悪役令息が戦闘狂オメガに転向したら王太子殿下に執着されました

黄金 

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3 あっという間に二年生だよ

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 僕が前世を思い出してから数ヶ月経ちました!
 僕は無事進級して二年生になれたよ。僕の一年生時の成績じゃ進級は危ぶまれたけど、ニンレネイ兄上のカテキョのおかげでなんとかなりましたぁ。

 僕が二年生棟の二階から階下の庭園を眺めていると、キャッキャと楽しげな笑い声が響いてくる。
 お~、ネイニィとその取り巻き達が楽しげに歩いている。
 ここやっぱBのLがつくオメガバース仕様恋愛ゲームじゃなかろうか。
 主人公はネイニィだ。男爵子息だしね。攻略対象者はナリシュ王太子殿下以下騎士団長子息と宰相子息、お色気担当の保健医と、公爵家子息のニンレネイ兄上。年下枠は…いない?後はどんなのがくるかなぁ。他国の王族とか隠しキャラでよくあるよね。
 てか保健医がなんで学生と戯れてるんだよ。明らかに年齢層違うでしょうに。
 僕が悪役令息枠かと思ってあの集団に寄りつかないようにしてたんだけど、なんと僕の一つ下の弟が頑張ってくれている。
 僕の弟の名前はノアトゥナ・ノビゼル。学院に入学したばかりの一年生だ。僕の髪は薄い茶色なんだけど、ノアトゥナは茶髪というより薄い金髪っぽい髪をしている。
 僕達は四兄弟で、皆んな同じ緋色の瞳をしている。公爵家特有の瞳の色だ。
 カタンと窓を少し開けて外の様子を見ることにした。

「ナリシュ殿下っ!僕も一緒にお昼ご飯食べてもいいですか?」

 ノアトゥナが果敢にもナリシュ殿下の服に縋り付いている。ノアトゥナも僕と同じオメガだ。小柄な身体に愛らしい顔立ちは僕よりも可愛いんじゃないだろうか。入学早々他のアルファから声がかかっているけど、今ノアトゥナはナリシュ殿下に夢中だ。

「ノアトゥナ、殿下に失礼だよ。」

「ニンレネイ兄上は黙っていて!」

 頬を膨らませてプンと怒る姿も愛らしい。

「カフェテラスで食べるから来るといい。」

 柔らかく殿下は許可してくださるが、本来なら不敬だ。側近のニンレネイ兄上の弟であり、国で唯一の公爵家の子息だから寛大に許可してくださるのだろう。
 そうか、今日は皆んなでカフェテラスに行くのか。
 残念…。あ、残念というのはナリシュ王太子殿下に対するものではない。ニンレネイ兄上に対してだ。
 今日は学年一斉小テストの日だった。抜き打ちでそのうちあるよとニンレネイ兄上からの情報で、密かに僕は勉強した。
 そして昼食前には返された答案と順位発表の結果をニンレネイ兄上に報告するつもりだった。
 しょうがない。帰ってからにしよう。
 そう思って開けた窓を閉めようと手を伸ばすと、ニンレネイ兄上が何故か上を見上げた。
 はたと兄上と目が合う。
 僕が首を傾げると、少し口角を上げてちょいちょいと手招きしてきた。
 ゲゲッ、まさかあのメンバーでの昼食会に僕も参加しろと?ヤダヤダと首を振る。
 その無言のやり取りをナリシュ王太子殿下に見つかってしまった。
 再度内心ゲゲッと思いながらも、見つかっておいて隠れるわけにはいかない。それこそ不敬だ。二階にいる為殿下が見上げることになってしまうが、失礼にならないよう頭を下げる。
 ナリシュ王太子殿下はニンレネイ兄上に何か話していた。そのまま皆んなを連れてカフェテラスの方へ去って行ったが、ニンレネイ兄上はその場に残っていた。

「オリュガも来るように言われたぞ。」

「ええっ、めんどくさい!」

 大きな声で拒否する。
 やだよー。だって小テストはネイニィも受けているのだ。張り出された順位で一番は勿論ネイニィだった。僕は三十二番だよ。これでもすっごく頑張った方。だって僕が前世の記憶取り戻した時、僕の成績は最下層だったのだ。ニンレネイ兄上が家庭教師を申し出てくれて、幼児教育から一般常識に進み、漸く最近年相応の学習についてこれるようになったのだ。前世の知識はあっても、この世界の学問は全く違う為、勉強はとても大変だった。
 王都にあるこの学院の一学年にはだいたい三百人程度が在籍している為、ななかなか頑張った方だと思う。
 学院には平民でもアルファやベータの優秀な人が入ってくるので、平均的に頭のいい人達が多く在籍している。平民出身のオメガは残念ながら少数だ。来たくない子や家が出してあげない子、もしくは貧しくて………、という子は来れない。平民には学費免除という特別枠もあるのに、アルファやベータの子には活用されてもオメガの子にまでなかなかその枠は回らなかった。

 嫌がる僕をニンレネイ兄上は二年生棟まで迎えに来て、引きずられるようにカフェテラスに連れて行かれてしまった。
 
「やあ、オリュガ久しぶりだね。」

「お久しぶりです、ナリシュ王太子殿下。」

 僕の挨拶にナリシュ殿下は穏やかに微笑む。前世を思い出す前はこの微笑み好きだったけど、今はこの笑顔苦手なんだよねぇ。目が笑ってないような気がしてならない。

「オリュガ兄上も来たのですか?」

「そうだよ。あ、その席はどうぞ。」

 ノアトゥナとネイニィはナリシュ王太子殿下を挟んで左右に座っていた。
 僕はニンレネイ兄上に用があるので、兄上の手を取って隣のテーブルに移動する。
 学年一位のネイニィの前で三十二番だと恥を晒したくない。それを理解しているニンレネイ兄上は、大人しく僕に手を引かれてついて来てくれた。
 最近僕はニンレネイ兄上と仲がいいのだ。

「兄上聞いて下さいっ。僕三十二番でしたよ。」

 席に着くなりコソコソと報告する。

「そうか。よくやった。頑張ったな。」

 よしよしと頭を撫でて褒めてくれるニンレネイ兄上。最近の兄上は僕の扱いを心得ている。僕は褒められたら伸びる子なんだ!

「そうか、オリュガは三十二番だったんだね。」

 ビクゥと肩を揺らして驚いた。柔らかな低音ボイスはナリシュ王太子殿下のものだ。しかも耳元。

「オリュガ様は最近頑張られているんですよね。」

 ナリシュ王太子殿下にくっついて、ネイニィまで来てしまった。ああ、聞かれたくなかったのに。学年一位様は余裕の笑顔で僕の学力を見下してくれた。
 なんか最近ネイニィのあたりがキツイ。
 それもナリシュ王太子殿下がやたらと僕に話しかけてくる所為だ。
 僕は避けているのに、なんでか見つかる。

「そう言わないでやってくれ。この数ヶ月で目覚ましい努力なんだ。」

 ニンレネイ兄上のフォローは優しい。
 これはあれだ。悪役令息だけど転生したら前世を思い出して、嫌われからの愛されに転換されるという現象なのだ。
 僕は一人でウンウンと頷き納得した。

「またオリュガ兄上が変なこと考えてるよ。」

 ノアトゥナも寄ってきて何か言っているが、最近ノアトゥナとも話す様になってきた。共通の敵がいる為どうやら僕と親近感が湧くらしい。敵とはネイニィのことだ。
 ノアトゥナは前世を思い出す前の僕と割と同類だ。ナリシュ王太子殿下が好きで、用もないのについて回る。勉強は嫌いで魔力はあるのに練習は嫌い。なので下手くそだ。
 それでも顔はすごぶる可愛い。
 
「オリュガ様は魔法もかなり上達されたんですよね。」

 ネイニィはまだまだ僕を貶めたいようだ。
 主人公のくせに性格悪いよね。相手を褒めていると見せかけての見下しが常だ。
 
「いえいえそれほどでもぉ~。」

 僕はニコニコニコ~と笑った。秘技笑顔で流そう作戦だ。
 王太子殿下が僕の横にさりげなく座ってしまった為、ゾロゾロと皆んな移動してきてしまった。二人掛けテーブルに行くべきだった。自分の爪の甘さを呪いたい。
 ノアトゥナはニンレネイ兄上が僕の隣の席を譲って座らせた為、ナリシュ王太子殿下の反対隣には当たり前のようにネイニィが座った。

「来週下級生を交えた合同練習があるね。」

 殿下の言った合同練習とは、入ったばかりの一年生に今後の方針を決めさせる指針となる様に、上級生が模擬試合をするものだ。
 一対一で勝った人間が上に上がっていくトーナメント式。勝てばご褒美付きだ。毎年行われるこの合同練習での褒美は何かしらの魔導具が貰えるので、頑張る生徒も多い。
 僕は去年一年生だったので、ナリシュ王太子殿下やニンレネイ兄上の試合を見ていた。今年は試合をする側だ。去年は当然のようにナリシュ王太子殿下が勝っていた。騎士団長の息子に余裕で王太子が勝つとか、未来の騎士団は大丈夫なんだろうか。ここがBL恋愛ゲームかもしれない世界だからそれで良いのかなぁ?
 秋には一年生を交えて模擬戦もあるので、一年生も自分が学びたい内容を決める為に、この合同練習に対する興味は強い。

 合同練習かぁ~と空を見上げる。
 一年生の秋に行われた模擬戦では、僕は戦いたくなくてずっと後方にいた。ビィゼト兄上に戦いたくないと我儘を言って、兄上がお金をちらつかせて一緒に班を作ってくれる人間を集めてくれたのを思い出す。
 貴族でも三番目以下はお金をかけてもらえない家も結構あるので、そんなところの子供や、平民で現金が欲しい人を集めて僕と組ませたのだ。お陰で模擬戦地の安全な端っこでお茶を飲んで過ごして終わらせることができた。ま、そのおかげで留年の危機に陥ったわけだけどね。

「楽しみです。」

 ネイニィが殿下ににっこりと微笑む。三年生の殿下もこれには参加する。ナリシュ殿下は文武両道だ。剣も魔法も幼い頃から鍛え、学生の中では勝てる者はいない。

「ネイニィの実力も見れるね。」

 三年生はナリシュ王太子殿下がまた勝ち上がるのだろうか。オメガはオメガとしか試合をしないので、二年生オメガの優勝はネイニィだろうと誰でも思っている。
 殿下がネイニィに頑張る様に声をかけると、ネイニィは可愛らしくはにかんでいた。

「オリュガも出るのかな?期待しているよ。」

 何を期待するんだろう?

「はぁ……、努力します~。」

 よく分からんが笑顔で応えておこう。それに来週はちょっと時期が良くないんだよねぇ。
 ナリシュ王太子殿下の顔も見ずに空を見上げて、ボンヤリと来週のことを考えた。






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