つ下とは思えない堂々としたアルに、ネイニィは一瞬怯んだ。
「是非私も仲間に入れてもらいたいものだね。」
ナリシュ王太子殿下の群青色の瞳がキラリと光った気がした。
「このテーブルは二人掛けです。」
アルは殿下より二つ下とは思えない態度で断っている。相手が王族で未来の陛下だとちゃんと分かってるよね?
「え、ええっと皆んなで座りましょう。あちらのテーブルなら全員座れますので。な?オリュガ!」
ニンレネイ兄上が僕の顔を必死に見て来る。ウンと頷いて欲しいと目で語り掛けてくる。
「……………。」
え?僕はネイニィと食べたくないんだけど。そう顔に出して目で返事したけど、ニンレネイ兄上の目はお願い!と言っていた。
仕方なく頷く。
最近ニンレネイ兄上とのアイコンタクトの練度が上がっている気がする。
その無言のやり取りを見ていたナリシュ王太子殿下が、僕を見て餌をばら撒いた。
「以前合同練習の時に言っていた魔法剣のことで話したいことがあるんだよ。ほら、合同練習ではオメガの部ではオリュガが優勝したのに倒れたから賞品を貰っていなかっただろう?魔法剣はどうかなと思うんだ。」
え?賞品に魔法剣とか破格なんですけど!?
アルファの部門では案の定ナリシュ王太子殿下が優勝していた。ニンレネイ兄上は途中敗退だったけどね。殿下は優勝賞品は毎年辞退している。
「魔法剣!」
僕は飛びついた。
アルがすぐ近くで溜息を吐いたけど、ごめん、僕はその剣を楽しみに待っていたのだ。
アルの方を見て、今度はアルに目で訴える。アルはどうぞと頷いた。
「行きましょう。是非聞きましょう。」
なんでか殿下が僕に手を出してくるので、よく分からずに僕は手を乗せた。軽く引かれてテーブルに誘導される。あれ?これエスコートってやつじゃない?
ニンレネイ兄上の顔が変なことになっている。ネイニィなんて可愛い顔が般若みたいだ。
「あっ、オリュガ兄上っ、なんで殿下にエスコートさてれるんですか!?」
一年生棟から走ってきたノアトゥナが、そんな僕達を発見して大声で叫ぶもんだから、カフェテラスにいた全員から注目されてしまった。
お前、どういうつもりかな?
僕が笑顔で睨むとノアトゥナがマズイという顔をして、ニンレネイ兄上の後ろに隠れてしまった。
アルは溜息を吐いているし、ナリシュ王太子殿下は何故か微笑んでるし、混沌としている。
「あ~、とりあえず魔法剣の話し聞きたいです。」
「そうだね。じゃあ座ろうか。」
僕は殿下の隣に誘導された。
昼食は殿下の目配せで次々と運ばれて来る。王族専用の部屋があるのになんで態々殿下はここに来るのだろう。一応貴族専用のカフェテラスではあるけど、下位貴族もいるので王族と上流貴族は個別の部屋が用意されている。
下々の様子が見たいんだろうか?それとも男爵家出身のネイニィに合わせて?そうかもしれないなと納得する。僕が筆頭婚約者候補だった時は個別の部屋で食べてたしね。そして僕は許可がないと同じ部屋で食べれなかったんだよね。
うん、ネイニィのためなんだろうね。うんうん、と僕は一人納得した。
昼食を食べながら、ナリシュ王太子殿下から王城にいくつか置いているから見に来るよう言われて、僕は嬉々として日程を相談したのだった。
当日のうちに王城から正式に招待の手紙が届いた。
早すぎるよねぇ。
「……魔法剣が欲しいのなら言えば私が用意したのに。」
ビィゼト兄上が本日もぐぬぬと唸りながらそう言った。
王族からの招待状を断ることは出来ない。それが悔しくて仕方ないらしい。
「王家所有の魔法剣が見れるかもしれないんですよぉ。是非見たいです。貰えるかは分からないですけど、きっと王家のコネと財産を使って別の立派な剣が用意されているはずですよ。どんな剣だろう~。」
僕はワクワクと胸を高鳴らせて兄上に話し掛けた。
魔法剣はそうそう用意できる剣ではない。作るにしても物凄い手間暇とお金がかかるので、国内でも数える程度しかないと聞いている。
兄上は用意したのにと言うが、いくらうちが公爵家とはいえ、そう簡単に用意出来ないと思う。なのでくれると言うのなら貰っておきたい。
それに本気で貰えるとは思っていない。国内に数本しかない魔法剣なんだから、多分これはやれないからこの立派な剣をあげようってお土産に剣をくれるはず。
「そんなお土産のお菓子を貰うみたいに剣をくれるのか?」
「王家所有の魔法剣と言えば、レクピドの片手剣とか、王家の色として知られる双剣金青とか有名ですよね。」
ニンレネイ兄上はナリシュ王太子殿下の側近として王家の知識も豊富だ。他にも盾やら弓やら色々な武器を王家は所有保管しているらしい。
普通は宝物庫には王族以外入れないのだが、特別に見せてくれるんだって招待状には書いてあった。
僕は貴重なお宝を見れることに純粋に楽しみにしていたけど、兄上達は心配事があるようだった。
「そんな心配しなくても迂闊な契約とかしないよ?」
ビィゼト兄上とニンレネイ兄上は僕の言葉は信じきれなかったようで、どうかなぁと顔を見合わせていた。
「お前が殿下のことを好きだったようだから言わなかったけど、あの方は利己的な方なんだ。」
「そうだぞ。番になって王宮の奥で贅沢に暮らせればと思ったから筆頭婚約者候補でも納得出来ていたが、利用されるだけの関係はお前の幸せにはならない。王太子は優しげに見えて非情な方なんだ。王族としては正しい姿なんだがな。」
ニンレネイ兄上は自分の上司を利己的と言うし、ビィゼト兄上は未来の国王陛下を利用するだけ利用する非情な人間だと言っている。
これって不敬にならないのかな?
僕が気をつけるよ~と軽く返事すると、当日はニンレネイ兄上がついてきてくれることになった。
3,170
お気に入りに追加
4,014
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします
槿 資紀
BL
傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。
自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。
そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。
しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。
さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。
リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。
それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。
リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。
愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。
今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。
いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。
推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。
不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話
かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた?
転生先には優しい母と優しい父。そして...
おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、
え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!?
優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!!
▼▼▼▼
『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』
ん?
仲良くなるはずが、それ以上な気が...。
...まあ兄様が嬉しそうだからいいか!
またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。
伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜
にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。
そこが俺の全て。
聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。
そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。
11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。
だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。
逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。
彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる