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71 クリスマスの夜
しおりを挟む十二月のイベントに識達が明け暮れる中、楓もたまに参加しながらウィルスの存在を確認していた。
識ことファントムから徐々に大きくなっていると聞き、どうやって楓の情報を取り出せばいいのかレクチャーを受ける。
飛び道具は何が得意かと聞かれ、投げナイフだと答えると、本当に投げナイフを渡された。
「これ投げて刺さればいいから。」
このナイフ自体に、ウィルスに侵入し目的のデータを取り出すようプログラミングしていると識は言った。
「ありがとうございます。」
「君が出てきたら直ぐにバクごと消すからね。」
識は概ね楓に協力的だった。
こうやって話していても、仁彩の親なのだなと感じてしまう程、善良だ。その能力は全く無害では無いが、この人の穏やかさに仁彩と共通のものを感じた。
ツキ達は特にやる事もないのでイベントを楽しんでいた。
ジンに白い羽をつけると意気込むツキに付き合わされて、アゲハとミツカゼもポイント集めに余念がない。
楓は本垢しかないので、もし負傷して本体に影響が出ても困るからと、あまり戦闘に参加していない。
ジンとアゲハから、サブ垢分のデータ容量が戻ったら一緒に遊ぼうねと誘われている。
本当にそうなったらいいなと考えている。
楓は今八尋を二体持っている。湊は三体の筈だ。
八尋が最後の一体になった時、楓の運命は決まる。
湊はこのウィルスに八尋を取り込ませるつもりだろうが、久我見家は理解していない。
八尋がどう言う存在なのかを。
最後の一体になった時、どうなるかを。
上手く思い描いた通りに行くかは分からない。
うまく行かなかった時は、楓が楓で無くなるだけだ。もしくは、死か…。
あの日、小さな楓は決意した。
『僕の代わりを用意する。僕はオメガだから、アルファの身体を。』
『私はアルファやオメガに拘りはない。』
『発情期は邪魔だと思うよ。それに現実では立場や性別で計る人間は沢山いる。』
『いいだろう。では、納得できるるものを用意してもらおう。』
小さな楓は交渉した。生きながらえる為に、楓が楓として生きていく為に。
「必ず成功させる。」
そして自分は友達も欲しい人も、その先の未来も手に入れるのだ。
楓は遠くに見えるバグの霞を見つめた。
通常、普通のユーザーには見えないよう隠蔽されている。
あの中にいるウィルスは、今、識の誘導によって指定の場所に移動している。
大きめの空間を使って多少の衝撃に耐えられる場所を、識は用意してくれていた。
そうしておかないと『another stairs』の仮想空間に大きな欠損が出来てしまい、一時配信停止になる可能性があるからだ。
さあ、早く来い。
そして湊に引導を渡してやる。
法村は何故クリスマスイブに忘年会をやる必要があるのかと、ふらふらとよろけながら帰宅した。
法村は教師だが公務員。給料はそこそこ。
だがこんな学生の時から住んでいるボロアパートに居る必要はない。
周囲のこのアパートを知る人間からは、早く引っ越せとよく言われるが、この部屋には思い出があるので、なかなか退去出来ずにいた。
それにもしかしたら、あの小さなカエデが帰ってくるのではと思っていた。
帰ってきた時、法村が居ないと知って、ガッカリするかもしれないと思うと出れずにいたのだ。
まさかあの小さなカエデが、フリフィアの浅木楓とは思っていなかったので、今やこのアパートにしがみつく必要性はないのだが。
ドアに近づくと勝手に施錠が開く。
しこたま飲まされて、危うくベータ女教師にお持ち帰りされるところだった。
まさか何か酒に混入されてないだろうなと思うくらいには、足元が覚束無い。
奥の一間に行くのに三歩で届く短い廊下で、法村はベタリと寝転んだ。
ピンポーン、ピンポーン。
軽快な呼び出し音が鳴る。
こんな時間に誰だと思いつつ、スクリーンを開いて訪問者を確認した。
画面に映るサラサラの黒髪の頭。
法村はガバッと勢いよく起き上がった。
バタバタと慌ててドアを開けると、寒い外に浅木楓が立っていた。
「セン・セ!飲み過ぎですよ~~!」
男子高校生とは思えぬ高めの声が、夜の外通路に響く。
「こ、こら!静かに!」
慌てて楓を中に引っ張り込みドアを閉めた。
閉めてから、あれ、生徒を入れていいんだっけと混乱する。
「わぁ、大胆!センセ~変な薬入れられてたでしょ?」
「な、なんで知ってるんだ!?」
やっぱり何か混ぜられていたのだと知り、法村は慌てた。
「ほら、コレ飲んでよ。少し和らぐから。飲まされたのは、アルファに効く精力剤的なものだよ。発情を促す程じゃないから安心して。」
茶色い瓶に入ったものを渡された。
よく分からないが法村は思い切って飲んでおく。
「苦い……。」
「センセ甘党だもんね。中和剤だから十五分くらいで効いてくるよ。」
感謝してよね!と潤んだ瞳を細めて笑う。
楓は勝手知ったる他人の部屋に上がり込み、ベットに腰掛けた。
普段法村がよからぬ事を致している場所なので、聖職者という背徳感にやや興奮してしまい、ダメダメと邪念を払う。
「………ふっ、ぷくく、センセ、勃ってる。」
言われて下を向いて本当に勃っていて法村は慌てた。
とりあえず正座で座って手近なクッションで隠す。
部屋は一間だし家具があるので狭い。
ベットに座った楓と、正座して座る法村の距離は近かった。
楓の足が法村の膝に乗ってクリクリと刺激を与える。
「………足、小さい…。」
楓は小柄なのでそこら辺の女子より手足も小ぶりだ。身長は女子よりあるかもしれないが、手足も細く、肌は白くて体毛も殆どない。
オメガは基本体型が華奢だ。男性であろうと楓のような体型が多い。
「センセってば、相変わらずだねぇ。」
その言い方に、昔を思い出させる匂いを感じる。法村は楓にあれからどうしていたのか聞きたかった。
生活に困ってなかったのか、家族はいたのか、幸せだったのか。
だが高校で会った楓に、それを尋ねる雰囲気も隙も与えてくれなかった。
「カエデ………。」
思わず呟いた法村に、楓はクスッと笑った。手招きして近寄れと言うと、法村は股間を隠したままモゾモゾする。
「えっ!いや、それはちょっと……。」
まだ法村の法村は鎮まっていない。
「いいからっ。」
膝を擦って楓に近寄ると、もっと来いと言われる。
楓は分かってるだろうに素知らぬフリをしてベットに座って待っていた。
楓の膝下に法村の膝が着くまで近寄らせ、楓は法村の太腿に足の裏を乗せた。
エアコンはタイマーで点けていたが、まだ部屋は温まっていない。
楓の足裏の体温が法村の腿に感じられ、法村は身じろぎした。
「あ……足、あし……。」
顔を赤くして無意識に呟く法村を、楓は見下ろしていた。
スススと足の親指に力を入れて、法村の股間に向かって滑らせていく。クッションの下に簡単に楓の足は入り込み、冷えた足が熱い熱を捉えた。
スリスリとスラックスの布越しに擦ると、あっという間に大きくなり固さを増しガチガチになる。
「ふふふふ。」
「あ………、カエデ……、流石に、痛い…!」
下向きに圧迫されて、法村の身体が丸まろうとするが、目の前には楓が座っている。
楓の膝に縋り付いて、出したいと懇願した。
「カエデ………、出して、いいか?」
「いいよ。」
カチャカチャとベルトを緩めてスラックスを引き下ろすと、勃ち上がった陰茎がボロリと出てくる。
楓は靴下で竿を撫でた。
「あぁ…………。」
はぁはぁと赤い顔で楓の腿に縋り付く法村を、楓が優しく頭を撫でると、法村はその手を取って手のひらに唇を当てた。
ペチャペチャと楓の指を舐める法村は、薬の影響と楓の匂いで我を忘れている。
楓の足の親指が、法村の亀頭の先をグリグリと抉ると、法村の腰が動くので、もう片足も伸ばして陰茎の根本を押さえつけた。
「センセ、動いちゃダメ。」
「ううう、あ゛………むり゛ぃ~~!」
根本を固定され先っぽをグリグリと弄られて、法村は限界に近い。
楓の小さい手を握り締め、指を咥えて舐め回しても、楓は嫌がる事なくさせていた。
ヒクヒクと動く鼓動が、楓の足に感じられ、射精が近いのだと教えてくる。
「イッていいよ。」
「~~~あ゛っ!~~~~~っっっ!」
ビュクビュクと飛び出てくる精が、クッションと床、楓の足を汚していく。
はぁはぁと荒く息を吐き出す法村は、吐き出した快感で焦点があっていない。
「………ん、上手く抜けたかな?発情まではいってないみたいだね。」
汚れていない方の手で、法村の耳朶を確認した。
酔っ払っている上に射精したので上手く頭が回らないが、どうやら楓は法村の薬を抜くのを手伝ってくれたらしい。
やり方はアレだが、寧ろ法村は興奮してしまった。
「カエデ、もう一回…………!」
ギュウと抱き締めて懇願すると、ペチンとおでこを叩かれる。
「こらっ!教職員!」
「ううう………。」
いいから濡れタオル持ってこいと命令され、法村はタオルを楓に渡して床を掃除した。クッションは洗って使えるだろうか………。
シャワーを浴びてこいと言われるので大人しく身体を洗ってくると、楓はまだ部屋にいた。
いなくなるかと思っていたので、素直に法村が喜ぶと、楓は呆れた顔をした。
楓はベットに座っていた。
履いていたズボンと靴下を脱いで、一緒に洗ってこいと命令する。
そのままズルズルと布団の中に入り込んでしまった。
「はい、もう寝よ~。眠たい。センセーはもう少し警戒心を持とうよ。」
全部洗濯機に放り込んで回して来た法村は、隣に入り込みながら、楓の体温で温まった布団を楽しむ。
「お、あったかい。いや~まさか同じ教職員に薬盛られるとは思わないだろう~?」
まったくもうと怒る楓は可愛らしい。
眺めていると、早く寝ろと怒られた。
もう今日はこれ以上相手はしてくれないらしい。
法村も自分からは手を出すつもりはない。
電気を消して、静かになった部屋に、楓の微かな息遣いが聞こえる。
まるで昔に戻ったようだと思った。
「センセ、来年になったら初詣行こうよ。」
楓が唐突に提案してきた。
「ん?ああっ!行こうか!大晦日から行くか?」
昔も小さなカエデと行ったことがある。
もう五日が過ぎて閑散とした神社に、カエデと行った。
白い息を吐くカエデは楽しそうに鈴緒を引いてカランカランと鳴らして喜んでいた。
その姿も動画で撮っていたのに失くなってしまった。
「大晦日は用事があるから元旦に行こうよ。…………用事が済んで、僕が僕だったら迎えに来るから。」
変な言い方に法村は首を傾げた。
僕が僕とは何のことだろうか。
「………何かあるのか?カエデの立場はあまり分からないけど、無理はするなよ?」
楓は平気…、と小さく返事をする。
楓は法村が伸ばした片手を両手で受け止めた。握り締めて抱え込む。
「平気、大丈夫。だから待っててよ。」
「……………ああ、待ってから………。」
うん、と小さくまた返事をして楓は眠ってしまった。
楓のサラサラの髪を掻き分けて、小さな頭を撫でる。
暫く撫で続けて、法村も眠りについた。
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